10.謎の森迷宮化計画
俺は驚くメンバーに、今考えた内容を説明した。
「この森には危険な魔物が多い。だから人は恐れた。昔、アラーネが森を封印した時みたいに」
「そうみたいですね。今でも森に近い町では、定期的に魔物の掃討依頼が出されています」
元ギルド職員のエリーが、現在の常識を用いて補足してくれる。
「でも、迷宮なら外に魔物が出てくる事はないだろう?」
「はい。迷宮で発生した魔物も、外部から侵入した魔物も、一度迷宮に入った魔物が外へ出てきた例はありません」
よしよし。
やっぱりだ。
「それに迷宮には魔石や魔法具なんかの美味しいリターンがある。森でも魔物を狩れば素材は手に入るけど、それは迷宮でも同じ事だ」
「迷宮探索をメインにしている冒険者は多い」
ルナはうんうんと頷きながら、俺の話に聞き入っている。
「ここが迷宮になれば、町への被害がなくなるどころか、迷宮探索を生業とする探索系冒険者が集まって人が増える。そうすれば町に住む人たちも潤う。ついでに俺たちの店も」
「フハハハハ! 流石なのじゃ!」
高笑いするプラムは分かっているのか、いないのか。
「町も潤う。俺たちも潤う。アラーネも町民から襲われなくなる。一石三鳥の迷宮化計画だ!」
俺は握った拳をグッと突き上げた。
「ダ、迷宮化計画!?」
「そのような事が可能なのですか?」
リリィとマリンが泡を食った顔で言った。
「……確かに、迷宮が発生する要因は全てが解明されている訳ではありません」
エリーが顎に手を当てて俺を見てきた。
「ああ、俺も全部は分かんないよ。俺が知ってるのは一つ。魔力溜まりが魔石に変化して迷宮になる事があるって話だ」
つまりこう言う事だ。
この森には濃い魔力溜まりが複数ある。
それらが魔石化することでこの森が迷宮になればいい。
完璧な作戦だな。
「そしたらアタシも迷宮攻略に挑戦していいのかな?」と、目を輝かせるリリィ。
「素晴らしい作戦」と、尊敬の眼差しのルナ。
「確かにそれなら町に被害は出ませんわね」と、納得して頷くマリン。
「花と迷宮の都ハルジオンですね。支部長に管理を任せれば上手くやってくれるでしょう」と、今後の構想を練り始めるエリー。
「フハハハハ! 流石はハル様じゃ!」と、有頂天のプラム。
みんながこの作戦に乗り気になる。
しかし、そうは思わない子もいたらしい。
「そんなの……無理だよ」
アラーネが両手で服をギュッと握り、俯きながら呟いた。
「確かにこの森の魔力溜まりは、千年の封印で濃度がすごく高いよ。このまま何もしなくても、いずれ魔石になると思う。迷宮っていうのになるかもしれない。でも……それまでどうするの? 魔力が濃いって事は強い魔物や魔獣が生まれやすいって事だよ? ここが迷宮になる前にハルジオンに住んでる人が……襲われちゃうよ」
そこまで言って、アラーネはまた嗚咽を漏らした。
自分の事より、ほんの二ヶ月過ごしただけの町の人の事を案じているのか。
本当にこの子はいい子だ。
この愛すべき少女を、俺は守らなきゃならない。
そう思えた。
俺はまた、アラーネの頭を優しく撫でた。
そして言った。
「大丈夫だ。俺たちに任せろ」
上目遣いで見てくるアラーネに、俺はニカッといい笑顔を見せた。
――
作戦はこうだ。
異変がないかを確認できる機構を残しつつ、森を結界で隔離。
時間が経つと迷宮になる。
俺がそう説明すると、みんなは少し難しい顔をした。
「ねぇねぇ、そんな大きい結界、アンタは張れるの?」
怪訝な顔のリリィ。
「俺は無理だけど……張れないのか?」
俺はマリンに目を向ける。
「わたくし一人では魔力が足りませんわ」
呆れ顔のマリン。
何と言う事だ。
いきなり作戦が頓挫しそうになる。
「私の魔法技術なら、森を覆う事はできる」
ルナがいつもの眠たげな顔で言った。
「できるのか!? なら解決だな!」
「いや、強度が足りない」
「そ、そうなのか……」
ぬか喜びだった。
マリンは強い結界は張れるが、大きさが足りない。
ルナは大きい結界は張れるが、強さが足りない。
……おや?
