7.特Aランク
カオス・スカルの攻撃。
鳥かごのように俺たちを閉じ込めた土の柱に、次々と魔法陣が浮かび上がる。
マズイな……『マナ視の魔眼』では動きの予測はできても、魔法の種類までは判断できない。
そう思って身構えていると、ルナが珍しく大きな声を出した。
大声といっても、俺たちにギリギリ聞こえる程度の声量だが。
「土の矢がくる!」
俺と同じ『マナ視の魔眼』持ちである唯一の人物。
俺はマナ視を動作予測に使っているが、ルナは魔法の知識が豊富であるからか、どんな魔法が使われるのかが分かるようだ。
流石は俺たちのルナだ。
「マリンはエリーを守れ! プラムはリリィと飛んで回避しろ!」
俺の指示に、マリンとプラムは頷き返し、即座に実行する。
「【神聖なる光の陣】」
聖なる結界がマリンとエリーを包み込むように、半球状に張られた。
ファントムロード戦で発動した原因不明の球状結界だったが、マリンはその感覚を掴んでいたのだろう。
この窮地でしっかりとやってのけるとは流石だ。
「リリィ! 振り落とされぬようしっかり掴まるのじゃ!」
「ぎゃぁぁぁぁ!!!」
プラムはフハハと高笑いを上げながら、高速で飛び交う矢をヒラヒラと避けている。
その動きに振り回され涙目になりながらも、必死にプラムの手にしがみつくリリィ。
……流石だ。
「はっ! よっ! うぉっと!」
俺とルナはマナ視をフル活用して回避に専念。
ルナの動きには全く無駄がなく、まるで舞を舞っているような可憐さを感じた。
一方、俺は懸命に目を凝らし、次に何処から矢が飛んでくるかを見極め、ギリギリで避けている。
一歩間違えば貫かれる。
土の矢のサイズは一般的な矢より若干小さいが、速度と硬度を考えるに、当たれば体が弾け飛ぶだろう。
俺はネガティブな考えを振り払い、一心不乱に矢を避けた。
「エリー! 強力なのを一発頼む!」
この場で唯一攻撃に転じられるのは、マリンの結界に守られたエリーだけだ。
エリーは新人冒険者ではあるが、弓の腕は本当にすごい。
それに彼女の弓は……
「はい! いきます! 〈エアリアルショット〉!」
目一杯引き絞られた弓から放たれた矢は、先程とは比べ物にならない速度を伴ってカオス・スカルへ迫った。
エリーの持つ弓は『エアリアルボウ』という魔道具だ。
中級風魔法である【ブラスト】が付与されていて、魔法効果を矢に乗せて放つ事ができる。
弓の腕は一流だったエリーだが、闘気を体や弓矢に込める事ができず、過去に冒険者の道を諦めていたらしい。
俺たちの仲間になった時、戦闘でも役に立ちたいというエリーの願いを受け、我らがルナ先生が立ち上がったのだ。
元々持つ弓の腕前に、矢に魔力を乗せる事ができるようになったエリーは、射手としての才能を開花させた。
エリーが放った強力な魔力の込められた矢は、〈魔力防御〉を破り、今度は弾かれることもなく、カオス・スカルの硬い外皮を見事に貫通した。
「ギィィィィィ!!!」
カオス・スカルは甲高い悲鳴と共に、毒々しい紫色の血を身体から噴き出させた。
凄まじい威力の攻撃だった。
しかし、ダメージを与える事には成功したものの、絶命させるまでには至らなかった。
「すみません! 急所は避けられてしまいました!」
エリーがハッキリと、しかし申し訳なさそうに叫ぶ。
あの速度の攻撃に反応したのか?
