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間話3.マリンのお裁縫

ハルとマリンが打ち解け、共に仕事をするようになった。


ピリッとした空気は消え、店内は普段通りののんびりとしたものに戻っていた。


そんなある日。


「ユーバ茶はコクがあり、爽やかな渋みがあります。ジリーヌ茶は口当たりが優しいですわね」


カウンターで茶葉の入った容器を一つずつ指で示しながら、マリンがハルに紅茶の説明をしていた。


優雅な動作で説明するマリンに対し、ハルは難しい顔をして言う。


「種類が多すぎる……あっちでは紅茶よりコーヒーが主流だったから、紅茶は知らないんだよな」


頭を抱えてブツブツ言うハル。


頑張って仕事を覚えて、ルージュやわたくしたちの力になろうと必死なのですね。

可愛いですわ。


ブツブツ言うハルを見て、マリンはニッコリと微笑んだ。


マリンにとって男とは、不快で不愉快で吐き気のする、信用のおけない忌むべき存在であった。


それなのに、ハルを見てもそんな感情は湧いてこなかった。


むしろ、


「数種類しかない茶葉の違いすら分からないなんて、よくそれでカウンターをやってみたいなんて言えましたね」


マリンの言葉で、ハルは申し訳なさそうに縮こまる。


ブルッ


なぜでしょう?

ハルだけはどうしてもいじめたくなってしまいます。


頬に手を当て、落ち込むハルを見つめるマリンの脳内は、ハルを自分のおもちゃとしていかに弄ぶかを思案していた。


「そういえば、みんなが着てる制服って、マリンが作ったんだろ? デザインもかっこいいし、細部まで丁寧ですごいよな」


ハルは話題を変えるべく、思い出したかのようにルナたちに聞いたことをマリンに言う。


「そうよ。でも制服だけじゃないわ。このお店にある布系の物は、ほとんどマリンが作ってくれたのよ」


暇な時間だからか、ハルたちの話を聞きつけたルージュが、キッチンからヒョッコリと顔を出してそう言った。


「そ、そうなんですか? マ、マリンって、すす、すごいんですね」

「そうなの。このプレースマットも。コースターも。壁にかけてあるタペストリーもマリンの作品よ」


ハルの噛み噛みな相槌を気にしないルージュ。


ハルのそういった残念な部分をいじりたいマリンとしては、二人の噛み合わない会話が焦ったい。


「へー……それって本当にすごい……ですよね?」


店内を見回し、タペストリーを見て感嘆するハル。


しかしそのタペストリーは、マリンにとっては満足のいかない作品であった。


「本当なら、もっとたくさんの色を使用して作りたかったのです」


タペストリーを眺め、マリンはそうぼやいた。


色のついた生地は高価ですし、そもそもこのような辺境まで出回らないのですわ。

お金があっても作れないのです。


マリンのぼやきに、ルージュがすぐさま反応した。


「染色された布は高いから仕方ないわ。むしろそんな高価な物をガンガン使われたら、私が困るわよ」


マリンとしては趣味の範囲なのでお金を取るつもりはないのだが、売り物になるレベルの製作品をタダで貰うのは気が引けてしまうとルージュは苦笑する。


「そうなんですね」


ハルはボベっとした顔でルージュの話に頷いている。

その抜けた顔が、マリンのサディスティック魂に油を注ぐ。

まだ早いと言葉のナイフを研ぐマリンだが、続くハルの言葉に、ついついナイフを抜いてしまう。


「てっきり染色は魔法でできるから安いのかと思ってました」

「あなたは何を馬鹿なことを言っているのですか? そんなことできる訳がありませんわ。普段から寝ているような顔なので寝言は寝て言えとは言いにくいですが、今は起きているので構いませんわね。寝言は寝て言いなさい」


