11.元凶との戦い
青白い半透明の靄。
さっきまでマリンが浄化していたレイスとは違い、目の前の魔物の装いは豪華な貴族服といった感じだ。
広間に魔物の大音声が響く中、ルナが視線だけは魔物をしっかり捉えつつ、静かに話し出す。
「気を付けて。あれはファントムロード。ギルドが定める危険度はA。ゴーストの固有スキル〈物理攻撃無効〉、〈妨害〉の他に〈死霊召喚〉、〈亡霊領域〉を持つ」
「フ、ファントムサークルって何!?」
「火・水・風・土の四属性魔法の行使ができなくなる結界ですわ!」
ルナは冷静に、リリィは泣きながら、マリンは驚きながら、三人はそれぞれ臨戦態勢をとる。
俺はというと。
「ヒャッハー! 俺様の獲物だぁ!」
「がはははは! この館は渡さん!」
「待ちやがれ!」
カナタとダンの二人と共にファントムロードに飛びかかっていた。
しかし、カナタの剣とダンの拳、遅れて俺の剣も空を切る。
「何!?」
「ルナの話聞いてなかったの!? 物理攻撃は効かないんだって!」
リリィが涙目で俺たちに言ってくる。
クソ……薄々気付いてたよ。
いきなりカナタたちが走り出したからつい……
というかこいつら。
「おい! カナタ! ダン! どういうつもりだ!」
「クソ雑魚野郎は黙ってやがれ! あの靄をぶった斬って俺様がこの館を手に入れるんだょ!」
「すまんなハル! しかし、この館をお前たちに渡すわけにはいかんのだ!」
カナタとダンはファントムロードに対して構え直しながら、俺の問いに答えた。
やっぱりだ。
こいつら抜け駆けしようとしてやがる。
ここまで助けてやったってのに。
「やはりクズはクズですわね」
マリンの呆れた声が聞こえた気がした。
「【氷華結晶魔法】」
「【ファイヤーボール】!」
マリンの声のすぐ後、ルナとリリィが魔法を唱えた。
しかし発動しない。
「本当に魔法の使えないのかよ!」
俺が驚愕していると、ファントムロードの周囲に五つの魔法陣が出現し、そこから青白いレイスが召喚された。
いや、レイスじゃないぞ……
「これはレイスの上位種……ファントムですわ! レイスとは桁外れの魔力を持ち〈屍雷〉というスキルを使います! 触れると精神を壊されので気を付けて下さい!」
マリンの忠告と同時、五匹のファントムはスキルを行使する。
宙に舞うファントムから雷のような青白い閃光が降り注ぐ。
「きゃぁぁぁ!!」
「くそ!」
俺たちはなんとか一撃目を躱す。
「【神聖なる光の陣】!」
マリンの祈りの声が響き、二匹のファントムを聖なる領域に閉じ込めた。
しかし……
「うっ……」
「マ、マリン!」
その場に倒れそうになるマリンをギリギリで支える。
「どうした!? 反撃されたのか!?」
「すみません……魔力を使い果たしてしまったようです」
力なくそう答えるマリンを『マナ視の魔眼』で注視する。
たしかに体内のマナが残りわずかだ。
これ以上魔法を使うのは危険。
カナタたちに手を貸し、館内のレイスを浄化して回ったマリンは、すでに限界に達していたんだ。
……俺のせいだ。
役立たずだったくせにアスカの捜索に手を貸したいなんて考えてしまったから。
せめてマリンのことをもっと気にかけていれば。
辛そうに俺にもたれかかるマリンを見て、俺は自責の念に苛まれた。
「次が来る!」
ルナの悲痛な声に顔を上げると、ファントムロードが俺たちを睥睨していた。
次の瞬間、ファントムロードから青白い触手のような靄が何本も伸び、みんなに襲いかかった。
よく見ると触手の先端は牙を剥き出しにした口のようになっている。
その触手の一本が俺の体を抉るようにすり抜けた。
「うぐっ……何だ今の……?」
まるで体の中身を抜き取られたかのような虚脱感に襲われる。
慌てて意識を集中させると、その触手が直接マナを喰いちぎっているのが見えた。
「それは……相手の生命力を喰らうスキル、〈ソウルイーター〉です……何とかして逃げないと……全滅してしまいます」
マリンの弱々しい声に戦慄が走る。
俺は慌てて全体に意識を集中させた。
ルナたちはまだ少し余裕がある。
カナタたちはアスカが危ないが、二人が何とか守ってる。
多分みんなまだ大丈夫だ。
でも、マリンだけはこの攻撃を受けたらダメだ。
本当に死んでしまう。
マリンを抱え起こし、マリンに襲いかかる触手からギリギリで守る。
「ハル……わたくしのことはいいですから、他のみなさまを助けて下さい」
必死に起きあがろうとしながらマリンが言う。
そんなこと……
「そんなこと出来る訳ないだろ! お前のことは俺が絶対守ってやる!」
死なせてたまるか!
