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10.勝利と夜間行進

やっちまった……

最後の最後でやっちまった……


「一体何が起こったんだー! 吹き飛ばされたかと思ったがなんか無事だー! 勝負の行方はー!?」


騒然とする会場にアナウンスが響き渡った。


よ、よかった……

巻き込んでなかった……


未だ収まることのない爆煙が、爆発がいかに強烈だったかを物語っている。


「煙が晴れるぞー! 勝ったのはー!?」


会場の視線が一点に注目するのを感じた。


「……ハルだぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!」


俺は場外……といっても、既にステージは消し飛んでいてないが、場外だった場所に倒れ伏す勇者を見ながら、剣を掲げてアナウンスに応えた。


「これにより! 第一回のクラン対抗戦の勝者はヒカリエに決まりだァァ!」


巻き起こる歓声の嵐。


「うぉぉぉぉぉ!! すっげぇぇぇ!」

「なんなんだ今の光!

「てかなんで今の爆発で俺たち無事なんだよ!?」


どうやらルナが咄嗟に動き、〈結界(シールド)〉の魔法技術(マジックアーツ)を発動してくれたみたいだ。

おかげで町や観客席、審判などは被害ゼロだった。


「うぐぐ……」


俺は苦しそうにうめく声の方に目を向けた。


爆発に巻き込まれたのか。

ヨロヨロと立ち上がり、埃を払うカーネル。

そのままカッと勇者たちを睨みながら叫ぶ。


「大口を叩いていたくせにこの有様! 非常に不愉快です! せっかくあなたの案を取り入れ、町の者にヒカリエの偽りの情報を流したというのに! そんなんだから勇者をクビになって命を狙われるんです! 使えないバカにもう用はありません!」


いつの間にか笑みの仮面から怒りを模した仮面に変わっていた。


クランのメンバーである勇者たちを散々侮辱し、ついでに町で流れていた噂の正体を暴露し、カーネルは気絶した三人を放置してどこかへ行ってしまった。


てか、今勇者をクビになったって……


俺がカーネルの台詞を考察していると、観客たちがどよめき始めた。


「お、おい、聞こえたか?」

「嘘の情報……だと?」

「俺たちはこいつらに騙されてたっていうのか!?」

「勇者をクビにって、こいつらもそもそも偽物なのか!?」

「ふざけるな!」


今まで勇者へ送られていた声援は一転し、罵詈雑言の嵐となる。


そんな中、


「ハル! なかなかやるじゃん! 見直したよ!」


リリィが尻に飛び蹴りをしながら嬉しそうに言ってくる。


「足が震えてますわ。カッコつかない男ですね。まぁ今回は褒めてあげましょう」


マリンも頬に手を当て、うふふと笑いながら言う。


「色々アクシデントはあったけど、ハルくんのおかげで私たちの汚名も返上されたわ! ありがとね!」


対抗戦の勝利を飛び跳ねて喜ぶルージュさん。


「ハルは闘気も使えたんだ。すごい」


何やら尊敬の眼差しを俺に向けてくるルナ。


俺の周りで嬉しそうに喜んでいるみんなを見て、俺も嬉しくなった。


「みんなのおかげだよ。本当にありがとう!」


仲間のおかげでトラウマを克服することができた。


俺は何度もみんなに感謝を告げたのだった。



――



「お、おい。本当にやるのか?」

「もちろんですわ。わたくしの力作です。問題はありまんせん」


俺たちは落ち着かない様子で待機している。


「もうこうなったらやるしかないよ」


リリィが半ばヤケクソ気味に言う。


「こ、これ、本当に大丈夫なの? 変じゃないかしら!? もう何が良くて何が変なのか分からないわ!」


言い出しっぺのルージュさんは緊張しているのか、さっきからよく分からないと連呼している。


「やっぱり、私は無理……帰る」


顔を真っ青にして帰ろうとするルナを、マリンとリリィが慌てて引き止める。


「大丈夫ですわ! わたくしの目に狂いはありません! だから待ってください!」


ルナを引き止めつつ、自信満々にマリンが言う。


「収穫祭ラストを飾るライトアップパレード! スタートです!」


町中に響き渡るアナウンス。

それに合わせ、目の前の特設ゲートが開かれた。


ゲートの先はメインストリート。

道の両脇には溢れんばかりの見物人がこちらを眩しそうに見上げていた。


ハルジオン収穫祭のメインイベント。

『仮装巡行』、『クラン対抗戦』、そして最後の一つ。

『夜間行進』(ライトアップパレード)


