9.何でコイツらが幽霊屋敷に?
「チッ、何で俺様がF階級なんだよ」
俺は苛立つ気持ちを隠すこともせず、組んだ足をテーブルにドンと乗せた。
「畑の手伝いなんて馬鹿な真似、俺のプライドが許さねぇ」
「まったくだぞ。俺は食べるのは好きだが、作るのは嫌いだ」
俺の文句に、腕を組んで憮然としていたダンが同調してくる。
「本当よね。畑仕事なんてしたら衣装もアクセも汚れちゃうんですけど……まぁ、私は討伐もお断りだけど」
アスカも頬杖をつき、毛先を指でクルクルと弄りながら文句を言う。
俺たちは冒険者としての名声を高めるため、依頼を受けようとわざわざギルドへ行ってきた。
それなのに……「あなた方の冒険者ランクはFですので、討伐系の依頼はできませんよ。まずは安全な町内で経験を積み、実力を認められてからにして下さい。それから、私には心に決めた英雄がいますので誘われても困ります。他を当たってください」……だと!?
「あの眼鏡女、俺様を舐めやがって」
思い出したらまたイライラしてきやがった。
「カナタ最近連続でフラれてるわね。ウケるんですけど」
「アスカてめぇ! ぶっ殺すぞ!」
「やめないかカナタ! アスカも!」
チッ、ダンが止めなきゃこの生意気な女をボコボコにしてやったのに。
そのまま俺たちは何のやる気も起きず、ニューキャッスルのアジトでダラけていた。
「ふっふっふ、相変わらずダラシないですねー」
そこへカーネルが戻ってきた。
「チッ、何しに来たんだよ」
「何しにって……ここは私のアジトなんですけどねー。まあいいでしょう。実は良い話と良い物を持ってきたのです。どちらから聞きたいですか?」
ふっふっふと肩を揺らしながら、怪しげな仮面の男はそう言った。
「どっちでもいい、早く言え」
何を企んでいるのかは分からないが、この男がまた俺たちを利用しようとしているのには気付いた。
だが、俺は相手をするのが面倒になり適当に話を促す。
「では、まずはこちらから」
そう言ってテーブルに一枚の紙を置くカーネル。
「これは……依頼書だな」
「えーっと、幽霊屋敷の……調……査……」
ダンは分かっているのか頷いている。
アスカは依頼書を読んでどんどん顔を青くしている。
「本来は難易度Bの依頼ですが、依頼主に直談判して取ってきました。あなた方にこの依頼へ行ってもらいます」
カーネルは仕事を取ってきたと自慢げにそう話す。
「何が良い話だ、馬鹿か? 幽霊屋敷なんて子供の悪戯か何かだろ」
俺はそんなカーネルに悪態をつく。
「最後まで話を聞きなさい。肝心なのはその報酬です」
カーネルはこの依頼の報酬で館を手に入れ、ニューキャッスルの新しい拠点にすると言う。
「へぇ、確かにここは狭くて俺様には見合ってなかったからな。なるほど、悪くねぇ話だ」
俺の言葉を聞き、カーネルも満足そうに肩を揺らす。
「んで? 良い物ってのは?」
良い話はたしかに悪くなかった。
つまり良い物もそれなりに期待できる。
俺はそう思ってカーネルに催促する。
「ふっふっふ。リーダーであるカナタの剣がダメになっていましたね?」
「…………」
思い出させるなよ。
俺はそう思い黙る。
ハルとの戦い、最後の一撃で俺の聖剣はハルの攻撃によって叩き折られていた。
「魔法もろくに扱えない上に、メンバー全員が丸腰というのは流石に問題があります。これは私からのプレゼントですよ」
カーネルはふっふっふと笑いながら一振りの剣をテーブルに置いた。
「へぇ、気が効くじゃねぇか」
俺はその剣を抜き確認する。
刀身は漆黒だ。
「前のは聖剣だったらしいですねー。なのでこの剣の名は『ニュー……」
「なるほど、ならこいつは『真聖剣アロンドーア』ということか。気に入ったぜ」
俺の言葉にカーネルはつまらなそうにしていたが、すぐに気を取り直して話を再開する。
「その剣を使い、新しい拠点を手に入れてきなさい」
そしてカーネルは俺たちに偉そうに命令する。
