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3.町外れの戦い

「はぁはぁ……ふぅ」


結構やばかったな。

数も多かったし、ルナがいてくれてよかった。

俺一人では後ろの人たちどころか、自分の身すら守れなかっただろう。


内心で安堵しつつ、俺は背後の三人に声をかけようとした。


「あーーーーーー!?」


振り返ろうとして大声を浴びせられた。


何事かと思って振り返ると、そこには見覚えのある三人組がいた。


「んな!?」

「うっそ最悪……」


ギョッとしているダン。

不機嫌そうなアスカ。

そして、俺を指差して驚愕の表情のカナタ。


「な、何でてめぇがこんな所に!?」


カナタは怒鳴るように俺に言う。


「こっちの台詞だ。何でこんな所でエビルウルフなんかに襲われてんだよ……しかも丸腰で」


そう。

この三人は丸腰だった。


「黙りやがれ! いきなり飛び込んできて邪魔しやがって! てめぇの助けなんていらなかったんだよ!」


カナタは顔を真っ赤にして怒り狂っている。


話が通じない。


「カナタの言う通りだ! 今から倒すところだったのだぞ!」

「ほんっと余計なお世話なんですけど!」


ダンとアスカも助けに入った事に文句を言ってきた。


くそ。

もう会いたくないって思ってるのに、何でまたこいつらがいるんだよ。


「おい! クソ雑魚の分際で俺様を無視すんじゃねぇ!」


俺は怒鳴りつけてくる三人を無視してルナの元へ歩く。


「ルナ、さっさと仕事を始めよう」


そう言った俺を、ルナは心配そうな顔で見てくる。


「大丈夫。無視して行こう」


俺はルナにそう声をかけ、カナタたちを一瞥(いちべつ)した。


無視しようと思ってたが、言いたい放題言われるのも悔しいし、一言だけ文句を言ってやることにした。


「仕事の邪魔だからどっかに……」


行ってくれ、と言おうとして止まった。


カナタの背後、町の外の草原が一瞬ボヤけたかと思ったら、深い森が広がっていた。


「な……」


俺は絶句した。

開いた口が塞がらない。


ローガンさんが昨日言ってた噂話が脳内で反芻(はんすう)される。


本当に森が出現したのだ。


「本当……だったのか」


そう漏らすと、森はすぐにボヤけ、そして消えた。


「消え……え?」


目を疑った。

森が消えた。

現れて、消えた。


それにも驚いた。


しかし、もうそれどころではない。


森があった所に、大きな蜘蛛の魔物がいた。


「ギィィィィィ!!」


体長5〜6メートルはある巨大な蜘蛛が、鎌のような前足を持ち上げながら威嚇の声を発した。


デスアークスパイダー。

蜘蛛特有の複眼と機動能力でいかなる攻撃をも回避し、有毒の粘液や強靭な糸を使って獲物を捕らえる。

森の生態系では上位に君臨する強力な捕食者だ。

ギルドが定めた危険度(ランク)はA。

知能が非常に高い魔獣だ。


「うわぁぁぁぁ!」

「ぬぁぁぁぁぁ!」

「きゃぁぁぁぁ!」


突然背後に魔獣が出現し、カナタたちは悲鳴を上げてこっちへ駆け出した。


デスアークスパイダーは尻から糸を飛ばす。


【氷華結晶魔法】(フリズクリスタル)


咄嗟にルナが魔法を使い、カナタたちの背後に氷の花で壁を作った。


糸は氷の壁に絡みつく。

デスアークスパイダーが糸を引くと、氷の壁は砕けるように飛び散りながら引き倒された。


しかし、時間は稼げた。


「ナイスだルナ!」


カナタたちは何とかこちらまで逃げてきた。


また共闘かとウンザリしながら剣を構えると、三人は俺の横を駆け抜け、止まる事なくそのまま走り去った。


「あ、あいつらまた」


グローム山での事を思い出してしまう。

あの時も俺を囮にしてベヒモスから逃げたんだ。


少しは変わったのかと思っていたが、やっぱり変わらない。

嫌な奴らだ。


「ギィィィィィ!」

「チッ!」


嫌な事を思い出していると、デスアークスパイダーが目の前まで接近していた。


俺はマナ視で動きを見極め、鋭い前足の攻撃をギリギリで避ける。


「クソッ! コイツ! マジか!」


速い。

それにパワーもある。

(さば)ききれない。


いくらマナ視で動きを予測できても、自分より格段に速く動く相手には効果は薄い。

数手であっという間に追い詰められた。


「きゃーーーーー!!」

「な、何だぁ!?」


背後から悲鳴が上がる。


いつの間にか町にかなり近付いていた。


きっと騒ぎを聞きつけた町民たちが見にきたんだろう。

これ以上町に近付かれると被害が。


「うわぁっ!?」


町への被害に気を取られた瞬間、俺は足を糸で絡め取られ、その場に引き倒された。


振り上げられる鋭い前足。


ヤ、ヤバッ!


