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16.森の異変

トライアスと別れた俺たちは、再度作戦を立て直すことにした。


「絶対許さない! 何であんなこと言われないといけないの!」


激高(げきこう)し、今にも森に突っ込みそうなリリィをなんとかなだめる。


「落ち着いて」と、リリィを嗜めるルナは。

「焦って飛び込んでも上手くはいきませんわ」と、冷静に判断するマリン。

「こうなったら森に火をつけましょう!」と、馬鹿なことを言うプラム。


最後の台詞は聞かなかったことにして、俺は口を開く。


「バッティングしたのはもうしょうがない。嫌味を言われたのは俺も気に食わないけど、アイツらに先を越される方が俺は嫌だ。さっさと作戦を決めよう」


俺の言葉に一同は頷く。


「二手に別れよ! アタシも絶対負けたくない!」


リリィが強い口調で言う。


「それは危険」

「だって全員で固まってたら先に見つけられちゃうかもしれないじゃん!」


ルナの反対にリリィは噛み付く。

さっきのトライアスの態度が相当頭にきてるみたいだ。


リリィの迫力にルナは黙ってしまった。


「俺も不安はあるけど、こうなったらリリィは聞かないだろ。なるべく危険がないようにチーム分けしよう」


黙り込むルナの肩をポンと叩きながら俺は続けた。


「とりあえず前衛ができる俺とルナがまず別れる」

「え……」


嘘でしょ!? みたいにルナが見てくるけど、どう考えてもそれしかない。


ルナは魔法だけでなく剣も使える。

闘気はまとえないが、俺なんかよりよっぽど強かった。

Sランクとはそれほど高い壁なのだ。


剣術を教わろうと思ったのだが、我流だから参考にならないと断られたことがある。


少し逡巡した後、ルナは渋々了承の意を示した。


「マリンは……戦う術が少ないからな。俺チームよりルナチームに入った方が安全だろ」

「そうですか……そうですわね。ルナ、よろしくお願いしますわ」


一瞬動揺したように見えたマリンだったが、理解も早くルナの隣に立った。


「では我が親衛隊としてハル様の護衛を……」


そう言ってパタパタと寄ってくるプラム。


その肩を掴んで異を唱えたのは……


「待って! ハルとはアタシが行くから!」


怒り心頭といった感じのリリィだった。


「ええ!? でも我もハル様と……」

「いいから! アタシの戦い方はハルと相性がいいし!」


リリィはかなり苛立っているのだろうか。

顔を赤くしながら、力一杯説明していた。


「リリィ……」

「あなたまさか……」


そんなリリィをルナとマリンがジトっとした目で見る。


「だって……いつもルナとマリンだけ……ずるいし」


急にうつむいてブツブツ言うリリィ。

聞こえないからはっきり言ってほしいものだ。


「もう! いいの! こういう時はハルの方に獲物が出るはずだから、そっちに行くの!」


最後は訳の分からない理論を振りかざしていた。


結局、俺とリリィのチーム、ルナとマリン、プラムのチームに分かれて捜索することになった。


「じゃあこれを」


ルナが俺に手渡してきたのは、可愛らしい耳飾りだった。


「これは?」

「それは私が作った魔道具。〈念話〉(テレパシー)が使える」


どうやらすごそうなアイテムだ。


ルナと俺が持つ対の耳飾りは、使用することで互いに〈念話〉(テレパシー)という魔法技術(マジックアーツ)が使えるようになる魔道具らしい。


「定期的に連絡を」


心配そうにするルナに、俺は力強く頷いたのだった。



――



以前話したと思うが、このあたりには大した魔物は生息していない。

平均危険度(ランク)はE。

強くてもD危険度(ランク)までだ。


「ほら、早く行くよ」


ルナたちと話していた俺の手を掴み、リリィはズンズンと森へと進み始めた。


その歩みは速い。


手を引かれ、斜め後ろから見えたリリィは耳まで赤かった。

相当怒ってるな。

確かにあれだけ言われたら俺も怒る。


そう思いつつ、今回の森でやってみたいことがあった俺はリリィを引き止める。


