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間話2.ルナの魔道具革命

ハルとリリィの二人が初仕事から無事に帰還した。


「二人が仲良くなれてよかった」

「「仲良くない!」」


ルナの本心からの言葉に、帰ってきたハルとリリィが同時に答える。


「聞いてよルナ! こいつアタシのこと先輩として敬わないどころか、年下だからって言うことも聞かないんだよ!」

「聞いてくれよルナ! リリィのやつ、俺の方が年上なのに自分が先輩だからってエラそうに命令してくるんだ!」


必死に言い募る二人を見たルナは、二人が仲良くなれてよかったと、改めて思うのだ。


リリィはいい子だが短気な面があり、よく他人と喧嘩になってしまう。


だが、今のリリィからは、その時のような怒りに満ちた雰囲気は感じられない。

むしろハルを認めているからこそ、気軽に言い合っているように見えた。


……?


そこでルナはあることに気付く。

それはハルと同じく『マナ視の魔眼』持ちであるからこそだ。


意識しないと開眼できないハルと違い、ルナは息をするように魔眼を開眼している。


そのルナから見たリリィの魔力は、若干だが増えてきていた。


おかしい。

リリィにあげた魔散の杖があれば、こんなに魔力は増えないはず。


ルナは原因を究明すべく、リリィに事情を聞くことにした。


「リリィ、杖はある?」

「あ……」


ルナの問いに、リリィは気まずそうにする。


「実は俺のせいでリリィの杖が壊されたんだ」


言い淀むリリィの代わりに、ハルが申し訳なさそうに答えた。


「あれは別にハルのせいじゃないし。アタシが油断してただけだから」


庇われた形となったリリィが、口をへの字に結んでハルの言葉を否定した。


詳しく聞くと、口喧嘩していたところを魔物に襲われ、その時に破壊されたらしい。


リリィを守ったハルも、杖なしで魔法を使えたリリィも、二人ともすごい。


ルナは内心で二人を称賛しつつ、困ったとも思う。

あの杖がなければ、リリィの魔力はまた増え続け、魔力が暴走してしまう恐れがあったからだ。


それを防ぐには……


「また同じ杖を作る」


ルナは脳内でそう完結させた。


その言葉に、申し訳なさそうに、しかし、嬉しそうにリリィが頷いた。


前回、ルナがリリィに渡した杖は、ルナが作った魔道具である。


その効果はハルが予想した通り、魔力の霧散。

杖を手に持っていると、手から魔力を勝手に吸い出し、勝手に発散する。


普通であれば全く意味のない、むしろ残念な装備だが、リリィにとっては命を繋ぐ道具になる。


早急に道具を揃えて作ってあげようと思案しているルナと、怒られなかったことに安堵していたリリィの耳に、ぽつりと漏れたハルの声が届く。


「え? 同じでいいのか?」


その言葉にリリィが食いついた。


「違うのが作れるの?」


目を輝かせるリリィ。

その視線はルナに固定されている。


ルナはその期待を無下にすることができず、


「考える」


と答えたのだった。



――



ヒカリエ二階のクランスペースにて、ルナ、リリィ、ハルの三人が顔を突き合わせる。


「考えるとは言ったけど、私は前回の杖がいいと思う」


ルナがこれだけは言っておくと、リリィに残酷な宣告をした。


「ええ!? せっかく超火力が出る杖を作ってもらおうと思ってたのに!」


新しい杖の能力をワクワクしながら考えていたリリィは、ルナの宣告に思わず愕然とした。


「そもそも、あの杖の効果ってなんだ?」


ハルが首をかしげる。


「魔力制御でしょ? ルナもそう言ってたし」


リリィが何言ってんのという顔でハルに答えるが、ルナが首を振ってその答えを訂正する。


「あれは嘘。本当の効果を言ったら、リリィはもらってくれないと思ったから」


そう言って、本当の杖の効果を説明した。


「やっぱりな」と、納得するハル。

「し、知らなかった……てっきり魔力制御だと」と、驚くリリィ。


マナ視があるとはいえ、その効果までしっかり見極めていたハルを内心で称賛し、ルナはもう一度言う。


「リリィの体のことを考えると、前回と同じ魔力霧散の杖がいいと思う」


そう言い切るルナに、リリィは反論できない。

しょんぼりとうなだれる。


実際問題、魔力霧散の魔法陣は、その非実用的な効果とは裏腹に複雑で、リリィが好む短く細い杖では、それ以上余計な魔法陣を追加する余裕はないのである。

杖全体に綿密な魔法陣を施し、先端に魔石を仕込むので精一杯。

ルナの中では、あの杖がリリィにとってベストであると結論づいていた。


落ち込むリリィを可哀想だと思いつつ、帰りに足りない材料を揃えようと考えを進めていたルナの耳に、またしてもハルの思案気な声が届いた。


「んー、杖の魔石ってさ、取れないの?」


魔石は取れない。

ハルは何を言っているの?