ぶっちゃけ、俺には見えなかったんだが……
直後、カオス・スカルの複眼がエリーを捉えたように見えた。
「マリン! 攻撃がくるぞ!」
「光は邪悪から我らをお守りになるだろう。その光は強く、そして眩い神聖なる光。弱き者を救う神光なり。弱き者を邪悪から守る盾にて、御身の威光を示せ……【絶対神域魔法】!」
マリンは俺が叫ぶよりも前から詠唱を始めていた。
俺が指示を出し終わる頃には、先程より強力な結界魔法が発動した。
カオス・スカルは土属性魔法での攻撃に加え、強い酸を含む己の血を振り撒いてエリーを狙う。
しかし、強力な土属性魔法も、全てを溶かす血の雨も、マリンの結界を破ることはできなかった。
結界魔法は面白い。
基本的にどの魔法においても、上位の魔法ほど詠唱は長くなる。
結界魔法も例外ではない。
そこで初級、中級、上級と順に唱えることで、身を守りつつどんどんと防御力を上げる事ができるのだ。
単独だと強敵相手に通用しない方法だが、今みたいなパーティー戦であれば、攻撃を受けるターゲットを変えている間に詠唱し、安全地帯を作り出す事ができる。
今使った結界魔法は上級魔法だ。
効果の程は今見た通り。
二人の無事を確認した俺は、続いてルナに声をかける。
「ルナ! 俺を風魔法で飛ばしてくれ!」
ターゲットがエリーたちに向いた今、次は俺たちが動く番だ。
ルナは小さく頷くと、片手を振り上げた。
「【風華竜巻魔法】」
ルナの生み出した竜巻は、俺が足元に生成した固い氷の足場ごと、上空へと押し上げた。
「うぉぉぉぉぉぉおおおお!!!」
上昇する力を剣に乗せ、カオス・スカルへと斬りかかる。
ここで俺は最近習得した新技を使用する。
先日のキングサーペント戦において、俺は飛ばしたマナを指定の位置で魔法へと変化させるという原理を理解した。
俺はマリンにマナを流し込んだ感覚を応用し、剣に闘気ではなく自身のマナをそのまま流し込み、そのマナを魔法へと変化させた。
剣に纏わせるのは、初級風魔法【ウィンド】。
俺の魔法に加え、ルナの竜巻による回転力が乗った剣は、カオス・スカルの強固で強靭な胴を両断した。
本当は頭からの真っ二つを狙った攻撃だったのだが、ギリギリで避けられてしまった。
これで致命傷かとも思ったが、すぐに体が再生を始める。
「プラム! リリィ! やれ!」
俺は言葉少なに二人へ叫ぶ。
プラムとリリィの二人は今の攻防の最中に、カオス・スカルの真上へと上昇していた。
「ハル様は流石なのじゃ! 我も負けてはおれぬ! 【ブラックフレア】!」
プラムが下方のカオス・スカルへ魔法を放つ。
しかしそれは、先程効果がなかった魔法だった。
あの馬鹿!
さっき効かなかった事をもう忘れたのか!?
今日は鋭い発言が多かったから油断していたが、あのサキュバスはポンコツだった。
それを思い出して後悔し……そして、すぐにその考えを改めた。
黒炎はカオス・スカルを閉じ込めるように、円柱状に渦を巻いた。
「竜の肺は灼熱を吐く! その業火は地に生きる全ての生物を焼き尽くし、等しく死を与える! その炎は燻る事なく燃え続け、永遠と大地を焼き焦がすだろう! 火龍の咆哮を彼の者に下さん! 【ドラゴンフレアブレス】!」
リリィもマリン同様、俺の声を待たずに詠唱を始めており、黒炎の檻が出来上がる頃には、プラムに抱えられたリリィは杖をカオス・スカルへ向けられていた。
未だ再生中だったカオス・スカルは回避をすることもできず、灼熱の業火に飲み込まれる。
放たれたのは上級火属性魔法【ドラゴンフレアブレス】。
この世で最強の一角に君臨する龍の力を模した魔法だった。
ルナの魔法で飛び上がり、中空に放り出された状態だった俺は、その火力に息をする事もままならず、熱で生じる風圧で吹き飛ばされた。
いかに高い〈魔法防御〉を持つカオス・スカルといえども、これ程の熱量に耐えられるはずもなく、跡形もなく消滅したのだった。
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