表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/85

7.幽霊屋敷

『幽霊屋敷の調査』

町東部にある元貴族の屋敷。

今は幽霊屋敷と呼ばれ畏怖されるその館を調査し、諸悪の根源を絶ってほしい。

依頼難易度(クエストランク)

依頼(クエスト)期間 3日

報酬 現在提示している売値から、さらに3/4の価格での物件譲渡



――



「こ、これは……ヤバいな」


目の前の光景に俺は思わず息を呑む。


「マ、マジでここに入るの?」


リリィに至っては泣き出しそうだ。


不動産屋を出た俺たちは、早速例の館へとやって来た。


旧アルバス邸。

過去にアルバスという貴族が住んでいたらしいその館は、町の一角に、かなり大きな敷地を有していた。


華やかだったであろう庭園は、荒れ果てて雑草が生い茂っている。

敷地内にある池からは汚水が悪臭を放っていた。


そして中央に(そび)える大きな館。

管理がまったく行き届いておらず、窓のガラスが割れ、外壁のそこかしこには蔦が這っている。


アルバス伯爵という人物は、非常に欲深いと有名な貴族だったらしい。

領主相手にも身分を盾にして脅し、町の税に着服し私服を肥やしていた。


不動産屋からは貴族間競争に負けたと聞いていたが、どうやら領主からの差金で、この館で暗殺されたらしい。


ギルドへ戻って受注手続きをしている時、エリーから聞いた情報だ。


そして現在。

時刻は夕刻。


あんな話を聞いた後で、しかももうすぐ日が暮れる。

俺やリリィが不安に思うのも無理はないはずだ。


にも関わらず、


「邪悪な気配を感じますわ」

「問題ない」


俺たちの前に立ち、少ないやりとりを終えたマリンとルナが、何でもないことのように館へと歩み出す。


「ち、ちちちょっと待て! 一回待とう!」

「そうだよ! 今日はもう遅いし! 一回寝て、明日どうするか考えよ?」


男前な二人を俺とリリィが必死に食い止める。


「何なのですか? 依頼(クエスト)はもう受けてしまっているのですよ?」

「すでに先行してこの館に来ている冒険者もいる。安否を確認する意味でも猶予はない」


ヘタレ二人の説得では、この男前たちを止めることはできなかった。


俺たちは恐る恐る館へと歩を進めるのだった。



――



ギィィィィィ


金具が錆び、大きくて重たい扉をゆっくりと押し開ける。


館の正面から侵入した俺たちの目にまず飛び込んできたのは、散乱した家具やゴミの山だった。


「これは……おかしいよな?」


さっさと入ってしまう仲間たちを後ろから見つめながら、俺は一歩を踏み出せずに言った。


「どうしましたか?」


マリンが呆れつつ問い返してきた。


「いやいや、おかしいだろ。ずっと使われてなかった館の玄関に、なんでこんなに家具が散乱してんだよ」


俺の後ろから背にしがみつく勢いで怯えていたリリィも、うんうんと激しく首を縦に振っている。


「これは〈妨害〉(バリケード)。おそらく侵入を防ぐために、ここの主が集めた物」

「バリケード?」


ルナが淡々と説明する。


人とは違い、魔物や魔獣にはスキルという能力があるらしい。


そしてこれは、ゴースト系の魔物が持つ固有スキル〈妨害〉(バリケード)

ゴーストとは、死してなおこの世に未練を持つ者が、世界の理から外れることで魔物化した存在だ。


肉体を持っておらず、怨念による魔力のみで存在を維持しているとか。

そしてそのスキルは、自分たちの陣地への侵入を防いだり、逆に誘導したりするのに使われる。


ただ散乱しているように見えるけど、それらには魔力が込められていて、気を確かに持っていないと都合がいいように誘導されてしまうらしい。


「これは……二手に誘われているようですわ」


ルナと同様に、冷静な判断で状況を分析するマリン。

神官衣を着ているだけあり、光属性魔法が得意なマリンは、男前にもこんな時でさえ怯えの色を見せない。


そんな二人を頼もしく思い、つい館に足を踏み入れてしまう。


ギィィィィィバタンッ!!


