間話1.同棲生活
「じゃあ、とりあえずこんなところだね」
「そうだな。後は問題が起き次第、その都度考えよう」
食堂に改装された一階の客間にて、俺たちは夕食を摂りつつ今後の決まり事を会議していた。
メンバーは俺、ルナ、リリィ、マリン、そしてプラム。
……そう、館での同棲生活がとうとう始まるのだ。
幽霊屋敷の一件から数日。
俺たちは代わる代わる館内の掃除や必要な箇所の改装を施していた。
割れた窓や抜けた床の修繕、外壁の塗装はもちろん。
吹き抜けの玄関ホールはみんなでくつろげるスペースへ。
大きな客間は食堂へ。
二階の大部屋はルナ私物を運び込み図書室へ。
調理室、浴室、トイレも使えるように整備した。
そして庭では、リリィのペットであるモークの『リバニス』が番犬ならぬ番牛として館を守っている。
本名は『リリーナバーニングスター』なのだが、イチイチ長いし呼ぶのが恥ずかしいため、略称で勝手に呼んでいる。
「わたくしはまだ自室が整っていませんので、食後は自室を片付けますわ」
「私も」
「アタシもだー」
マリンに同意するルナとリリィ。
「ならば、我が手伝ってやるのじゃ」
喜べ、と笑うプラムと全力で遠慮するマリンたち。
そんな女性陣を見つつ俺は考える。
そもそもルナの部屋に居候していた身だから私物がほとんどない。
とっくに自室の整理は終わっている。
女性の部屋の整理に男の俺が参加するわけにもいかないし、前から気になっていた場所へ行こう。
「それじゃあ、食器を片づけて、今日のところは解散だな」
――
準備を済ませて自室を出る。
「ぎゃぁぁ! それ触んないでって言ったじゃん!」
「す、すまぬ、よかれと……」
「もう他の部屋の手伝いに行ってよ!」
「リリィまで我を……はぁはぁ……」
向かいのリリィの部屋から悲鳴や嬌声が聞こえてくるが、頑張れよと内心で呟いて目的地へ向かう。
目的地、それはこの館の浴場だ。
浴場は俺のいる西棟とは反対側、中央を挟んで東棟の一階にある。
早足で浴場へやってきた俺は、さっさと脱衣室で全裸になる。
脱衣室も広く、3〜4人が同時に着替えても余裕があるほどだ。
一人だと少し寂しいくらいである。
そして浴室。
脱衣室の広さからも想像がつくが、浴室もかなり広い。
数名が一斉に使える洗い場、泳げるほどの湯船。
流石は貴族の別荘だ。
しかし、それだけではない。
俺はルナに頼んである魔道具を開発してもらった。
それは魔力を込めるとお湯を作り出すというものだ。
ルブルでもエルシアでも、風呂は上級貴族のような一部の者しか利用できない贅沢なものであり、平民は水浴びで清潔さを保っている。
女性の中にはそれでは嫌だいう人もいて、そういう人は頑張って湯を沸かし、頭や体の汗を流していた。
それはかなり大変なのだ。
そこで閃いたのが、魔力でお湯を出すことだった。
これを提案した時の女性陣の興奮といったら。
「あなた、まさか天才ですか?」と、マリンまで俺を褒め称えたくらいだ。
原理は意外と簡単だったらしく、それを洗い場に四つ、湯船に一つ用意してもらったのだ。
「くぅーっ! お湯を頭からかぶれるなんて最高だな!」
俺はその魔道具から作ったお湯を浴びつつ、目の荒い布でゴシゴシと体の汗を落としていった。
一通り体を洗い終え、次は湯船だ。
湯船の魔道具も同様で、魔力を込めるだけでどんどん熱々のお湯が生まれ、湯船にお湯が張られていく。
大きな鍋に沸かしたお湯を何度も運び入れ、浅く張った湯船に寝そべるのが本来の風呂なのだが、この魔道具を思いついたおかげでその手間が省けた。
どうせなら深い湯船にのんびり浸かりたいと考え、座った状態で肩まで湯が張れるように改造したのだ。
いい感じにお湯を張り終えたところで問題が発覚した。
どうやら俺の魔力では、湯船いっぱいに湯を張ると魔力切れを起こしてしまうらしい。
ファントムロード戦でマリンが動けなくなったように、俺も湯船の角で座ったまま、動けなくなってしまった。
ど、どうする……?