「俺様に命令してんじゃねぇよ。俺様は俺様の意志でこの館を手に入れてくる」
「がっはっは! マスターよ! 俺たちに任せておけ!」
「本当に行くの? 私はもう少しここで我慢できるけど……」
そうして俺たちは幽霊屋敷へと出発した。
――
「それでこの館へやって来て、女の悪魔に襲われたのだ」
腕を組んで語るダンは、そう言って話を締めた。
「チッ! もういいだろ!」
カナタは苛ついた様子で声を荒げている。
「もしかしたら、操れたアスカが館の反対側でルナたちと会っているかもしれないな」
俺は騒ぐカナタを無視して話を進める。
「ルナ? ハルの仲間か?」
「ああ、優しい子だから安心しろ」
「おい! 俺様を無視してんじゃねぇ!」
俺とダンがそう結論付けた時、思案気にマリンが口を挟む。
「……先程の悪魔は……恐らくサキュバスですわ」
サキュバス。
人間の、特に男性の生気を吸って生きる悪魔で、男を魅了して言いなりにする力を持つらしい。
人の暮らす領域でたまに出現する低級の悪魔とは違い、力ある上位悪魔の一種だ。
「そんなすごそうな悪魔だったのか……たしかに昔カナタたちと戦った悪魔とは存在感が違ったもんな」
「真聖剣を持つ今の俺様ならあんな女悪魔なんか一刀両断だぜ」
自信満々に言うカナタ。
その悪魔に操られていたのはどこのどいつなんだか。
俺は呆れつつ無視する。
「マリン、それがどうしたんだ?」
「サキュバスは〈誘惑支配〉というスキルを持っているのです。ホールであの悪魔と邂逅した時、ハルに仕掛けようとしていたのをわたくしが未然に防いだのですが、気付いていますよね?」
「あ、ああ。勿論だよ」
頭叩かれた時か?
気付かなかった……
「サキュバスの使用する〈誘惑支配〉は強力ですが、雄にしか効果がありません……つまり、アスカさんとやらには通用しないはずです」
なるほどと納得する俺たち。
アスカは操られてはいない……
「だとすると、どこかに隠れているのかもしれない。面倒だけど一部屋ずつ確認していくしかないか……」
俺とマリンは仕方ないと思いながら頷き合う。
「俺様は知らねぇぞ! てめぇらと組んであの馬鹿を探すなんてごめんだ! 俺様は先に帰るぜ!」
まだ騒ぎ続けるカナタ。
とうとう館を出て行こうと歩きだす。
「お前いい加減に……」
「何を言っている! また仲間を置いて行くつもりか!」
流石に頭にきて文句を言ってやろうかと思った俺の言葉を遮り、ダンが激高してカナタに掴みかかる。
「な、何しやがる!」
普段従順なダンの怒りに、カナタは一瞬戸惑いをみせた。
「お前はいつまで過去に拘っているのだ!? 俺たちはニューキャッスルの仲間だろ!」
「黙りやがれ! てめぇらはただの手下だ!」
「まだそんなことを言っているのか!?」
二人の叫び声が館内に響く。
食に関して意地汚いところはあるが、元々ダンは仲間思いなやつだった。
今のダンは勇者パーティーになる前、仲間思いだった頃に戻っているのかもしれない。
俺が言い合いをする二人に何も言えずにいると、マリンが俺の袖を引きながら言う。
「ハル、行きましょう。一階から一部屋ずつ確認します。この館は特異な空間に閉ざされていますので、外へ出ることはできませんわ」
「……ああ。行こう」
マリンにはさっきから助けられてばかりだな。
俺がマリンと一緒に階段へ向かうと、ダンがカナタを無理矢理引き連れて付いて来た。
外に出られないと聞いてカナタも諦めたらしい。
嫌そうに俺を睨んでくるけど、これ以上マリンに気を使わせないためにも、気をしっかり持たないとな。
俺は気持ちを切り替えてアスカの捜索を開始した。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「この後一体どうなるのっ……!?」
と思ったら、
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。




