表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/85

12.解決と救われた悪魔

彼女は絶望の中にいた。

このまま何も出来ず、消えることになるのかと……


「まさか立ち寄った館でこんな目に遭うなんて……流石の我も予想外じゃ」


朦朧(もうろう)としながら、彼女はここで起きたことを反芻(はんすう)する。


旅の疲れを癒すべく立ち寄った古い館。


「こんなところに空き家があってラッキー」


と、思ったのも束の間。

館に入るなり恐ろしいファントムロードに襲われたのだ。


本来なら悪魔でも上位の種族である彼女の敵ではない。


「ファントムロードとは珍しいな……しかし、我の敵ではないわ!」


そう言って勢いよく飛翔し、飛び蹴りを披露する。


必殺の飛び蹴りがファントムロードの胸元に吸い込まれ……


勢いよくすり抜けた。


「あれ!?」


これはファントムロードのみならず、霊体(ゴースト)系の魔物共通のスキル〈物理攻撃無効〉の効果である。


それを失念していた彼女は、勢いそのままに、散乱する家財の山に激突する。


家財の山にハマって動けなくなり、彼女は呆気なくファントムロードの憑依を許してしまったのだ。


「少しずつ我の力を吸っている……このままでは、我の存在は消えてしまう!」


最初は余裕を見せていた彼女も、限界が近づきそのことに思い当たる。


そこからはいつ消えるとも分からぬ恐怖に怯える日々だった。


そんな時、恐怖と絶望の隙間から微かな光が見えた。


「こ、こやつは……」


朦朧とする意識の中、彼女は自分の記憶を遡る。


「そうだ、思い出した……変装しているようじゃが……いつぞやの夜の悪魔か?」


目の前に現れたのは、幻想的な夜の町を飛び回っていた片翼の悪魔だった。


悪魔は見事な早技で彼女を拘束する。


「流石は我が見込んだ男……それに氷漬けとは……我のツボを分かっておるな」


操られていたとはいえ、自分を倒したあの悪魔の腕前に惚れ、憑依から解放されたことに感謝した。


「もし……もしも生きながらえたなら……あのお方に……」


暗転する意識の中、彼女は強く、そう思ったのだった。



――



「す、すっげぇ……」


俺は思わず感嘆の声を漏らした。


だってそうだろ?

目の前で魔法が合体して炎のドラゴンみたいになったんだぞ?


「ふふん、どうだったどうだった? アタシたちの魔法、凄かったでしょ?」


開いた口が塞がらない俺に、リリィが偉そうにしながら言ってくる。


「上手く合わせられた」


ルナも安心したのか、いつもの表情に戻っていた。


「ああ、あんなことが出来たんだな。驚いたよ」


素直に二人を称賛したにも関わらず、駆け寄ってきた二人は、俺を見るなり不満顔になる。


「ハル……そろそろ下ろしていただけませんか?」


俺がどうしたのかと思っていたら、腕の中から聞いたことのあるようなセリフが聞こえた。


それは俺の腕に抱かれ、手を繋いだままのマリンの言葉だった。


「ご、ごめん!」


俺は大慌てでマリンを下ろす。


ビビビビックリした……

よく考えたら……お、おお俺はなんてことを……


館に入ってすぐに一回、そしてさっきの戦いで一回。

俺は二回もマリンをお姫様抱っこしてしまったのか!?

やばい……ドキドキする!


まぁ、マリンはきっと嫌だったと思うが。


「男性に素肌を許して……ですが……ハルなら……」


未だ高鳴る自分の心音のせいで、ゴニョゴニョと何か言うマリンの声はよく聞きとれない。


ブツブツと何かを呟いているのは、きっと怒ってるんだ……


俺は気を取り直し、申し訳ないと言う気持ちで恐る恐るマリンを見る。


マリンの頬は今までにない程真っ赤に染まり、綺麗な碧眼を彷徨わせていた。


え?

怒って……るのかな?