「なぁリリィ。俺が前を歩くよ」

「……アタシには子供扱いのままなの?」


振り返り様に睨まれた。


こわっ。


俺は慌てて誤解を解こうとした。


「いや違うって。索敵の練習してんだよ」

「練習?」

「ああ、今はまだ前方の10〜15メートルくらいまでしか見えないけど……」


俺は前回、『マナ視の魔眼』を暗視のために使用した。


その後で考えたんだが、これは何も暗闇時だけの技術ではない。

周囲のマナを視認し、索敵に利用できる。


特に今回のような見通しの悪い森では活躍するはずだ。


「リリィ構えろ……くるぞ!」


俺の声の数秒後、茂みから四十センチほどの大きな影が飛びかかってきた。


「カエルだ! リリィ!」


俺は言いながら前に出て、高速で伸びてくる舌を剣で斬り落とした。


「ピギャッ! ……ブルロロロロ」


舌を切られたそれは、怯みつつも威嚇態勢をとっている。


「こいつはポイズンフロッグ!? 毒性の粘液がある魔物だよ! 気をつけて!」


リリィはそう言うと……


「【ファイヤーボール】!」


リリィの火球は難無くポイズンフロッグを燃やし尽くした。



――



「さっきのポイズンフロッグって……こんな森の端にいる魔物じゃないよな?」


進軍を再開した俺は、ふとそんなことを思い出した。


確かにポイズンフロッグはナーズの森に生息している。

でもそれは、もっと森の奥地。

ナーズ湖がある湿地帯のはずだ。


そう思っての言葉に、リリィも首をかしげつつ答える。


「んー、たしかにそうだったかも。カエルだし湿度が高いところの方がいいよね」

「そうだよな? でもさっきのでもう三度目だぞ? 流石におかしくないか?」

「……確かに」


森に入ってまだ一時間も経っていない。

それなのに俺たちは、すでに三度もポイズンフロッグの襲撃を受けていた。


変だ。

一度ならまだしも。


「ひょっとして、ルナやマリンが言ってたみたいな異常事態が起こってる……かも?」


そんなリリィの言葉には、不安の色があった。


「……注意して進もう」


俺たちは一段階気を引き締め直し、緊張感を高めつつ標的である蛇の魔物の捜索を続けるのだった。



――



「ストップ……あそこだ」


俺はリリィに合図して身を屈めつつ、前方を指差した。


崖のように切り立った高台の(ふもと)

少し開けたその場所で巨大な蛇がとぐろを巻いていた。


「あれって……レッサーアナコンダじゃないね」

「ああ、デカすぎる」


レッサーアナコンダは大きくても3〜4メートル。


それでも一般人にとっては十分脅威なんだろうが、目の前にいる蛇はそれより大きい。


あれは……ビッグサーペント。

体長は平均7〜8メートル。

レッサーアナコンダの上位種に当たる魔物で危険度(ランク)はC、群れならBだったはず。


やっぱり上位個体がいたのか。

慎重に行動してよかった。


「ビッグサーペント……あれが標的で間違いないね」


小声だったけど、リリィの声には力が込められていた。


「よし、いつも通りいくぞ!」


そう言うと、俺はビッグサーペント目掛けて駆け出した。


「シュルルルル」


俺の接近に気付いたビッグサーペントは、即座に鎌首を持ち上げ、威嚇の態勢をとった。


「はぁ!」


俺は高く伸び上がった蛇の首に剣を振り抜いた。


スカッ


ビッグサーペントは長い胴を器用にくねらせ、俺の剣から素早く回避する。

俺の剣は空を切り、飛び上がっていた俺は空中でバランスを崩す。


「シャアアアア!」


ビッグサーペントが毒牙を剥き出しにして噛みついてきた。


「【ファイヤーボール】!」


先行した俺と時間差でリリィの魔法が放たれ、ビッグサーペントは俺への攻撃を中断する。


「ナイスだ!」


良いタイミングのアシストを称賛しつつ、俺は地を蹴って再度斬りかかる。

闘気が込められた俺の剣は、ビッグサーペントの硬い鱗に守られた胴に傷を入れた。


俺の攻撃を警戒して、ビッグサーペントの意識がまたこちらへ向いた。


「隙だらけだよ! 喰らえ! ビッグファイヤー……」


ナイスだリリィ!

