18.依頼終了と計画
「よっしゃー! ナイスリリィ……」
「きゃーーー!」
俺は見事にトドメを決めたリリィを労おうと高台を見上げた。
そんな俺の目に、ドームの頂点に魔法を打ち込むため高台から飛び出し、泣きながら手をバタつかせて落ちてくるリリィが映った。
「うぉぉぉぉおおおお!」
俺は慌てて落下地点に飛び込み、ギリギリでキャッチに成功。
腕の骨が折れるかと思ったけど、闘気で上手く身体を強化できていたおかげで事なきを得た。
「し"、し"ぬ"か"と"お"も"った"……」
「あはは、死ななくてよかったな」
俺は腕の中で涙目になっているリリィに微笑みかけ、ゆっくりと下ろした。
リリィは足腰をガクつかせながらも腕を組み、見下すように無い胸を張る。
「ふふ、ふふふ……ふはははは! アタシの新技どうだった? 凄い? 凄かったでしょ? あはははは!」
確かに凄い威力だった。
でもそこまでのお膳立ては俺とミーシャさんって人がやったんだが。
「はいはい、凄かっか凄かった。でも無い胸張ってもマリンやプラムみたいにはならないから……」
バキッ!
……グーで殴られた。
「もう! ハルのバカ! アンタのことも褒めてあげようと思ってたのに!」
リリィは怒りの形相で俺を睨みながら怒鳴った。
「カッコよかったのに……キャッチしてくれて嬉しかったのに……」
最後の方はなんかゴニョゴニョと言ってて聞こえなかったが。
でも、あんなにドヤドヤされたら鬱陶しくもなるさ。
「ごめんごめん。本当に凄かったよ。ありがとう」
「……助けてくれてありがとう」
怒ってたけど、最後は顔を赤くしつつも礼を言ってくれた。
リリィとそんなやり取りをしていると、トライアスの面々が駆け寄ってきた。
「何というか……助かった。お前たちは命の恩人だ。ありがとう」
トライアスのリーダーである剣士のルディッツが深々と頭を下げた。
それに釣られて盗賊のソルトと魔法使いのミーシャも頭を下げて言ってくる。
「凄いっス! 前衛で盾役こなしながら全体を見て指示が出せるなんて! 俺は後ろから見てたのに何も思い付かなかったっス!」
「私の魔法にあんな使い方があるなんて驚いたわ! それをあの一瞬で思いついて実行に移すなんて凄い!」
「たまたまだよ。あんた達も無事でよかったな」
俺は謙虚な態度を崩さず対応しようとした。
しかし、そうは思ってない人もいたらしい。
「ウチのハルは凄いんだから! 誰に喧嘩売ったか分かってる!?」
リリィだ。
思い出したかのように怒りの表情を作り、三人に向かって凄んでいる。
「あ、ああ。こんな実力のある奴がせこい真似をするハズがないな」
「すまなかったっス!」
「今回の手柄はあなたたちのモノよ」
ルディッツたちは再度、頭を下げた。
それを見ていたリリィは、フフンと満足そうにしながら俺に笑いかけてきた。
俺はやれやれと肩をすくめ、ルナたちとの合流を促したのだった。
――
ナーズの森での依頼から数日後。
今日のカフェは非番だったが、何となくプラムと一緒にヒカリエに来ていた。
「いらっしゃいま……何だハルか」
リリィとのいつもの掛け合いを済ませてから、俺とプラムはカウンターへ腰掛けた。
目の前には衣服に締め付けられて窮屈そうにしている胸部が……
「……どこを見ているのですか?」
その胸部の主から発せられた声に俺の肩はビクリと震える。
「べべ、別にどこも見てねぇよ?」
目を泳がせてマリンの無言の視線から逃れようとしていると、すぐ隣に座った双丘に目が行ってしまう。
今日は露出の高いボンテージ衣装ではなくワンピースを着ている。
しかしそれはマリンの自信作。
胸元はバンと開き、翼と尾の都合で背中から腰にかけてもパックリ開いている。
腹部のベルトが余計に豊満な双丘を強調していた。
「ハル様、そんなに見たいのならぜひ我を見るのじゃ! ハル様ならいくら見ても構わないぞ!」
プラムが胸を寄せながら言ってくる。
「み、見てないって。今のはたまたまチラッと目に入っただけだよ」
そんなやり取りの後、俺の見事な誘導により、先日会ったチーム『トライアス』の話題に移った。
「そういえばあのトライアスの三人、ポルティームからハルジオンに拠点を移すって言ってたけど、本当に来るのかな?」
「どうでしょう。確かに最近はこの町でも仕事が増えてきていますし、ライバルが少ない今の内にハルジオンに移るのは正解かもしれませんわ」
「そしたら剣の稽古つけてもらうのか?」
「ああ、そんな話もしたな。俺は剣も魔法も素人だからルディッツさんみたいな人から教われるのならありがたいよ」
「あの盗賊にも何か教えるのでしょう?」
「ソルトさんか? 何かいつも戦闘では何も出来ないから、戦術とか色々教わりたいって言ってたな。ミーシャさんも魔法の効果的な使い方を教えて欲しいって言ってたけど、それは俺の仕事じゃない気がするな」
