表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/85

11.傲慢な敗者と集う者

「う……こ、ここ……は?」


目が覚めると、目の前に天井があった。


ここは……アジトか……うぐっ!?

激痛で体が……動かせねぇ。


なんとか首を持ち上げ体に視線を向ける。


俺の体はボロボロだった。

全身が薬草で作られた軟膏まみれ。

その上から下手くそに包帯が巻かれていた。


「おおカナタ! 目が覚めたか! 心配したぞ!」

「すごい重症だったし、なんか闘気?を全て使い切ってるから、あんまり動かない方がいいってさ」


突然の大声に耳が痛い。


声の方に目をやると、そこには心配そうに俺を見下ろすダンとアスカが立っていた。


「てめぇら……」


ダンに介抱されながら上体をなんとか起こす。


俺の横には折れたボロボロの聖剣が置かれている。

記憶が徐々に鮮明になり、何があったのかを思い出した。


この馬鹿どもから心配されるだけでも腹立たしいが、それ以上に湧き上がる屈辱感。


そうだ……俺はハルに……負けたのか。


負けたと思った途端、悔しさで涙が溢れそうになった。


あのハルに剣の勝負で負けた。

ずっと見下してきた、一番底辺の人間だと思っていたハルに……


「お取り込み中失礼するよー」


声の主は俺たちのクランのマスターであるカーネルだった。


「カーネルさん! 今までどこに行ってたんだ! 大変だったんだぞ!」


ダンの言葉を無視してカーネルは言う。


「私から誘った手前、あのまま放置というのは可哀想でしたので、仕方なくここに運ばせました。もう元気になったみたいですね」


今までのような楽し気な声色ではなく、冷酷な雰囲気を感じる。


「今回は油断して負けちゃったけど、次は活躍して……」

「黙りなさい」


アスカの言葉を冷たく遮り、カーネルは俺たちに言い放つ。


「あれほど無様に敗北しておいて、次があると思っているのですか? 弱者は私の下には必要ありませんので、今すぐここを出て行きなさい」


普段の笑みの仮面ではなく、無関心、そんな言葉が当てはまるような冷たい無表情の仮面だった。


「な、なんだと! たった一度の敗北で!?」

「そ、そうよ! それに私たちまだ怪我も治ってないんですけど!」


カーネルの冷酷な対応に抗議する二人。


「カナタ。あなたには期待していたんですが、あなたの自尊心はその程度ですか」


二人を無視して俺にそう言ってくる。


「な……なんだと……?」


俺はカーネルを睨む。


「もっと傲慢な男だと思っていましたが、見誤っていたようです。次を探しますよ」


カーネルはそう言って部屋を立ち去ろうとする。


「待て!」


俺は叫んでいた。

何を考えるでもなく。


「俺は……俺様は負けてねぇ……」


心の底から黒い渦が湧き上がるのを感じる。


「あれは何か裏があったに違いねぇ! そうじゃねぇと俺様がハルに負けるはずがねぇ!」


そうだ。

俺がハルに負けるはずがねぇんだ。

きっと仲間の誰かが手助けしてたに違いねぇ。

くそっ!

どこまでも人を舐めやがって!


さっきから黙っている二人を見ると、俺のことを不安げに見つめていた。


こいつらは、どうでもいいか。


それよりも……

ハル!


絶対にいつか、俺の屈辱をてめぇに味合わせてやるからな……


「ひひひ……ひひひひ」


笑いが込み上げて来た。

いい気分だ。


「やはり……間違いない……」


カーネルの小声が微かに聞こえた気がした。


「ふっふっふ、いい目になりましたねー」


カーネルを見ると、肩を揺らして笑っている。

その顔はいつもの人を馬鹿にしたような笑みの仮面。


不気味な二人の笑い声が部屋中に響いたのだった。



――



美しいブルーのショートヘアに知的な眼鏡。


全体的にスラッとしているが、ある部分にだけはしっかり栄養が行き渡っているようで、馬車を降りる際、元気良く弾んでいた。


紛うことなき美女である。


「やっと……やっとここまで戻って来ました!」


町の馬付き場に到着した彼女は、旅の終わりと成功を心から喜んだ。


それもそのはず。


追っ手を振り切るため、通常ひと月はかかるであろう道のりを、様々な移動手段を駆使して、たったの数日でこの町までやってきたのだ。

時間は数日間と少ないが、それにかけた労力は、普通に旅をするよりもはるかに過酷であった。


そうまでして旅をした目的、それは……


「まだこの町にあの方がいるはずです!」


彼女は両手をグッと腰に引きつけ、ガッツポーズをとる。


旅の疲れを感じさせないハツラツさで、彼女は歩き始めた。

向かう先はこの町のギルド。


「そこに行けばまた会えるはず! 待っていて下さいね!」


駆け出したくなる気持ちを抑えつつ、彼女は意気揚々と、古巣である冒険者ギルドハルジオン支部を目指すのだった。



――



薄紫色のロングパーマを風に(なび)かせて、遥か上空から、光り輝く町を見下ろす美女。


女性の体はこうあるべきと世の男たちが思い描くような妖艶な肢体を、露出の多い黒のボンテージ衣装でかろうじて隠している。


……人ではない。


頭部に一対の暗紫色のねじれた角。

コウモリのような翼と、特徴的な細長い尾。


「あれは? いやいやまさか……ええ!?」


彼女は驚いた。

眼下に広がる幻想的な町並みに。


ではない。


その町にいる片翼の悪魔にだ。


「もうこの町には先客がおるのか?」


彼女は首を傾げて考えに(ふけ)る。


「それにしてもあの者、気配はなんだか人っぽいのう……しかし立派な角じゃ。片翼というのも我の好みじゃし……なかなかカッコいいではないか」


首をかしげている方にクルクルと回転しながら、そんなことを考える。


「うう、目が回った……あの者のことは気になるが、我は他の町に行った方が良さそうじゃな」


つい目を回し、フラフラとしながらその町から去ろうとして、


「まぁ!」


町の外れに一棟の大きな館を見つける。


「我もずっと飛んできて疲れたし……今夜はあの館で休もうかの」


そう言いうと、彼女はフラフラと飛びながら館を目指すのだった。



――



白銀髪の少女が、今にも力尽きそうによろめきながら歩いている。


ここは……どこ……?

何も……思い出せない……


見知らぬ地。

現状を理解しようにも、何一つ思い出せない。


突然、霞んだ瞳が目の前に光り輝く町を見つける。


少女は一心に歩を進めるが、やがて力尽き地に伏す。


誰か……


ふと思い出すのは、とある青年の後ろ姿。


お願い……お兄ちゃん……助けて……!


薄れゆく意識の中、少女は心の中で必死に叫ぶのだった。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「この後一体どうなるのっ……!?」


と思ったら、


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