4.アラーネの行方
俺はルナとギルドへ戻り、一連の出来事を報告した。
支部長が不在のだったため、受付の職員は連絡を取ってすぐに対応すると言ってくれた。
しかし、支部長権限で発行できる緊急依頼でないと、他の冒険者の協力はあまり得られないだろう。
損する事にはなるが、急いであの場所に戻った方がいい気がする。
最善を尽くすならルージュさんに頼んでパーティー全員でだ。
あんなのが町に侵入してきたら、本当に大変な事になる。
あれこれ考えながら、ふと掲示板の方へ視線を向けると、とある依頼が俺の目に止まった。
『謎の森の調査』
町外れに目に見えない森があるという目撃情報が上がっています。
見つけ出し調査を希望。
依頼難易度 S
依頼期間 3日
成功報酬 300万J
「そういえば、デスアークスパイダーが現れた時に森を見た気がしたんだけど……」
俺がそう言うと、ルナも小さく頷きながら答えた。
「私にも見えた。一瞬だけ」
「やっぱりそうだよな? きっとローガンさんが言ってた噂の森だよ……」
あの時見た森と、アラーネが反応していた噂の森が繋がる。
「それってこの依頼と関係ありそうだよな?」
俺は謎の森の調査の依頼書を指差す。
ルナは依頼書に目を通し、ハッとした顔になる。
「この依頼、確か収穫祭の時にはもう張り出されていたと思うんだ。リリィが受けようとか言ってた気がする。というのとは、結構前から目撃されてたんだ」
少なくとも二ヶ月は前からだ。
ローガンさんは行方不明者も出てるって言っていた。
やっぱりヤバくないか?
突然現れたエビルウルフや、デスアークスパイダーの事を考えるに、町周辺の生態系の変化も、あの森が原因で間違いない。
全部あの人の読み通りだ。
流石は噂好き。
すごいな。
「ルナ。この依頼を受けてみんなでさっきの場所に戻ろう。このまま放置する訳にはいかない」
「了解」
ルナは俺の提案に同意してくれた。
俺たちはすぐに依頼を受注し、急いでギルドを後にした。
――
俺は駆け足で館へと戻っていた。
留守番をしているプラムを呼ぶためだ。
みんなへの説明のため、ルナには一足先に店に戻ってもらった。
館への道中、町は騒然となっていた。
「町の入口近くで危険な魔物が出たらしい」
「さっき警備団がギルドに呼び出されてるのを見た」
「女子供は家に避難させた方がいい」
どうやらさっきの事件の話がもう広まっているらしい。
噂好きのローガンさんを思い出す。
あの人の考え通りだったし、こういう噂話も馬鹿にできないな。
そんな事を考えつつ館へ急ぐ。
館に着くと、プラムは庭でフンフンと鼻歌を歌いながら洗濯物を干していた。
と思ったら、風で飛ばされた洗濯物を慌てて追いかけ、残りの洗濯物が入った洗濯籠を蹴飛ばし、ズッこけていた。
相変わらずポンコツだ。
泣きながら洗いからやり直そうとしていたプラムに事情を伝える。
「なんじゃと!? では急いで店に向かわんとじゃな!」
プラムはその場でクルッと一回転する。
すると、一瞬でどエロい黒ボンテージ姿に戻っていた。
突然の破廉恥な行動に心を乱され目を泳がせていると、プラムは俺の背後に周り、ギュッと抱きついてきた。
「さぁハル様! 行きますよ!」
背中に押し付けられる凶悪な弾力に動揺していると、プラムはそう言ってその場から高速で飛翔した。
俺の絶叫を置き去りにするほどの速度だった。
――
「こ、今度からは飛ぶ前に一言くれ」
俺は店の前で弱々しくプラムに説教した。
戦闘で必要になるであろうみんなの装備を何も持たずに連れ出されてしまい、もう一往復する羽目になった。
「も、申し訳ないのじゃ。ハル様と空を飛べると思ったら嬉しくてつい……」
恐怖で未だ足をガクつかせている俺を見て、プラムは申し訳なさそうに謝罪した。
と、思ったらブツブツモジモジし始めた。
「はぁはぁ……これはきついお仕置きをされるかもしれない……どんなお仕置きじゃろう……マリンの際どい仮装を無理矢理着せられ、町の真ん中で辱めを受けるかもしれない……恥ずかしいが、悪いのは我じゃ。甘んじて受けよう……エロい格好を町の人たちに見られて……み、見られている? あの男も、そこの老人も、あんな小さな子供にまで……我を見ている……あぁ……」
ブルリと身を震わす変態に呆れつつ、俺だけ先に店の戸を開けた。
店内には既に客はいなかった。
ホールにいたのはルナ、ルージュさん、リリィ、マリンの四人だけだ。
「ハルくん!」
ルージュさんが心配そうな顔で駆け寄ってくる。
「大丈夫だった? 危険な魔物と戦ったのよね?」
「大丈夫ですよ。ルナのおかげで勝てました」
俺は心配ないとアピールしたけど、所々に小さい怪我をしててちょっと説得力に欠けていた。
「傷だらけではないですか。あなたはいつも格好がつきませんね」
マリンが苦笑しながら回復魔法をかけてくれた。
「今回はアタシがいるから安心してね! S難易度だろうと何だろうと、アタシにかかれば楽勝だよ!」
リリィはいつも通り自信満々だ。
「リリィ。油断大敵」
そんなリリィをルナが嗜める。
三人はいつも通りだな。
町が慌ただしくて少し焦ってたけど、このやり取りを見ているとなぜか落ち着く。
それにしても他の二人はどうしたんだ?