「魔法のことなら我にお任せを! こう見えて、幻覚魔法を使わせたら悪魔界隈で右に出る者はいないのじゃ!」
あの後、トライアスのメンバーとは結構仲良くなった。
最初こそリリィたちはあの三人を嫌ってたけど、すぐに誤解も解けた。
意気投合し、今度そっちに拠点を移すとか言っていたくらいだ。
だから俺はルディッツさんに剣の基礎から教えて欲しいと頼んでみた。
ルディッツさんは快く承諾してくれたけど、ソルトとミーシャさんはそれに便乗してきた感じだ。
「まぁ何にせよ、また会えるのが楽しみだな」
俺は笑いながら話を締めくくった。
――
俺たちは時折リリィも交えながら、雑談に花を咲かせていた。
帰ってからも家で顔を合わせることになるが、人数も多いせいか話題には困らない。
そんな時、
「ハ、ハルさーーーーん!!!」
店の扉がバタンと開き、何者かがカウンターに座る俺に抱きついてきた。
「ななな!?」
その人の柔らかさや匂いですぐに女性だと気付き、俺は驚愕で声を上擦らせた。
「何ですかあなた!? ……って、エリー?」
「グスッ……ハルさん、助けて下さーい!」
彼女は泣きながら俺に助けを求めてきた。
「どうしたんだよエリー。今日は仕事じゃなかったか?」
確かそのはず。
エリーは聞いてもいないのに、自分の休みの日を毎月教えてくれていた。
俺の記憶では今日は仕事のはずだ。
「それが……グスッ……私……クビになりました……」
鼻をひくつかせながら、そう言って彼女は経緯を説明し始めた。
なんでも俺たちに仕事を斡旋していたのがギルドの規定に違反していたらしい。
本来なら俺たちにも罰が及ぶところを、エリーの直談判と支部長の尽力でことなきを得たそうだ。
しかし、それらの責任を取る形でエリーはギルドから解雇された。
「そんな……ごめんエリー、そんな事になってるとは知らず……」
ギルドが私情で特定の個人にのみ仕事を割り振るのは確かにダメだろう。
そこに思い至らず、ラッキーなどと軽い気持ちで仕事を受けていたのは俺たち……というか俺だ。
「エリーだけが辛い思いをするのはおかしいよな」
エリーだけが罰を受けて俺たたが無罪放免というのも気まずい、なんていう厭らしい気持ちがない訳ではない。
でも、純粋に世話になっていたエリーが困っていることに、俺は胸を締め付けられた。
ふと周りを見ると、マリンにプラム、ホールのリリィ、キッチンの奥からルナも顔を出し、みんなが俺の言葉に頷いていた。
俺だけでなく、パーティーメンバーも同じ事を思っているのだろう。
少しだけ温かい気持ちになった。
「皆さん……」
エリーはみんなの視線に気付き、目を潤ませた。
「何か俺たちに出来ることはないかな? エリーには世話になったし、君の役に立ちたい」
エリーは俺の言葉に一度俯き、そしてバッと顔を上げて俺を見た。
「もし……もしよければ、私も皆さんのクランに冒険者として入れてもらえないでしょうか?」
「え?」
俺を含め、その場のみんなが短く声を発した。
当然だ。
冒険者の仕事は常に死と隣り合わせだ。
先日のナーズの森でも、少し間違えば俺もリリィも死んでいたかもしれない。
エリーのようにしっかり者で頭もいい人なら、探せば安全で稼ぎの良い仕事はいくらでもあるだろう。
「確かに私は闘いに関してはほぼ素人ですが、世界の歴史や地理、魔物の生態などの知識には自信があります。それに実は弓も得意です。味方に誤射しない程度には使えます」
エリーは動揺する俺たち捲し立てた。
自分が俺たちにどれだけ有益かを必死に説いた。
泣きそうな顔だった。
俺は……その勢いに負けた。
「エリーがそれでいいなら……いいんじゃないか?」
異を唱える者はいなかった。
「あ、ありがとうございます! 一生懸命頑張ります!」
エリーは深々と頭を下げた。
彼女は思慮深さと行動力のあるとても凄い人物だ。
今回はきっとそれが裏目に出たのだろう。
正直なところ、エリーが冒険者として活動するのには心配も多い。
しかしそこは、俺たちがフォローしてやればいいか。
そんなことを考えながら頭を下げるエリーを見ると、一瞬、口の端がフッと釣り上がったように見えた。
ん?
……まさか。
そんな考えが脳裏をよぎる。
まさかこの人は俺たちの仲間になるためにこの事態を引き起こしたのではないだろうか?
そういえば、いつぞやの幽霊屋敷事件の後、自分が俺と館に住むとか何とか言ってたような……
いやまさか。
さすがにそれはないか。
計算高いとはいっても、仕事を捨ててまでそんな暴挙は起こさないだろう。
俺はかぶりを振ってその考えを振り払う。
そして、新たな仲間の加入に喜ぶのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「この後一体どうなるのっ……!?」
と思ったら、
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。