15.バッティング
「あっ! ハルさん! 皆様も、おはようございます!」
ギルド内に元気な声が響く。
エリーだ。
受付から駆け寄ってくるエリーの笑顔が段々と怪訝なものになる。
「むむむ、こちらの方はどなたですか?」
顎に手を当て、訝しげなその視線を送る。
その先にいるのは、
「我はプラム。偉大なるハル様の親衛隊だ」
腰に手を当てて踏ん反り返り、際どいボンテージから溢れんばかりの豊満な胸を張りながら、プラムは鼻高々に名乗った。
「な、ななな……今、何と……?」
驚愕するエリーに俺たちはことの顛末を伝えた。
「えええええええ!? こ、こんな……はずでは……」
頭を抱え、膝から崩れそうになるエリー。
「ハルさんがその館を手に入れ……そこに私がお邪魔しようと……」
ブツブツと何かを呟いているけどよく聞こえない。
「そういうことだから!」
「エリーの」
「思い通りにはなりませんわ」
「ぐぐぐ……」
リリィ、ルナ、マリンの言葉にエリーはうめき声をあげ、頭を抱えたまま地に伏した。
「あ、あはは、とりあえず彼女の冒険者登録をしたいんだけど」
俺は何やら言い合う彼女たちから離れつつ他の職員へ話しかけ、プラムを冒険者登録の手続きを申請した。
「冒険者……危険な香り……はぁはぁ」
こいつ、大丈夫か?
さっきからずっとモジモジしているプラムに不安を感じざるを得ない。
このポンコツのことは、最初は館に置いていこうとした。
ドジして味方に被害が出ても困ると思ったからだ。
同じ理由でカフェの手伝いもさせず、館で留守番させていたんだが、
「こ、これは一体……」
「あ、あははー、ハル様たちが仕事をしているのに一人だけサボるのも悪いかと思って……」
片付けたはずのロビーが、食堂が、キッチンが大変なことになってしまい、仕方なく目の届くとこに置いておくことになった。
「ハ、ハルさん! 冒険者ギルドの規定で衣装に制限はありませんが、さすがにこの方は破廉恥すぎます! 何とかして下さい!」
言い負かされたのか、エリーが叫びながら俺に泣きついてきた。
今のプラムの格好は出会った当時のまま。
角、翼、尾を見れば彼女が人族でなく、悪魔族だろうと想像がつく。
それに露出の多い黒のボンテージを着用している。
「プラムの服に関しては俺からも言ったんだけど、あれ魔道具らしくてさ」
「我のこの衣装は一族に伝わる魔道具なのじゃ! 我の魔力を高め制御するだけでなく、外部からの魔法攻撃を軽減できる優れものなのじゃ!」
そう。
このエロス全開な衣装は、〈魔力増幅〉、〈魔力制御〉、〈魔法攻撃耐性〉という魔法技術が付与された歴とした魔道具だったのだ。
特に〈魔法攻撃耐性〉はかなり効果が高く、リリィの使う火属性魔法の【ビッグファイヤーボール】でも傷一つ付かなかった。
俺の氷魔法は攻撃するためでなく拘束する手段として使い、その上プラム自身の拘束されたいという性癖があったから効果があったらしい。
それを聞いて呆れたのは別の話。
「むむむ、そうなんですか……どうすれば……」
またしても床にペタンと座わり、うつむきながらブツブツと言うエリー。
「んーたしかに戦闘中はともかく、普段からそんな格好だとねー」
女性らしい身体を見せつけられるのが悔しいのか、リリィと腕を組んで考え始めた。
「ハルの目に毒」
ルナも真剣な顔で腕を組み、顎に手を当てて考えている。
「わたくしとしては有象無象の視線がプラムに集まりますし、彼女自身も視姦されることを好ましく思っているようですから問題ありませんわ。ただ、屋敷では清楚な服装を心掛けてほしいですわね。プラムを見るハルの顔が気持ち悪いので」
マリンはプラムを隠れ蓑にできて好都合らしい。
相変わらずわ一言多いが。
こんなところで会議始めないで取り敢えず登録済ませよ?