いや、溺れないように踏ん張ることくらいは、なんとかできている。
せっかく天にも昇るよな心地の湯船だし、回復するまで休むとしようか。
というか、俺ってそんなに魔力は少なかったんだな。
自身の能力に落胆しつつ、俺は熱々の湯船という、人生初の幸せを身に染みるほど堪能することで気を紛らわせていた。
そこへ、
「ひろーい!」
「うむ! 素晴らしいのじゃ!」
「そんなにはしゃいで、子供じゃあるまいし」
「でも楽しみ」
わいわいと、誰かが脱衣室へ入ってきた。
いやいやいや、誰かもクソもない!
この館の女性陣だ!
もう部屋の片付けは終わったのか!?
「プラムがいては片付けが捗りません」
「片付けはまた今度」
プラム邪魔してんじゃねー!
俺は内心でプラムに怒鳴りつつ、この状況は非常にまずいと気付く。
もし俺がいることに気付かず女性陣が入ってこようものなら、変態呼ばわりだけじゃ済まない。
軽くても死刑だ。
俺は慌てて自分の存在をアピールすべく、外にいる四人へ呼び掛けようとして、
「……!?」
声が……出ない!?
俺の喉は魔力切れの影響で、声を発することができなくなっていた。
マジかよ……
いや、まだだ。
脱衣室のカゴには俺の脱いだ服が……
「ん? まだこんなところにゴミが残っておるのじゃ。ちょっと我が捨てて……」
「プラム。そのような格好で館内を歩き回るのはおやめなさい。ハルから舐め回すように視姦されますわ」
「な、舐め回すように……はぁはぁ……と、とりあえず、外に置いておくのじゃ……後で我が責任を持って捨てに……」
いやいやいやいや待て待て待て待てぇ!
何をどうしたら俺の服をゴミと勘違いすんだよこのポンコツ!
確かにパパッと脱いで丸めて入れただけだけど!
それでも服だってことくらいは分かるだろ!?
予想外のポンコツに、さらに焦燥を募らせる俺。
このままでは何も知らないルナたちが、無防備な姿で浴室に……
ドキン!と高鳴る思春期童貞心。
期待と焦燥がぐるぐると巡り、浴室の熱気でのぼせた頭では思考がまとまらない。
「やっほーい!」
そんな中、バンと浴室の扉が開き、リリィが元気よく、全裸で飛び込んできた。
「浴室ではしゃぐと転んでしまいますわ……あれ? 湯気?」
「温かい。湯船にお湯が張ってある」
「きっとハル様が我らのために湯を張ってくれたのじゃな!?」
リリィに続き、ゾロゾロと入ってくる女性陣も特にどこかを隠すことをせず、生まれたままの姿だ。
幸か不幸か。
立ち昇る湯気とのぼせて霞む視界のせいで、みんなの姿がはっきりとは見えない。
はわわわわ!!!!
俺は思わずその場に沈み込んだ。
まずいまずいまずい!
ど、どうする!?
もう逃げられないぞ!?
お湯の出る魔道具に大興奮するみんなの声が、水中にモワモワと響く。
こんな状況でまともな案など思いつくはずもなく、
「流し終わったし、さっそく入ってみるね!」
ザボン!と幼い体が目の前に飛び込んできた。
「まったく、少し落ち着きなさい」
「私も入る」
「我もじゃ!」
そして次々と、白く美しい、それでいて少し火照った薄桃色の肌が、ゆっくりと湯船に侵入してくる。
湯気のない水中の方が、かえってよく見えてしまう。
綺麗な足先、細い足首、引き締まったふくらはぎ、健康的な太もも、キュッとくびれた腰、そして桜色の……
「ブボハッ!!!」
「「「「きゃぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」」」」
遠くで響く悲鳴を聞きつつ、俺は意識はそこで暗転した。
後から聞いた話だが、浴槽のお湯は血で真っ赤に染まり、風呂に水死体が浮かんでいるかのような地獄絵図だったらしい。
そして、脱衣室前の扉に『入浴中』の札をかけるというルールが新たに決まり、俺はマリンとリリィから凄まじい拷問を受けることとなったのだった。
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