ピシャリとハルの言葉を切り捨てたマリン。


「残念だけどマリンの言う通りだわ……あ、言う通りっていうのはあれよ? 染色の方よ? 染色する魔法なんて聞いたことないもの」


ハルがルージュの顔を見てショックを受けた顔をしたことで、ルージュが手をバタバタさせながら弁明した。


焦るルージュも素敵ですわ。


マリンは二人を見て、またしてもうふふと笑みを深める。


「うう、染色って染料に生地を浸け込むんだろ? だったら水魔法を使えば簡単にできるんじゃないかって思ったんだよ」


ハルは涙目で悔しそうに言う。


その顔はマリンの嗜虐心を煽るが、それ以上に聞き捨てならない言葉があった。


「水魔法で……染色?」


そう言ったマリンの声は驚愕で震えていた。


脳に電流が走る。


そんな魔法は聞いたことがありませんわ。

ですが、可能なのではないでしょうか……


マリンが内心で思案し始めた時、ルージュがポカンとした顔でハルに聞いた。


「水魔法で染料の水を動かすなら……できそうな気がするわ。でも、色はどうするの?」

「ル、ルージュの言う通りですわ。染料の動かすだけでは、ただの染色と大差ありません。珍しい色の染料ほど高価なのですから。それくらい考えてからものを言いなさい」


マリンは少しガッカリしつつ、ルージュに乗っかってハルに反論した。


「一言多いな……」


ハルはマリンの言葉に若干イラッとしつつ、自身の考えを話し始める。


「蜃気楼って知ってるか? 空気の温度の違いで光が屈折してできる現象なんだけどさ、言い方を変えると温度や見る角度によって空気の色が変わるってことにならないか? 俺はまだ魔法でどんなことができるのか分かんないけど、その自分が見えた色を魔法で使えるようにできればいいんじゃないか?」


な、なんて非常識な……

ですが、それが可能になれば……


マリンは雷に打たれたような衝撃を受けた。


これができれば染色の歴史は大きく変わってしまう。


染色を生業とする者との軋轢が少し怖いが、それ以上に、自分の趣味の幅が広がる予感が、期待が、好奇心が、湯水の如く湧いてくる。


「少し所用を思い出しました」


「え?」という二人の声を置き去りに、マリンはそのまま急いで店を出て行った。


この後、忙しいランチタイムをハルとルージュの二人でヘロヘロになりながら捌いたのだが、それはマリンの知るところではない。



――



染色の話から数日後。


「見てください!」


目を爛々と輝かせながら、ハルとルージュに一枚の布を手渡すマリン。

その目の下には大きなクマができていた。


「これって……まさか!?」

「嘘でしょ!? まだ三日しか経ってないわよ!?」

「そのまさかですわ! ハルの染色の理論、完璧に構築いたしました!」


布とマリンを交互に見て、二人は驚愕した。


それもそうだろう。

まさかこんな短期間で新しい技術を完成させたのだから。


「ど、どうやって……」


ハルが驚きを隠せずに問うと、マリンは嬉しそうに語り出した。


マリンはまずルナを頼り、魔法陣について一から学び直した。

そこで知識を深める傍ら、水魔法と光魔法について研究を重ねた。

それこそ、一睡もしない勢いであった。


「色の定着には苦労しましたわ。魔石を粉状に砕いた物を媒染剤に用いることで、ようやく魔法で生み出した色を定着することができたのです」


早口で語るマリンに二人は若干引きつつも、マリンへの称賛を送った。


「す、すごいな。その執念に感服したよ」

「す、すごいわね。好きに対するマリンのパワーを改めて実感したわ」


そんな二人に、袋が渡される。


「この魔法技術(マジックアーツ)を使って早速作ってみましたわ。ぜひ試着してみてくださいませ」


マリンの勢いに促されるまま、袋からソレを取り出す二人。


「なんだ? これ?」


まじまじとソレを見て首をかしげるハル。


ソレは露出度の高い服?のようなものだった。

手足の部分?にそれぞれ固定できるようなベルトがついている。


試着しようにも、どう着るのが正解か分からないハルは、まじめにソレをいろんな角度から眺めていた。


一方ルージュは、


「こ、こんなの着れる訳ないでしょ!」


涙目で絶叫した。


露出度が高い……というより、ほとんど局部しか隠れるようになっていない。


下着ほどではないにしても、こんな物を人前で着れるはずがないと泣き叫ぶ。


「それにこれ! このベルト! これって前に言ってたやつでしょ!?」


ルージュがベルトを指差しながら叫ぶ。


「ええ、肘と膝を曲げた状態で固定することで、犬のように這うことしかできなくなるのです……」


マリンはうふふと笑みを深めながら、当然のことのように説明した。


「ちょっ、そんなの着れねーよ!」


ハルもこれがドS仕様の服であることを理解したらしく、ルージュに続いて断固拒否を叫ぶ。


しかし、


「さぁ、早くわたくしに着せ見せてください!」


三徹したマリンの意識は既に混濁しており、欲望のままに暴走している。


どこから取り出したのか。

その手にはいつの間にか鞭が握られている。


欲望渦巻く光のない目を二人に向け、マリンは一歩、また一歩と二人に迫る。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

「いやぁぁぁぁぁぁ!!!」

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「この後一体どうなるのっ……!?」


と思ったら、


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面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


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