俺はマリンを抱えたまま立ち上がり、迫り来る触手を必死に回避する。
何か……何かないか。
この結界さえ無くなれば、きっとルナとリリィが何とかしてくれる。
それなら……
「ルナ! この結界の核みたいなところがないか探してくれ!」
俺の頼みに、ルナは無言でコクリと頷く。
「マリン! 今から俺の魔力をお前に流し込む! その魔力でさっきの魔法をもう一度だけ使ってくれ!」
「ど、どうやって魔力を!?」
「俺の手を握れ!」
「て、手ですか!?」
「早く!」
差し出されて俺の手を見てマリンは一瞬躊躇する。
しかし、すぐに意を決した顔をして、俺の手を両手で祈るように強く握り締めた。
よし……これなら!
俺の考えはこうだ。
闘気を剣に送り込む要領で、マナのまま、マリンの体に流し込むんだ。
やったことないから分からないが、多分衣服越しだったり、相手に受け入れる意思がないと、マナを送り込む効率がかなり落ちると思う。
「何か違和感があったらすぐに言ってくれ!」
「は、はい!」
男と手を繋ぐなんて嫌だろう。
でも、今はこれしかない。
我慢してくれ。
俺は心の中でマリンに謝罪しつつ、作業を始めた。
急激にやってくる虚脱感。
生命力を送ってるようなものだからな。
俺のマナで足りればいいが。
「な、何でしょう、体が楽に……」
マリンは困惑しながら言う。
「どうだ? 魔法は使えそうか?」
俺のマナをマリンに与えた。
体に影響が出ないか不安だ。
「……ええ、これならいけますわ!」
マリンは力強く頷きながら答えた。
「ハル! 敵の足元!」
マリンが回復したと同時、ルナが結界の核となる場所を見つけてくれた。
確かにあそこだけマナが濃い。
「ありがとうルナ! マリン! 頼む!」
俺の合図に合わせて、祈るようにマリンは詠唱を始める。
優しく心に響く歌声のようだ。
手を繋いでいたからだろうか。
それともマナを送ったからだろうか。
マリンが行使しようとしている魔法が、なんとなく理解できた。
それと同時に気付く。
この魔法だと結界の核を破壊できない、と。
もっとこう範囲を絞って……例えば球状にして、結界内で魔力が循環するようにできれば、浄化の力も上がると思うんだが。
「【神聖なる光の陣】!」
そんなことを考えていると魔法が発動した。
「あれ?」
ファントムロードの足元に魔法陣が出現し、聖なる光が立ち上ったかと思うと、その光はファントムロード包み込むように形を変えていった。
「な、なんですか!? ハル、あなた何かしましたか!?」
「何もしてないぞ!? マリンがやったんじゃないのか!?」
俺たちが狼狽する中、聖なる結界は完成し、ファントムロードを完全に封じ込めた。
「ぐわぁぁぁぁぁ!!!」
閉じ込められたファントムロードが苦痛の叫びを上げる。
俺が想像していた通り、魔力が狭い範囲を循環したことで浄化の力がかなり増していたようだ。
よく分からないが、ラッキーってことにしておこう。
そして……
ピシピシピシ……パリーン!
広間を覆っていた結界に亀裂が入り、粉々に砕け散った。
結界の核もしっかり破壊できたようだ。
「ルナ! リリィ! 後は任せた!」
俺の声に二人は頷き、力強く詠唱し……
「【ビッグファイヤーボール】!!!」
「【風華竜巻魔法】」
必殺の魔法が放たれる。
リリィ必殺の火炎球と、少し触れただけで粉々に斬り刻まれそうなルナの竜巻が合体した。
竜の如くうねる炎刃の渦となって、取り巻きのファントムを巻き込みながら、弱体化していたファントムロードに突き刺さる。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!」
鼓膜が破れそうになるほどの悲鳴を上げ、ファントムロードは跡形もなく消え去った。
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