「エリーとアラーネは?」
「エリーならルナが来る前に買い出しに……」
リリィがそこまで言った時、ルージュさんが慌て出した。
「あれ? アーちゃん? おかしいわ。さっきまでいたのに……」
バタバタとキッチンや二階を見に行ったけど見当たらない。
こんな時にどうしたんだ?
俺は唐突に嫌な予感がした。
そんな中、突然店の扉がバタンと力一杯に開かれた。
「皆さん大変です! 森が……町の外に森が現れました!」
大声を上げて入ってきたのは、青い顔をしたエリーだった。
――
エリーを座らせて水をやる。
ここまで全力で駆けてきたらしく、エリーは肩で息をしていた。
「実は買い物をしていた時、町の外で魔物が出たという話を聞きまして。私たちが対応したらクランの株が上がるかもと思い、こっそり現地を見に行ったんです。そしたら……倉庫街の先に大きな森が広がっていたんです!」
最初こそ落ち着いて話していたが、段々と言葉に力が入っていく。
やっぱり森はあったのか。
でも……あれ?
「広がってたって……すぐに消えたりしなかったのか?」
「消えたり……ですか? いえ、ずっとその場にいた訳ではないので今は分かりませんが、少なくとも私がいた間はそのままでした」
マジか。
ヤバいな。
もしもまた、あの危険度の魔物や魔獣が出てきたら、町が大変な事になる。
「そんなことより! 大変なんです!」
話はまだ終わってないと、エリーは声を荒げる。
「アラーネさんが! アラーネさんがあの森に入ってしまったかもしれないんです!」
「ええ!?」
俺たちは揃って驚愕の声を上げた。
なんでも、森をひと目見て危険だと判断したエリーは、周囲の人たちの避難誘導をしつつ情報を集めていたらしい。
そこで白い髪の少女が吸い寄せられるように森に入っていった、という話を聞き、慌てて店に戻ってきたそうだ。
「ホ、ホントなの!?」
ルージュさんがエリーの肩を掴む。
「は、はい。私が直接見た訳ではありませんが、中にはアラーネさんじゃないかと名前まで出す方もいたので……」
ルージュさんの剣幕に押され、たじろぎつつもエリーは答えた。
「すぐに行こう! あの森は絶対に危険だ!」
俺は一も二もなくそう言った。
みんなも真剣な顔で頷く。
すぐに立ち上がったルージュさんの表情は、かなり切羽詰まっていた。
このまま森に連れていくと、無理をして危険かもしれない。
「ルージュさんはここで待っててもらえますか?」
「……どうして?」
ルージュさんは険しい顔のままだ。
居ても立ってもいられないんだろう。
しかし、今のルージュさんを危険な場所へ連れていくことはできない。
「もしかしたら人違いで、アラーネが帰ってくるかもしれません。その時に店に誰もいないと、あの子も心配するじゃないですか」
「……分かったわ。ハルくんの言う通りよね」
ルージュさんは少しの逡巡の後、手を胸の前でキュッと握りながらそう言った。
本当は自分もアラーネの捜索に加わりたいんだろう。
ここで何もせず待つのも辛いだろうし。
「ルージュさん! 大丈夫! アラーネは必ずつれて帰ります!」
俺はルージュさんの肩をガシッと掴み、安心させられるよう力強くそう言った。
「ルー姉! アタシたちに任せてよ!」と、無い胸を張るリリィ。
「心配無用」と、いつもの眠たげな顔のルナ。
「あの子の好きなケーキでも焼いて帰りを待っていて下さい」と、慈愛の笑みを浮かべるマリン。
「みんな……お願いね」
いつもの調子の三人を見て少し安心したのか、ルージュさんもいつもの優しい笑顔を作った。
「では行きましょう!」
エリーがコップの水をグッと飲み干して立ち上がる。
「我もルージュとアラーネのために頑張るのじゃ!」
いつの間にか店に入っていたプラムも、拳を握って気合いを入れた。
「よし! 行くぞ!」
ルージュさんに後を任せ、俺たちは例の森へ向かうのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「この後一体どうなるのっ……!?」
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