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8.お人好し

「ハル! ゴースト系の魔物は固有スキル〈物理攻撃無効〉があります! ただ剣を振るうだけでは効果はありません! そして奴らの攻撃に触れると、肉体ではなく精神にダメージを受けてしまいます!」

「マジか!? 一体どうすれば……」

「わたくしにお任せください」


マリンは祈るように両手を胸の前で組む。


「聖なる領域は邪悪な力から我らを守らん……【神聖なる光の陣】(セイントフィールド)


マリンが魔法を唱えると、俺たちを囲んでいた魔物の足元に、神々しい光を放つ魔法陣が出現する。


その魔法陣から光の柱が立ち上り、聖なる領域に閉じ込められた魔物は一瞬で浄化された。


「す、すげぇ……これが光魔法か。いつも回復魔法を使う時はちょちょいとやってくれるもんだから、光属性魔法って大したことないのかと思ってたよ」

「この魔法は光魔法ではなく結界魔法です。聖なる結界で自身を悪意から守る魔法ですわ。結界内が聖なる魔力で満ちておりますので、こういう使い方ができるのです。回復魔法に関しては、わたくしの得意分野だから簡単に見えたのでしょう……それよりも、そろそろ下ろしていただけませんか?」


説明を聞いて感心していた俺に、恨みがましい声でマリンが言う。


さっきマリンを魔物から助けた時、焦って抱きかかえていたらしい。


「ご、ごめん!」


俺は慌ててマリンを下ろす。


「……行きましょう」


ふいと顔を背け、そそくさと歩き出すマリン。


一瞬見えた横顔は、少し赤くなっていたようだった。


男性嫌いなマリンのことだ。

怒っているのかも。


俺は反省しつつマリンの後を追う。


「たしかこの館は三階層でしたね」

「あ、ああ。多分この吹き抜けの更に上の階に大広間があるはずだ」


マリンの機嫌を伺いながら会話をする。


不動産屋で見た間取り図では、今いる玄関ホールや食堂などがあるメイン棟から、左右対象に各部屋が並ぶ建屋が伸びている。


「この結界を破るのは難しそうです。三階まで上がり、折り返して反対側へ行きましょう」


頭の中で図面を思い出しながら、俺とマリンは行動方針を定める。


玄関ホールにある階段は〈妨害(バリケード)〉の力で封鎖されていて通れない。

俺たちは一旦奥へと進み、横に伸びる建屋の階段から上を目指すことにした。


「まったく人がいる気配がないんだけど……前に冒険者がここに来たのって数日前だよな?」

「そのはずです。恐らく、先程現れた館の主を名乗る女の力でしょう。不思議な魔力がこの建物を特異な空間へと変えているようです」


特異な空間。


そういうことだったのか。

いくら大きな屋敷だからって、泣き叫ぶリリィの声も、先に来ているはずの冒険者の気配も、何も感じることができない。


「ただ……先程の女は悪魔だと思われます」

「やっぱりか。前にマリンが作ってくれた衣装と似た角があったもんな。翼とかも」

「ええ。ですが、そうなると少し違和感が。この特異空間や先程の結界も、感じる魔力の波長が悪魔らしくないのです。眷族の悪魔ではなく、ゴースト系のレイスを呼び出したことも。あれはどちらかというと、霊的な……」

「れ、霊……!?」

「それもこの館を覆うほどの規模の力。かなりの大物が潜んでいるかもしれません」


やっぱり来ない方がよかったか?

攻撃が当たらない俺なんて完全に足手まといだ。

そもそも怖いし……


俺は怯えながら、相変わらず男前なマリンの後を追うように階段を上がった。


「先程のレイスたちをもう葬ったのか?」


階段を上がった先で、またしてもあの悪魔と遭遇した。


さっきよりも目が暗闇に慣れてきたからその姿かよく見える。


一言で表すなら、エロい美女だ。


暗紫色のねじれた角に、漆黒の翼と細長い尾。

露出の多いボンテージ衣装は、妖艶な肢体をかろうじて覆っている。

薄紫のロングパーマを掻き上げながら、俺たちを値踏みするように見つめてきていた。


しかし、その赤紫色の魅惑的な瞳は、少しくすんでいるように見えた。


「出ましたわね! わたくしの魔法で……」

「ま、待てマリン! 後ろに人が!」


悪魔に向けて魔法を唱えようとするマリンを、俺は慌てて静止させる。

悪魔の背後に二人の人影があったからだ。


まさかルナとリリィが!?