「ま、まぁ、あなたはわたくしのおもちゃですし、いいでしょう。そんなことより、さっきの魔法はどういうことなのですか?」


誤魔化すようによく分からないことを言いつつ、話題を変えるマリン。


「さっきの魔法?」


リリィが不思議そうに首を傾げる。


「ええ。わたくしの【神聖なる光の陣】(セイントフィールド)がハルに干渉されたような感じがしたのですが」

「俺に干渉? 俺は何もしてないぞ? マリンがやったんじゃないのか?」

「わたくしは何もしていませんわ」


不可解そうにため息を吐くマリン。


「アタシの炎を制御するとか言ってたこともあったけど、もしかしてあれって本当なの?」と、目を丸くして聞いてくるリリィ。

「そんなことが出来るようになったんだ。ハルはやっぱり凄い」と、なぜか尊敬の眼差しを向けてくるルナ。


「いやいや、そんなことできないよ。魔法を覚えてまだ二月だぞ。てか、人の魔法を操るなんてこと、できるもんなのか?」


俺が首をかしげて三人に問い返すと、無理無理と首を横に振った。


「少し納得がいきませんが、今回はハルに助けられましたわ。守って下さりありがとうございます、ハル」


釈然としないといった感じだが、最後はマリンもそう言って笑ってくれた。


そうこうしていると、離れたところからダンのやかましい声がした。


「アスカ! 目が覚めたのだな!」


どうやらアスカが目覚めたらしい。


「私は……何があったの?」


キョロキョロと辺りを見回したアスカは、俺たちまでいるこの状況に困惑しているみたいだ。


「チッ、アスカも起きたことだし、もうこんなところに用はねぇ。さっさと帰んぞ」


カナタはアスカを見るなりさっさと歩きだした。


「お、おいカナタよ……まったく。実はハルたちが助けてくれたのだ!」


ため息を吐きながら、ダンはアスカに経緯を説明する。


「そ、そうだったんだ……」


説明を聞いたアスカは、少しばつが悪そうにしている。


まぁ毛嫌いしてた俺に助けられたなんて言われてもな。


気まずい空気が流れる。


そしてアスカは意を決したような顔で立ち上がると、俺を見た。


「ハル……ありがとう」


憮然としながらそう一言だけ告げると、ダンを伴ってカナタを追って走り去った。


「ふぅ」


大変だったけど、三人も無事みたいだし、これですっきりだな。


俺はそう思って仲間たちの方を向き直る。


「「「…………」」」


三人が無言で俺を睨んでいた。


「な、なんだよ」

「べっつにー」と、不機嫌そうにリリィ。

「ニューキャッスル……」と、静かに殺気を放つルナ。

「わたくしのおもちゃに……」と、どうしようもないことを言うマリン。


本当に何なんだよ!?


俺が三人の態度にたじろいでいると、倒れていた悪魔が目を覚ました。


「我は……生きて……おるのか?」


しまった!

さっきの炎で氷の拘束が解けて……!


俺が振り向いて身構えると、


「お願いじゃ! 我を……我を大悪魔たるあなた様の下僕に加えて下さいませ!」


目を覚ました悪魔を警戒しようと構えた俺たちの前に、その場を飛び上がった悪魔が(ひざまず)いてきた。


「な、何なんだ?」


俺は思わず困惑した。


下僕ってどういう……それに大悪魔って。


「あなた。何を考えているのですか?」


俺の背後にいたマリンが油断なく悪魔を見つめながら問いかけた。


「我はサキュバスのプラム。偉大な大悪魔たるあなた様にお仕えしたく……」


それからこのプラムと名乗る悪魔は、ことの顛末(てんまつ)を話し始めた。


「つまりアンタはハルを悪魔だと思ってるわけ?」

「そして助けられた恩に報いるため仲間になりたいと?」

「…………」


リリィ、マリン、ルナの三人がいつの間にか俺の前に立ち、(ひざまず)くプラムの話を(いぶか)しげな顔で聞いていた。


「なぁ、俺は悪魔じゃないぞ」


俺はとりあえず誤解を解くことにした。


「ええ!?」


俺の言葉にプラムは驚愕する。


「し、しかし……つ、角があったし! 翼も片翼でカッコよかったし!」

「いや、あれはマリンが作ってくれた仮装だよ。悪魔の格好をして遊んでただけだ」

「ええええ!? 今のお姿が変装なんじゃ……!?」


プラムは驚きに目を見開いている。


「うーん、じゃあ勘違いってことだね」

「それではわたくしが浄化して……」

「ま、待て! 待ってくれなのじゃ!」


話を終わらせようとするリリィとマリンに、涙目で待ったをかけるプラム。


「ハ、ハル様! 我は命の恩人であるハル様にお仕えしたいじゃ! お願いじゃ!」


とうとう土下座するをプラム。


「仕えたいって言われてもな。お前悪魔だろ? 人を殺めて生気を吸ったりするんだろ?」

「自慢する訳ではないが、我はサキュバスの中でも実力者なのじゃ! 人を襲わずともこの身を維持できる! ……というか、これは他の悪魔には秘密なんじゃが、実は我、未だ人を襲ったことがない」


少し自分を恥じるかのようにそう言うプラム。


なんでもプラムはかなり上位の悪魔らしく、通常の食事で魔力を維持できるらしい。

それどころか、今まで一度も人を襲ったことが無いと言う。


「本当かな?」

「……」

「信じられませんね」


三人が剣呑な雰囲気を漂わせる。


そりゃそうだ。

相手は悪魔だ。

悪魔は人を騙す。

それがこの世の常識だ。


俺は必死な顔で見上げてくるプラムを見て考える。

そして……


「……分かったよ。報酬とか無いけどそれでもいいか?」

「「「ええ!?」」」


俺の決断に動揺する三人。


対照的に目を輝かせるプラム。


「アンタ何考えてんの!?」

「ハルどうしたの?」

「まさかこの悪魔に操られているのですか!?」

「落ち着けって。操られてないし。俺はこの悪魔は信じられると思っただけだよ」


三人を落ち着かせながらそう答える。


何故かと聞かれても根拠はない。


まっすぐな曇りのない目を見て、何となくこの悪魔は信じられると思えた。


「ハル様! 一生ついていくのじゃ!」


プラムは大喜びといった感じで、地に着く勢いで何度も頭を下げていた。


三人は呆れていたが、


「そういえばハルは間抜けでお人好しでしたね」


というため息混じりのマリンの言葉で、渋々納得していた。


こうして、館の調査は無事終了したのだった。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「この後一体どうなるのっ……!?」


と思ったら、


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