風華斬撃魔法(ヴィルムカッター)


ビュッという風切り音。

直後にザンッという斬撃音が響き、蜘蛛の前足が宙を舞った。


同時に俺の拘束も解かれる。


俺は転げるようにして後方へと退いた。


「た、助かった! ありがとうルナ!」


横に並んだルナに俺は感謝を告げた。


今のはヤバかった。

ただでさえ余裕がなかったのに、注意力も散漫だった。

ルナがいなかったら串刺しだ。


俺はその事実にブルリと身を震わせるも、かぶりを振って気を取り直す。


「今のはミスったけど動きは掴んだ!」


俺は改めて剣を構え、今度はこっちからデスアークスパイダーに斬りかかった。


足が一本減ったことで大分楽だ。

町に近付かれないよう注意しつつ、攻撃を(さば)いていく。


「オラァ!」


隙をついてもう一本の足を切り落とした。

外皮は硬く刃が通らなかったが、関節部分は違った。


二本目の足を失ったデスアークスパイダーは慌てて後退する。


「【アイス】!」


俺はすぐさま左手で地面に触れ、デスアークスパイダーの六本の足元に氷を張った。

デスアークスパイダーはまんまと氷に足を取られ、バランスを崩す。


【風華竜巻魔法】(ヴィルムストーム)


ルナはその隙を見逃さなかった。


竜巻は刃物でも仕込んでいるかの様に、デスアークスパイダーを細切れに刻む。


竜巻が止んだ頃には、デスアークスパイダーは跡形もなくなっていた。



――



俺がルナに見惚れていると、町の方から歓声が上がった。


「すっげぇ! あのデカい蜘蛛をやっちまった!

「最後の竜巻カッコよかったな!」

「あれってヒカリエの娘じゃないか? 黒髪の!」


うんうん。

さすがは我らがルナだ。

みんなもそれが分かるようで何より。


「さっきの蜘蛛……もしかしてデスアークスパイダーじゃないか?」

「なんだそりゃ?」

「A危険度(ランク)の魔獣っていう超危険な奴だよ」

「マジかよ。そんなのとあの男は戦ってたのか? それって凄くないか?」


そんな声が聞こえてくる。

大半はルナの華やかな魔法を褒める声だけど、中には俺への歓声も混じっていた。


俺は照れつつも、ルナの方へ駆け寄った。


「ルナ。助かったよ。ありがとう」


俺は改めてルナに礼を言った。


「ハルこそ、あのレベルの、相手に、接近戦で、対抗できていた。すごい」


歓声を浴びているせいか、ルナはおずおずと俺に言った。


ルナはいつも褒めてくれるな。

嘘は言わない性格だから、褒められると素直に嬉しくなる。


町の人からの声が聞こえなくなるくらいだ。


「チッ! あの程度の虫を()ったくらいで何だ! 調子乗んなやクソ雑魚野郎!」


チラッとそんな声も聞こえた気がしたけど、ルナのお褒めの言葉の前には無力だ。


俺はニヤケそうになるのを堪えた。



――



「とりあえず、この事をギルドに報告した方がいいよな」


本来は周辺の魔物の種類や数を記録するだけの低難易度依頼(ランククエスト)だが、戦えない人にこの依頼(クエスト)は不可能だ。

というか、この辺には町の人も近づかない方がいい。


デスアークスパイダーはA危険度(ランク)の魔獣だし、エビルウルフも群れならB危険度(ランク)に達する非常に危険な魔物だ。

被害が広がる前にギルドに対策を講じてもらわないと。


ルナもコクコクと頷いた。


俺たちは急足でギルドへと戻ったのだった。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「この後一体どうなるのっ……!?」


と思ったら、


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面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


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