「では、これはどうかな!」


慌てる俺たちを無視して、悪魔は楽しそうに宣言する。


それと同時に二人の影が飛び出してきた。

漆黒の剣と大きな拳が、俺とマリンを襲う。


「ヒヒヒヒヒ!!!」

「がはははは!!!」


高笑いしながら向かってくるのは、逆立つ金髪の男とモヒカン頭の大男。


「勇者!? それにダンか!?」

「まさか先日訪れた冒険者とは……」


マリンの声に俺もその考えに思い至る。


それにしても、奇声を上げる勇者とダンの二人は、実に不気味な出立ちだった。

いや、今はもう勇者ではないんだったか。

まぁいい。


カナタたちの顔は生気を失ったかのように虚で、目がくすんでいる。


動きもおかしい。


収穫祭で戦った時、カナタの剣は一流のそれだった。

しかし、目の前のカナタはただ闇雲に剣を振り回すだけ。

剣筋も足の運びもデタラメだった。


それはダンも同様である。


「キキキキキ」


二人の背後から、更にレイスが出現する。


「マジかよ!? マリンいけるか!? カナタとダンは俺が相手をするから!」

「仕方ありませんね……」


言いながら、マリンは何か魔法を発動させた。


マリンの手にキラッと白い火が灯ると、レイスたちが狂ったようににマリンへ襲いかかった。


おそらく魔物をおびき寄せる魔法か何かだ。

さっきより魔物の数が多い。

流石のマリンでも厳しいかもしれない。


俺は一気に二人を倒してマリンの支援に回るため、対峙するカナタとダンに意識を集中する。


マナが見えてきた……が、これは?


通常、例えば剣を振る時、剣を握る手や踏み込む足にマナが集中していく。

それは動き出す前、剣を振ろうと意識した時にマナは動き出している。

俺はその動きを観察することで、相手の次の動きを先読みして対処していた。


それが今回は勝手が違う。


カナタたちの動きとマナの動きが一致していない。

というか、マナに動きがほどんどない。


それとは別。

頭のあたりから伸びる、揺らめくマナの線が見えた。


「やっぱり操られているのか」


それなら、あのマナの線を取り除けば助けられそうだ。


「動きは読みづらいけど、収穫祭の時の方が厄介だったぜ!」


俺は乱暴に振り回される剣と拳をかいくぐり、二人の背後に回り込む。

そして、闘気を込めた剣をしっかりと握りなおし、二人の頭上を横なぎに一閃した。


動きを止める、その場に倒れるカナタとダン。


よし、こっちはこれで大丈夫だ。


「マリン! 今そっちに……」

【神聖なる光の陣】(セイントフィールド)!」


マリンの援護に向かおうと振り返ると、次々と光の柱が乱立し、レイスたちが消滅していった。


「わたくしは大丈夫ですわ。あなたこそ怪我はありませんか?」

「はい。大丈夫です……」


何とも頼もしいマリンだった。



――



俺たちは少し悩んだ末、カナタとダンが目覚めるのを待った。


ルナたちのことは心配だが、危険な場所に無防備な二人を放置する訳にもいかない。


正直、もうカナタたちとは関わりたくなかった。

苦渋の決断だ。


「う、俺様は一体……」


カナタが目を覚ます。


「これでもういいですわね。ハル、先を急ぎましょう」


仕方なく二人に回復魔法を施していたマリンは、カナタが起きるとすぐに立ち上がり、目的の三階へ向かって歩き出す。


俺もそれに続こうとして、


「んな!? ハル!? 何でてめぇがこんなところにいやがるんだ!?」


驚愕したカナタは、叫びながら俺の胸ぐらに掴みかかってくる。


「何すんだよ! 離せよ!」

「待つんだカナタ! ハルとそこの女は操られた俺たちを助けてくれたのだぞ!」


俺が引き離そうとしていると、先に目覚めていたダンが仲裁に入る。


「助けられただぁ!? てめぇとうとう頭がおかしくなったのか!? 俺様がこんなクソ雑魚野郎の助けなんて借りる訳がねぇだろ!」


カナタは俺とダンを睨みながらそう叫ぶ。


「ハル、時間の無駄ですわ。行きますよ」


マリンがカナタを冷たく見やり、俺に再度声をかける。


俺はカナタの手を振りほどき、マリンの後を追ってその場を去ろうとした。


「ま、待ってくれ! もう一人、もう一人女はいなかったか!? ハル! アスカを知らないか!?」


去ろうとする俺たちに、ダンが慌てて聞いてきた。


「……見てないよ。俺たちが会ったのはお前とカナタ、それと女性の悪魔だけだ」


必死な様子のダンに、俺は仕方なく答える。


「頼む! アスカの捜索を手伝ってくれ! 俺たちではこの館の魔物に太刀打ちできないんだ!」

「おいてめぇ! よりにもよって誰に頼んでんだ! ふざけんなよ!」


ダンは土下座する勢いで俺に頭を下げ、カナタはその行為に憤慨している。


「…………」


カナタたちにはもう関わりたくない。

これは間違いなく本心だ。

でもなぜか、このまま見捨てて進むこともできない。


どうすればいいんだ……


「ハル……大丈夫ですか?」


いつも俺をからかうことしか考えていないマリンが、心配そうに俺の前に戻ってきた。


「……放っておけないのでしょう? あなたは間抜けですが、お人好しでもあります。わたくしはあなたのそういったところも好ましく思っているのですよ」


マリンの優しい言葉に、俺は涙腺が緩みかけた。


「間抜けとか……言うなよ」


そして俺はモヤモヤを吹っ切るように自分の顔をパンパンと叩く。


「ダン! 何があったのか詳しく聞かせてくれ!」


俺はカナタたちへと向き直り、そう声をかけたのだった。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「この後一体どうなるのっ……!?」


と思ったら、


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


何卒よろしくお願いいたします。

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