本来、町に周辺の農民たちが今年の収穫量を披露するだけだったらしい。

広場にそれぞれが収穫した作物を積み、互いに褒めたり競ったりしていた。


だが、それでは外からやって来る観光客にとってはどうでもいいことだったため、町の農民しか集まらなかった。


そこで昨年運営に携わったルージュさんが、各農家が収穫した作物を荷台に積み、それをきらびやかに装飾してメインストリートを行進するという案を思いついたそうだ。


これなら農民以外の人も、ライトアップされた幻想的なパレードを見学に来てくれる。

自分たちの一年の成果を自慢できるとあって、農家の人たちも大喜びで賛成したらしい。


そして今回。

ルナやリリィが仕事で世話になっていた農家のご主人から、荷台を引く御者を頼まれていた。


本来なら御者台に座って馬に荷台を引かせるだけでよかったのだが、その話が決まった途端、マリンが勢いこんで懇願してきた。


「お願いですわ! 仮装して荷台に乗ってください!」


あまりの必死さに俺たちが引いていると、ルージュさんがハッとなってマリンに同調し始めた。


「それ! それいいわね! 装飾された荷台を引きながら自慢の仮装も披露できる! なんなら踊ってもいいわね!」


マリンが目をキラキラさせてルージュさんに抱きつく。


こんな感じで勝手に話は進んでいき、俺たちが仮装して荷台に乗り、見ている人を楽しませるということになった。


そしてマリンは、却下された天使ドレスを大急ぎで手直しし始める。


「どうしてもみなさんにこの衣装を着てほしいのです!」


目を血走らせながら手直しするマリンには、呆れを通り越して感心した。


完成したのは見事な純白のドレスだった。

露出が少なくなって残念だな。


そう思った俺だったが、着替え終えたみんなを見て、すぐに考えを改めることになる。


ルージュさんの衣装は以前ほどではないが胸元が開いていて豊満な谷間が揺れている。


リリィの衣装は背中が腰のあたりまで細くスリットが入っていて、つい目がいってしまう。


ルナの衣装はスカートのスリットが太ももの付け根あたりまで食い込んでいてセクシーだ。


俺は目を泳がせながらも平静を装った。

ここで動揺を見せれば、また却下になってしまう。

それではせっかく作ったマリンがかわいそうだ。


着替えを済ませたみんなを、恍惚の表情で見つめるマリンを見ながらそう思った。


……断じて俺が見ていたいからではないので、勘違いしないでほしい。


そして現在。


「ヒカリエのお姉ちゃんたちだ!」

「なんて美しく、なんてセクシーなんだ!」

「来てよかったな」


俺たちの乗る荷台に向け、沢山の歓声が届けられる。


さらに見物客を楽しませるべく、リリィとルージュさんが動く。


「天使サマだー!」

「まさか天使にお目にかかれるとは……長生きはするもんじゃな」


二人は翼をはためかせ、上空へと飛び立った。


これはマリンが衣装の手直しをしている時、ルージュさんに頼まれたルナが、〈蝶の羽〉(フライング)と同じ魔法技術(マジックアーツ)を天使の翼に付与(エンチャント)した成果だ。

あの短時間で、ルナはこの翼を魔道具に進化させたらしい。


お手柄なルナがどこを飛んでいるのか探すと、なるべく人から見えないよう、積み荷の影に隠れようとしているのを見つけた。

相変わらずだ。


そんなことを考えながら御者台で馬の手綱を引いていると、いつの間にかブラックベアが隣に立っていた。


「うぉ!? ……って、なんだマリンか」

「なんだとは何ですか」


一瞬ギョッとする俺に、ブラックベアは呆れた声を出す。


「結局その仮装にしたのかよ。町のみんなもマリンの天使姿を見たかったんじゃないか?」

「わたくしは敬虔なるメリウス様の……」

「いやそれはもういいって」


話を遮った俺をブラックベアが不機嫌そうに睨んでくる。

熊の顔はちょっと怖い。


「わたくしは心を許した者にしか肌を許すことはしません。こんな公衆の面前で、あんな破廉恥な衣装を着るなど言語道断ですわ」

「お前が作って着せたくせに破廉恥って……」


今度は俺が呆れ口調で返した。


北部からスタートした行進は、町の中央区を通過して、東部へと入る。

荷馬車は何台もあが、俺たちの乗った荷馬車が通過する時の歓声が一番大きい。


大半がルナやルージュさんに対してだ。

美人の上こんなセクシー衣装を着ているのだからしょうがない。


たまにリリィにも声がかけられるけど、子供の天使と言われて怒鳴り返していた。


マリンはどこだと探す声に、ブラックベアは決して名乗りを上げなかった。


「あの御者って」

「おいおい見ろ! あの悪魔!」

「今日の対抗戦に出てた人だ!」


仲間たちへの歓声に混じって、そんな声が聞こえ始めた。

その声は徐々に広がっていき、ヒカリエのある噴水広場に着いた頃には俺の名前を呼ぶ声が大きくなっていった。


「代わりますわ」


マリンが俺から手綱を奪い取る。


「お、おい……」

「あなたも町のみなさまに応えてあげなさい」


うふふと笑いながらブラックベアは御者台に座って馬を引く。

何ともシュールな光景だ。


それはともかく。


「ハルー!」

「ハルさーん! 試合よかったよー!」

「疑ってすまなかったー!」


歓声の中に、ヒカリエを疑ったことへの謝罪もあった。

これで仲間たちが町の人から嫌われることはないだろう。


歓声を間近で受けるのはかなり恥ずかしかったけど、少し嬉しくもなった。


俺はそんな声に応えるべく立ち上がる。


「我が名はハル。悪魔の公爵にしてクラン『ヒカリエ』の冒険者。お集まりの諸君。今宵は存分に楽しみたまえ!」


適当に口上を述べると、俺は背中の片翼をはためかせ勢いよく上空へ飛翔する。


これ……意外と難しいな。


片翼だったからか、フラフラとバランスを崩しながら舞い上がった。


「あははは! 何やってんだ兄ちゃん!」

「せっかくカッコよかったのにー!」


広場は笑いに包まれる。


「アンタ何やってんのよ! こっちまで恥ずかしいよ!」

「く、くそぅ……こんなに難しかったなんて。練習しとけばよかった」


リリィに馬鹿にされ、俺は恥ずかしさと悔しさで縮こまった。


「まったく、本当にカッコのつかない男ですわ」


マリンも御者台に座って呆れている。


「練習なしで飛べる方がすごい」


物陰に隠れていたルナは、またしても尊敬の眼差しを送ってくる。


「あはは、でもハルくんも一緒に飛べてよかったわ!」


リリィと俺の手を取り、嬉しそうに飛び回るルージュさん。


天使と悪魔の夜間飛行は夜遅くまで続く。


こうしてハルジオン収穫祭は大成功を収めたのだった。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「この後一体どうなるのっ……!?」


と思ったら、


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


何卒よろしくお願いいたします。

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