結局ローブを羽織ってもらうことになったけど、ローブを羽織る理由をエリーに吹き込まれたらしく、
「はぁはぁ……見られている……もしかすると、このローブの下にエロい衣装を着ていることがバレてしまうかとしれない……バレている……雄たちの視線が……あぁ、これは……すごい」
今までよりさらにモジモジするようになった。
そりゃさっきまであの姿を見てたんだからバレてんだろ。
俺はそんなツッコミを心の中でしつつ、登録を済ませてギルドを後にした。
――
「初仕事! 腕がなります!」
気合いを入れて声を上げるプラム。
「ヘマすんなよ」と、適当に返す俺。
「足引っ張んないでね!」と、腕を組んで言うリリィ。
「慎重に」と、いつもの眠たげな顔のルナ。
「あまりにもダメな場合は、わたくしが優しく教して差し上げます」と、頬に手を当て嬉しそうに言うマリン。
信頼が微塵も感じられない言葉責めに、
「はぁはぁ……なんてという言葉責め……役に立ちたい、けど、お仕置きも……あぁ」と、モジモジしだすプラム。
またどうしようもないことを言う変態はさておき。
俺たちはエリーおすすめの依頼をクリアすべく、ハルジオンから南方に徒歩一日程の場所にある『ナーズの森』に来ていた。
ナーズの森。
グランズロック山脈から生い茂る草木で鬱蒼としている森だ。
奥にはナーズ湖という湖畔があり、湿地帯となっている。
といっても、森と平原の境目付近では危険な魔物は確認されていない。
大抵がE危険度で、稀にD危険度の魔物が出る程度。
「今回の蛇の魔物。レッサーアナコンダかな?」
「多分ね。この森で蛇っていうとそれしかいないはずだよ。楽勝だね」
俺の質問にリリィが返す。
「リリィ。油断大敵。B難易度だから」
「そうですわ。レッサーアナコンダは群れでもC危険度。もしかすると突然変異が起きているかもしれません」
気を抜きかけていた俺とリリィを、ルナとマリンが諫める。
「そうだよな。群れの数が多いとか、異常個体がいるか……色々想定しないとな」
そうだよ。
この間も館の除霊でA危険度のファントムロードが出たし、何が起こるか分らない。
命懸けの冒険者稼業で油断は禁物だな。
俺は反省しつつ、考え得る状況に対しての対策を検討する。
「ハル様お任せ下さい! 我の魔法ならそんな小物に遅れは取りません!」
話を聞いていたのかいなかったのか、不安なことを言うプラムには触れず、俺は今回の依頼の作戦会議を始めようとしていた。
「あれ? 誰かいるね」
リリィが森の手前に数名の人影を発見した。
この辺りには宿場町もなく、森に近いため休憩する場所も無いはず。
そんな場所に人がいるってことは……
「ん? お前たち、冒険者か?」
こちらから声をかける前に、相手方からそう声をかけられた。
「はい。ハルジオンで活動しているチーム『月光』です」
「そうか。俺たちは中央から来た『トライアス』だ」
俺たちは手短に自己紹介を済ませた。
こうして他の冒険者と現場で居合わせた時は、互いのメンバーや依頼内容を確認しておくものだ。
何も知らず戦闘中に出会したりすると混乱するしな。
そういう理由で話をしていると、困ったことが判明した。
「チッ、依頼がダブってやがる」
「おいおいマジっすか?」
「またバッティングなの?」
嫌そうに言うトライアスの面々。
だけどそれはこちらの台詞でもある。
「えー、アンタたちも蛇の討伐なの?」
ため息混じりにリリィがボヤく。
「こういう場合ってどうなんの?」
俺の質問に答えたのは相手パーティーの剣士風の男で、ルディッツと名乗っていた人物だ。
「本来こんなことは起きないはずだ。ギルド内で依頼の受発注は完璧に管理されている……まぁ卑怯な手を使えば抜け道くらいあるけどな」
そうなんだ。
さすがは魔法が発展しているエルシア王国。
そんなことはさておき、睨みながら言ってくるルディッツの態度に俺は憮然となった。
俺たちだって正式に依頼を受けてきたのに。
「何か言い方悪くない!? アタシたちはちゃんとハルジオンで依頼を受けてきたんだけど!」
相手の態度が頭にきたのか、リリィが強く言い返した。
「何言ってんスか! こういうのはよくあるんスよ!」
「そうよ! 依頼を受けずに討伐を成功させて、違約金のリスクを負わない方法よ! この前もやられていい迷惑だったのよ!」
リリィに対してルディッツの横にいた盗賊風の男・ソルトと、魔法使い風の女・ミーシャが声を荒げた。
「はぁ!? アタシたちがそんなせこい真似する訳ないでしょ!?」
言い合いをするリリィとトライアスのメンバーたち。
こういう時、俺たちのメンバーで戦えるのは彼女しかいない。
ルナは初対面では目すら合わせないし、マリンも男性相手に自分から話しかけない。
お、今回はもう一人いるな。
男を操れる彼女なら、もしかして戦ってくれるかも。
俺は期待の眼差しを新入りに向けた。
「汝! 我が大人しくしておれば調子に……!」
「けッ! 何言ってんスか! さっさと帰りやがれってんだ!」
「うぅ……、ま、待て、我の話を……」
「あなたさっきからうるさいわよ! 何そのブカブカなローブ! ちょっと胸が大きいからって調子に乗らないで!」
「あうぅ……はぁはぁ」
打たれ弱いのか強いのか。
期待の新人は簡単に言い負かされ、モジモジと身体をくねらせている。
俺は呆れつつ仲裁に入ろうとした。
「待て」
しかし、先に間に入ったのはトライアスのリーダー・ルディッツだった。
「時間の無駄だ。コイツらのやり方は気に入らないが、俺たちが先に獲物を仕留めれば問題ない。行くぞ」
一方的にそう言うと、仲間たちを連れて森へと入っていった。
「はぁ!? ふっざけんな!」
リリィは森へと去っていく彼らに憤慨している。
「どうする?」
「わたくしたちも行きますか?」
トライアスがいなくなったところで、沈黙していたルナとマリンが俺に話し掛けてきた。
「そうだな。依頼を取られるのも癪だし。俺たちも行こうか」
二人の問いかけに、俺はため息交じりに頷いたのだった。
「面白かった!」
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