重たい扉が突然閉まる。


「きゃぁぁ!!」

「ぎゃぁぁぁ!!」


リリィが泣きながらルナに飛びつく。


俺も側にいたマリンにしがみつ……

こうとして、どこからか取り出した鞭で素早く縛り上げられ、床に転がされた。


クスクスクス……

ヒヒヒ……

アハハハハ……


館内に響く声。


楽しそうな、悲しそうな、笑っているような、泣いているような。


扉が閉まるまでは夕陽が差し込んでいた館内が、今は明かり一つない真っ暗闇になっていた。


一度は恐怖に目を瞑っていた俺も意を決し、『マナ視の魔眼』を開眼して周囲に視覚を集中させる。


いつかの野盗襲撃時同様、マナを視認する俺の目は人の形をしたマナを捉える。


数は一つだ。


「そこの方! 何者ですか!?」


マリンが叫ぶ。


ルナも俺と同じ魔眼持ちだから見えているだろうが、どうやらマリンにも見えているらしい。


普段から聖メリウス教の敬虔なる信徒と豪語していたマリンは、ゴーストやアンデットなんかを相手するのは得意なのかもしれない。


その気配を探り出し、警戒を行なっている。


「ようこそ我が城へ。歓迎するぞ」


その魅惑的な女性の声に、俺は目眩がするほどに聞き惚れた。


「ハル! しっかりしなさい!」


床に転がっていた俺は、後頭部をマリンに叩かれたことで我に返る。


「な、何すんだよ!」

「今の声は少し危険な気配があったので、仕方なく手で叩きました。本当は鞭で打ちたかったのですが、緊急なのでご容赦ください」


いつになく真剣な声音で、意味の分からないことを言うマリン。


マリンに文句を言いつつ、俺は改めて視覚に集中する。

大分目が慣れてきた。


吹き抜けの玄関ホール。

正面二階の手すりに座るのは……美女だ。

だが、人……ではない。


よく見ると、その美女の頭にはねじれた一対の角があり、背中からはコウモリのような翼が生えていた。


暗くてよく見えないが、なんかすごい格好をしているような気がする。


「私を無視して会話をするとは……まぁいい。お楽しみはこれからだ!」


そうこうしていると、美女が叫んで指を鳴らした。


その瞬間、ホールを分断するように黒い光が格子状に走った。


「な!? これはルナが使っていた魔法技術(マジックアーツ)!?」

「少し違う。効果は似てるけど、これも魔物のスキル。私たち四人だけが通り抜けられない」


驚いた俺に、結界の向こう側から冷静なルナが答える。


向こう側?


「大変ですわ! わたくし達も分断されてしまいました!」と、慌てるマリン。

「ルナァ! どうしよぉ!」と、泣き出すリリィ。


「落ち着けみんな! まだ慌てるような時間じゃ……」

「それではお前たち! 歓迎の宴を始めよう!」


鞭から解放され、立ち上がりながらの俺の声は、美女の高らかな宣言によって遮られた。


宣言に呼応して、突然周囲に複数の気配が現れる。


「な!?」

「マジかよ!?」


俺とマリンは突然すぎる出来事に驚愕する。


俺たちを取り囲むように、人型の半透明の魔物が出現したのだ。


「くっ!」

「いやぁぁぁ!!」


ルナの焦る声とリリィの悲鳴も聞こえた。

結界の向こう側でも、同じことが起こっているみたいだ。


チラリとそちらに目を向けると、何とか対処しようとするルナに、泣き顔のリリィがしがみついているのが見えた。


「ルナ! リリィ! 大丈夫ですか!?」


マリンが慌てて叫ぶ。


向こう側に気を取られた一瞬を見逃さず、魔物の一匹がマリンに襲いかかる。


「ば、馬鹿野郎! 立ち止まるな!」


俺はマリンを抱き寄せ、間一髪で魔物の攻撃を回避する。


「何やってんだ! 囲まれてるのに立ち止まるなんて!」

「ですが! ルナとリリィが!」

「あいつらは大丈夫だ! 俺たちより強い冒険者なんだぞ! 俺たちが無事なら間違いなくあの二人も無事だ! だからまずは俺たちがこのピンチを切り抜けるんだ!」


俺は声を荒げてマリンを説得する。


いつの間にかホールを分断していた結界は鏡のように反射していて、向こう側を見ることができなくなっている。


その分断された領域内に、飛び回る魔物たちの楽しげな笑い声が響くのだった。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「この後一体どうなるのっ……!?」


と思ったら、


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