ハルの言葉を聞いたルナの正直な感想だった。


しかし、ハルの言葉が続くにつれ、ルナの顔は驚愕に彩られた。


といっても、傍から見たらいつもの眠たげな表情ではあるが。


「魔石を二つ用意してさ、一つの魔石の魔力がなくなったら、魔石だけ取り換えるんだ。それで空になった魔石に魔力を補充してさ。そうすればずっと使えるだろ?」


まさに開いた口が塞がらない。


魔法や魔道具に関する知識がないハル故の率直な思いつきだが、それはルナが今まで考えたことのない、それどころか、魔道具の歴史を変える画期的なアイディアだった。


そもそも魔道具の魔石は、いかに外れないようにするかに重きを置かれていた。

それは魔道具開発の初期、戦闘中に魔石が外れて戦えなくなるという危機的状況を回避するためであったが、魔石が外れない技術は確立されている現在でも、「理由は知らないが魔石は取れないのが当たり前」という固定観念だけが残されていた。

簡単に交換するなんて発想はなく、魔石の魔力がなくなったら新調するだけの使い捨ての道具でしかなかった。


そして、魔石への魔力の補填である。

確かに、迷宮(ダンジョン)で稀に発見される魔法具は、自動で魔力を回復するため使い続ける事ができる。

それを人工物である魔道具で再現しても、なんの問題もないのである。


ルナは驚愕しつつも、一つの問題点に気付いた。


「魔石の魔力補填を人の手で行うのは難しい」


ハルの案を内心で称賛しつつ、ルナは表情を引き締めて問題点を突き出した。


人が一度に生みさせる魔力には限界がある。

魔石へ魔力を補填する機構を作り上げたとしても、魔石を魔力で満たすのは困難だ。


しかし、


「リリィなら簡単だろ? せっかくのリリィの魔力がただ捨てられるのってもったいないと思うんだよな」


その一言に、ルナは雷に撃たれたような衝撃を覚えた。


ハルの言う通りである。


一般人は魔石への魔力の補填に時間と労力がかなり必要となる。

しかし、魔力があり余っているリリィには、その問題は適用されない。

むしろ、無駄なくリリィの力を活かすことができる。


「俺のイメージは二つセットの魔道具だな。リリィが欲しい強い杖。もう一つは魔石に魔力を補充する道具」


ルナはハルの言葉を頼りに、脳内で何度もシミュレーションを重ねた。

そして思う。


ハルは本当にすごい。

何でもできるし、何でも分かってしまう。


「今までにない画期的な魔道具が作れる。ハルはやっぱりすごい」


ルナは心からの尊敬を、ハルに送ったのだった。


ハルとルナの話を聞きながら、期待と失望を繰り返していたリリィだが、ルナが作れると結論付けたことで、立ち上がってバンザイした。


「やったやった! さすがルナ! アタシはルナならやってくれるって信じてたよ!」


ルナを称賛するリリィに、ルナは真面目に言う。


「これはハルがアイディアをくれたから。お礼は私ではなくハルに」


私だけでは作れなかった。

思いつかなかった。

礼を言われるべきはハルだ。


ルナは心底そう思う。


ルナの言葉に逡巡したリリィだが、


「ハルも、色々とありがとう」


フイッとそっぽを向きつつ、リリィはハルにも礼を述べた。


それでいい。

リリィも素直になれば可愛いんだから。


ルナは内心でニッコリと微笑みつつ、おずおずとした二人を見ていた。



――



「これが完成品」


会議から三日後。

ハルとリリィを呼び出したルナは、心なしか満足そうにしながら一本の杖をリリィに差し出した。


「ありがとうルナー!」


リリィが目を輝かせながら杖を受け取った。


「おいおい、いくらなんでも早くないか?」


ハルは驚きを隠せないといった顔をしている。


「頑張った」


ルナは一言で終わらせたが、その道のりは決して簡単ではなかった。


ハルからインスピレーションを得たルナはすぐさま研究に取りかかった。


魔力霧散の理論は既にできているため、新たに考えるのは魔力補填の理論のみ。


しかしそれは、今までにまったくない考え方である。


ルナは寝る間も惜しんで研究を続けた。


同居しているハルから時折アイディアを授かりつつ、見事その理論と魔法陣を構築したのである。


ハルが途中で助けてくれなければ、きっと完成しなかった。


ルナは内心でハルに感謝をしつつ、二つの水晶球と、杖を収納するホルスターをリリィに差し出した。


「これが魔石の代わり。一つは杖に、もう一つはこの収納ケースに付ける」

「カッコいい! 本当にありがとう! ルナも、ハルも!」


余程嬉しかったのか、リリィは泣きそうな勢いである。


助けてくれたハルにも礼を言ってくれたことにルナは満足しつつ、使い方を説明した。


リリィが超火力を出すには魔力を増やすより制御であるとハルに助言も受けていたし、ルナも同意見だった。

なので、杖にはルナが構築した魔力制御の魔法技術(マジックアーツ)付与(エンチャント)しておいた。


これで格段に魔法を使いやすくなるだろう。


「ところで、この杖の名前は?」


最後にルナがリリィに聞いた。


ルナの中では、この杖の名はアイディア提供者であるハルの名を取って、『ハルロッド』か『ハルタクト』あたりが妥当かなと決まっていた。


「俺は……」


そんなルナの心中を知ってか知らずか。

ハルが先制して、自分が考えていた杖の名前を告げようとした。


「バーニングインフェルノ」


そんなハルの言葉を遮り、リリィが満面の笑みを浮かべて言う。


「バーニン……」


ハルが絶句する。


バーニングインフェルノ……まったく杖の効果とは縁のない命名だけど、リリィらしくていい。


ルナは内心でそう評価した。


「この杖なら、今までのように力を制限されない。これからはリリィの思うように魔法が使える」


ルナの言葉に、リリィは嬉しそうに破顔した。


リリィのこれまでの苦労を知っているルナは、そんなリリィの笑顔を見て、内心で自分のことのように喜んだのだった。


これを機に、リリィは己の才能を開花させていくことになるが、そんなことより杖の名前がと文句を言っていたハルは、感動を邪魔されたリリィに思いっきり引っ叩かれていた。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「この後一体どうなるのっ……!?」


と思ったら、


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


何卒よろしくお願いいたします。

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