俺の脳に閃きがあった。
「それなら、二人の結界を合体させればいいんじゃなか?」
「「え?」」
ルナとマリンは驚いた顔を見合わせて、すぐに何やら相談し始めた。
そして、
「できるかもしれませんわ」
マリンが嬉しそうに微笑みながら言う。
「おお! 流石だな! 早速やってみよう!」
俺は歓喜の声で話を進めた。
「待って下さい! 結界で完全に隔離してしまうと、中で異常が発生した時に、対処ができず危険ではありませんか?」
慌てた顔で話を止めたのはエリーだ。
「た、確かに……」
またしてもぬか喜びだ。
「魔力溜まりの状態を安全に確認できるようにすれば良いだけなんじゃないの?」
リリィが首をかしげつつ言う。
その言葉に、またしても脳に電流が走った。
ショートしてしまいそうだ。
「結界の中に小さな結界で通路を作って、そこから中の状態を確認できるようにすればいいんじゃないのか?」
「できる」
ルナはコクリと頷いた。
「なら我とリリィの炎で、通路の明かりを用意じゃ」
「それいいね」
プラムの提案にリリィも乗り気になる。
「では、迷宮になるまでの管理は私たちで行うとして、迷宮出現後の管理をギルドに任せられるよう、私から支部長に直談判しましょう」
エリーも任せて下さいと胸に手を当てて言う。
どんどん話が進んでいく。
そんな俺たちの話を、アラーネは目を丸くしながら聞いていた。
そんなアラーネに、俺はまた笑って言う。
「アラーネ! 安心しろ! 何とかなりそうだ!」
「ハル……お兄ちゃん」
アラーネは目に涙を浮かべ、抱きついてきた。
「ハルお兄ちゃん! アーも、お兄ちゃんと、みんなと一緒に暮らしたい! ずっと一緒にいたい!」
アラーネは己の内に押し込めていた本心を、涙と一緒に吐き出した。
「ああ……任せろ!」
俺はまた頭を撫でながらそう言った。
――
一旦森の外へやってきた俺たちは、森に入った人がいないかを再確認した後、早速作戦に取り掛かった。
「それでは参ります」
「うん」
マリンとルナは頷き合い、二人で考えて構築した結界を発動させた。
広大な森の上空から、まるでオーロラのように。
何層にもなる結界が森を覆った。
言葉にし難い神秘的な光景だった。
本当にこんな大きな結界を作り出すなんて……す、すごいな。
マリンの強力な結界魔法に、ルナの知識を組み込んだオリジナル結界だそうだ。
足りない魔力はルナが魔道具製作で使っている魔晶石を使わせてもらった。
かなり高価な物のはずだから、今度しっかりお礼をしないとな。
「こんな作戦を思いつくなんて、やっぱりハルはすごい」
「いやいや、この結界を作ったルナとマリンの方が全然すごいだろ」
俺がルナにそう返すと、ルナはフイと横を向いて前髪を触っていた。
打ち合わせ通り、結界内部にもいくつか結界で通路を通した。
魔力溜まりがある場所を巡回できるようになっている。
ちなみに、魔力溜まりは全部で5箇所……本当に異常だ。
「次はアタシたちの番だね!」
「見ていて下さいハル様!」
二人は両手を重ねて魔法を発動させる。
リリィの松明より明るい火魔法をプラムの黒炎が覆う。
光量を維持しつつ延焼を防ぐ、素晴らしい光源が生み出された。
これを通路用の結界内に設置していく。
薄暗くて見通しの悪かった通路が、かなり明るくなった。
「これなら管理も簡単だな。二人ともナイスだ」
「ふふん、当然だよ」
「当然なのじゃ」
ドヤ顔で胸を張る二人を見比べ、リリィからグーパンチをいただいた。
――
これで後は待てばいい。
俺たちは清々しい気持ちで店に戻ってきた。
「アーちゃん!」
「ルージュお姉ちゃん!」
店に入るなり、泣きながら抱き合うルージュさんとアラーネ。
二人とも、心から安堵しているのが伝わってくる。
ちょっともらい泣き。
二人で色々と話した後、
「これこらもよろしくね、アーちゃん」
と、嬉し涙を流しながら、ルージュさんは笑顔でそう言った。
「うん……うん!」
アラーネも大粒の涙を流しながら、何度も何度も頷いていた。
「ハルさん! 無事に支部長への根回しも完了しました! ヒカリエとハルジオンの名を取って『ヒカリオンの森』と名付けるそうです!」
店に戻ってきたエリーが、ニコニコしながらそんなことを言った。
ヒ、ヒカリオン、だと?
なんてダサい名前だ。
俺が訂正案を考えようとしたところで、
「いい名前」
ルナが支部長のつけた名前を絶賛した。
そういえば、ルナは何でもかんでもくっつけて名付けるんだったな。
ハルスカリバーの悪夢の再来に、俺は頭が痛くなった。
こうして、ハルジオンの危機は去り、アラーネもヒカリエに帰ってきた。
全て丸く収まったのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「この後一体どうなるのっ……!?」
と思ったら、
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。