10.VSサキュバス
「【神聖なる光の陣】」
マリンの祈りによって、目の前のレイスが浄化されていった。
さっきからレイスとの遭遇率がすごいことになっている。
その度にマリンが結界魔法で退治してくれていた。
「ありがとうマリン。お前がいなかったら俺たちはやばかったよ」
「本当に。ハルは今回何の役にも立っていませんわね」
「う……」
本当のことを言われ返す言葉もない。
そんな俺を見て嬉しそうにするマリン。
いつか仕返ししてやる。
俺はそう心に誓いつつ、現状を整理する。
「一階は部屋が二つ、トイレ、風呂、物置か。どこにもいなかったな」
「そうですわね。いたのはレイスのみですわ」
「二階も人の気配はなかったし、やっぱり反対側かもな」
俺たちはカナタの仲間であるアスカの捜索を手伝っている。
しかし一階、二階にはアスカの姿はなかった。
「マリンとやらは魔法を使えるのだな」
「俺様の指示通りだな。まぁまぁ使えるみたいだ。いい女だしハルなんかには勿体ない。俺様の手下に加えてやろう」
ダンは感心し、カナタは相変わらず上から目線で言ってくる。
そんな二人をマリンは完全に無視し、俺にのみ話しかけてくる。
「三階にいるかもしれませんわ。さっさと終わらせて解散しましょう」
マリンはそう言ってさっさと階段を上がる。
俺のわがままでアスカを探すことになった。
文句は言ってこないが、かなりマリンに我慢をさせているみたいだ。
早くアスカを見つけ出さないとな。
「ダン、カナタ、三階に行くぞ」
「了解した」
「クソ雑魚野郎! 俺様に指図すんじゃねぇ! 後ろ歩けや!」
二人の返事を確認して、俺はマリンの後を追う。
――
三階に上がってすぐのところに大広間があった。
元々ここを抜けて館の反対側へ行こうという作戦だった。
ここまで結界で塞がれていたらお手上げたご、どうやら杞憂だったらしい。
「結界はなさそうだな。ここを抜けて反対側へ行けそうだ」
安堵する俺の後ろから、緊張したダンの声が届く。
「俺たちはここであの悪魔にやられたんだ。油断は禁物だぞ」
その言葉がフラグになったのか。
広間に妖艶な声が響く。
「とうとうここまで来たのか」
いつの間にか目の前にあの悪魔が立っていた。
その隣には綺麗な金髪の女性。
「アスカ!」
「ま、待てダン!」
ダンは叫びながら駆け寄ろうとして、
「ぐはっ!?」
アスカに殴り飛ばされた。
「やっぱりだ……アスカも操られてるな」
俺はアスカのマナを見て、カナタたちと同じ状態だったことに気付いた。
「それは本当ですか? サキュバスは男性しか操ることができないはずですのに……」
俺の言葉にマリンも動揺する。
「ここまで来た褒美だ! 私と戦うことを許そう! まずは邪魔な貴様からだ!」
悪魔はそう叫びながらレイスを大量に呼び出し、マリンに襲い掛かる。
「なんて数だ! マリン! こっちに……」
「あははははは!」
生気を失ったような虚な顔をしたアスカが、かん高い笑い声を上げながら、俺に向かって飛び掛かってくる。
「クソ!」
「どきやがれ!」
迫りくるアスカに対峙しようとした俺を足で押しのけ、カナタがアスカの拳を受け止める。
「こいつは俺様の手下だ! てめぇなんかの力はいらねぇんだよ!」
「……頼んだ!」
俺はアスカをカナタたちに任せると、マリンを襲おうとしていた悪魔の前に立つ。
「お前の相手はこの俺だ!」
「……面白い。我……私の相手をすることを認めよう!」
悪魔は俺の挑戦を受けると、どこからか大鎌を取り出し、俺に向けて一閃させる。
俺はそれをギリギリで躱す。
速すぎだろ!
あんな大きな鎌をこの速度で振り回されたら間合いを詰められない!
マナの動きを見て先読みしているが、少し違和感がある。
カウンターを入れるタイミングが見つからない。
さっきのカナタほどではないが、この悪魔も少しちぐはぐなマナの動きをしていてやりづらい。
「どうした? 避けるだけでは私には勝てんぞ」
美しい顔に極悪な笑みを浮かべ、悪魔はさらにスピードを上げてくる。
「なら……こういうのはどうだ!?」
俺は横なぎに振り払われた大鎌をしゃがむようにして躱し、地に付けた左手で魔法を発動させる。
「【アイス】!」
「なっ!?」
一瞬で張られた氷に足を取られ、悪魔はバランスを崩した。
その隙を見逃さず、俺は低い姿勢のまま悪魔にタックルし、引き倒した。
「もう一度、【アイス】!」
続けざまに魔法を発動する。
倒れた悪魔の四肢を硬い氷で固定して、身動きを封じた。
「俺の勝ちだな……そこで大人しくいしてな」
倒れたときに頭を打ったのか、悪魔は目を回して倒れたままだ。
「女性にいきなり抱き付くとは、さすがは変態男ですわね」
いつの間にあの大量のレイスを退治したのだろうか。
マリンが俺の横に立ち、いつもの調子で罵ってくる。
「べ、別にそういうつもりじゃ……」
「うふふ、わたくしに手を出しておきながら、いい度胸ですわ」
どこから取り出したのか。
マリンの手には鞭が握られ、俺を怒ったような興奮したような目で睨んでくる。
「い、今はそんなことしてる場合じゃないだろ! アスカはどうなった!?」
俺は慌てて話題を変え、アスカと戦っていたカナタたちを見る。
「こっちも終わったぞ」
復活していたダンが俺を見て言う。
どうやら俺が悪魔を気絶させた時点で、アスカも気を失ったらしい。
「そうか、よかったな」
「ハル、ありがとう」
ダンはじっと俺を見て感謝を告げてきた。
カナタは不機嫌そうな態度のまま、相変わらず俺を睨んでたけど。
「ああ」
俺はダンにそれだけ言ってマリンに向き直る。
「マリン。付き合わせて悪かったな。ありがとう。アスカも見つかったし、早くルナたちを探しに行こう」
「気にしなくていいですわ。ハルがずっとあの調子ではわたくしもあなたを嬲って遊べませんから」
「いちいち一言多い奴だな」
そんなやり取りをしていると、広間の反対側から叫び声が聞こえてきた。
「マリン! ハル! 無事だったんだね!」
リリィだった。
リリィは怖かったと号泣しながらマリンに飛びついてきた。
ルナも一緒だ。
リリィと違ってルナはクールだが。
「ハル。無事でよかった」
「ああ。お前らもな」
俺たちは互いの無事を喜び合った。
しかし次の瞬間、広間の出入り口に黒い光が走り、結界で閉ざされた。
「こ、今度はなんだ!?」
「もういやあああ!」
「結界……閉じ込められた」
「これは最初にわたくしたちを分断ものと同じ波長を感じますわ!」
もう終わったと思っていた俺たちは動揺を隠せない。
「ふふふふふ……ははははははは!」
声の方を見ると、悪魔が寝たまま声だけ発している。
女性の声と男性の声が入り混じった、聞き覚えのない不気味な声が広間に響き渡る。
「ここは私の館……貴族である私の敷地に侵入した無礼者共! 死をもって贖うがいい!」
悪魔が青白く発光したかと思うと、その光が靄のように浮き上がり、まるで貴族のような容姿をしたレイスが出現した。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「この後一体どうなるのっ……!?」
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