いいタイミング!


俺が上手くビッグサーペントのヘイトを集めていた最中、リリィは詠唱を済ませ、虎視眈々と隙をうかがっていた。


リリィの頭上に巨大な火球が生成され、今にも放たれようとしている。


しかし、それが放たれることはなかった。


「【アースクラック】!」

「きゃあ!」


突如意識外から使用された魔法は、リリィ足場に亀裂を生じさせ、リリィはバランスを崩して転倒してしまう。

その拍子に魔法の制御を誤ったのか、火球が消失してしまった。


「リリィ!」


あまりにも突然のことに俺も動揺した。


蛇の魔法?


いや、単体でC危険度(ランク)のビッグサーペントでは魔法は使えないはず。


俺が混乱しつつリリィの身を案じていると、俺とビッグサーペントの間に剣士風の男が飛び出してきた。


「悪いな月光(ムーンライト)! こいつは俺たちの獲物だ!」


俺が入れたビッグサーペントの傷に斬り込みながら叫ぶそいつは、森の入り口で会ったルディッツという男だった。


「大丈夫か!?」


俺は突然のことに呆気に取られつつ、倒れたリリィに駆け寄る。


「うう、何なんだよいきなり」


リリィも訳が分からないといった顔をしていた。


取り敢えず無事でよかった。


それにしても、まさかこいつら……


「オラァ!」


ルディッツの剣がビッグサーペントの首を切り落とした。


ブシャー!っと血を噴き出しながら、首無しビッグサーペントは力無く倒れ伏した。


「ち、ちょっとアンタ! 何やってんの!? アタシたちが先に戦ってたのに! 邪魔しないでよ!」


リリィが我に返ったかのように叫び出す。


「何言ってんスか!? 邪魔はこっちの台詞なんスよ! 卑怯なことしようとしてたのはそっちっスよ!」


ビッグサーペントの首に駆け寄りながら、盗賊風の男・ソルトは憤りをあらわにする。


「そういうこと。早い者勝ちだし、諦めるんだな」


ルディッツはやれやれと肩をすくめる。


早い者勝ち……それはいい。

百歩譲ってビッグサーペントを仕留めたのはこの男だ。

でも……


「手柄横取りするために、人に魔法向けんじゃねぇよ! もしリリィが怪我してたらどう……!?」


俺はカッとなって怒鳴った。


ただ、マナの視認だけは続けていた。


そんな俺の目に映ったのは、物凄い速度で迫る、巨大な蛇のような形をした何かだった。


「お、おい! 何か来るぞ!」

「何言って……な!?」


バキバキバキバキ


近くの木々を薙ぎ倒し、大きな蛇の頭が俺たちを見下ろしてきた。


「シュララララ!!」

「う、うわあああああ!!」


ソルトが絶叫してその場に腰を抜かした。


「ま、まじかよ!」


慌てて剣を抜くルディッツ。


「う、嘘でしょ!? こんなでかいビッグサーペントなんて見たこと……」


驚愕するミーシャの言葉を遮り、俺は全員に聞こえるように叫んだ。


「ビッグサーペントじゃない! あの角と体の紋様……キングサーペントだ!」


俺の叫びで、その場に緊張が走った。


トライアスの三人は明らかに顔色が悪い。

リリィもだ。


「シュララララララララ!!!」


キングサーペントは威嚇するような奇声を発した後、俺たちに踊りかかった。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「この後一体どうなるのっ……!?」


と思ったら、


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


何卒よろしくお願いいたします。

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