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8.ハルVSカナタ

「ヒカリエを甘く見ないことです。彼らはとても強い団結力を持ち、様々な困難を乗り越えてきました。仲間同士信じ合うことで実力以上の力を発揮するタイプでしょう」


ステージを降りるカーネルがすれ違い様に言う。


何を言ってやがる。

そんなこと関係ねぇな。


俺はカーネルの忠告を一笑に付した。


「俺様に指図するじゃねぇ。クランだとか、ヒカリエだとかはもうどうでもいい。あのクソ雑魚野郎に俺様が味わった屈辱を何倍にもして味あわせてやるんだ」


込み上げる怒り、憎しみ、そして今からハルを血祭りに出来るという喜び。

様々な感情が俺の心の中で(うごめ)いている。


「てめぇらも見てやがれ! 俺様とてめぇらが対等じゃねぇってところを存分に見せてやるからよぉ!」


俺の言葉にダンとアスカは憮然としながらも頷いた。


ヒカリエサイドから抗議の声が上がる。


雑魚どもが騒ぎやがって。

まぁ、たしかにインチキだよ。

俺が仕組んだ。

カーネルに言って対戦ルールに細工させた。


元々は三対三のチーム戦だったらしいが、それじゃハルが出てこねぇ可能性がある。


そんなの許さねぇ、逃がさねぇよハル。

この公衆の面前で、ハルを心ゆくまで殴り殺さねぇと、俺の気が収まらねぇ。


「うひゃひゃひゃ! おらぁ! どうしたてめぇら! まさか逃げんのかぁ!?」


俺は退路を断つべく奴らを煽った。

これでもかってくらい罵倒してやった。


これだけやってやれば、臆病なハルも戦わざるを得なくなる。


散々ハルやヒカリエのことを罵っていると、やっとハルが俺の前へ歩み出た。


チッ、気に食わねぇな。

前はもっと怖気付いて笑えたんだが、今は強気な顔で俺を見てきやがる。

舐めやがって。


審判の合図で一度ステージの端へ離れる。


俺は怒りに任せて力を溜める。

溜めるというより、爆発するのをなんとか抑えているといった感じだ。


待つんだ……あと少し……


「はじめぇぇぇぇぇええええ!!!」


合図と同時、俺は聖剣を抜き、一も二もなく飛び出した。


決壊した怒りの波に飲まれるように、ハル目掛けて飛びかかる。


俺に合わせるように、ハルが剣を振り上げる。


そんな剣で俺の一撃を防げると思ってんのか!?

剣ごと真っ二つにしてやる!

死ねぇ!!


俺は剣を思い切り振り下ろした。


俺の聖剣とハルの剣がぶつかり合う瞬間、光が(はとばし)り、盛大に爆発した。


「んなぁぁあああ!?」


空中に飛び上がっていた俺は踏ん張りが効かず、爆風で吹き飛ばされてしまう。


爆煙が晴れると、アナウンスが慌ただしく叫んだ。


「な、ななななんということでしょう! まさに、まさに一発勝負! 互いの全力を込めた一撃! 勝負を制したのは……ハルだぁぁぁぁああああ!!!!」


俺は放心状態のまま、審判が場外を宣言する姿を眺めていた。



――



自分でも驚くほど冷静に対処できた。

場外で唖然としている勇者を見て、俺はそう実感した。


『マナ視の魔眼』を開眼していた俺は、ステージ中央で睨み合っていた時から、勇者のマナが手足へと集中しているのが見えた。


しかし、そのマナは魔力へと変換されることはなく、勇者の体に力が(みなぎ)っていく。


これが……闘気ってやつか。

確かに魔力とはまた違う、不思議な力を感じる。


魔法を苦手とする人は、闘気の扱いが得意になるらしい。

闘気を用いることで、人智を超えた力、格闘技術(マーシャルアーツ)を行使できるようになる。


これらはルナから教わった話で、実際にマナの動きを見るのはこれが初めてだった。


ルブルには魔法や闘気といった戦闘技術はない。

勇者は無意識のうちにマナを闘気へと練り上げ、常人離れした力を使いこなしていた。


やっぱりすごいやつだ。

嫌な奴だし嫌いだけど、アイツのセンスだけは素直に認められる。


俺は感心したと同時、あることに気が付いた。

以前は白かった勇者のマナの色が、グローム山で遭遇した魔獣(ベヒモス)のように黒くなっていた。


白が善で黒が悪?

それとも黒の方が強いとか?


正直、色の違いによって差があるのかどうかも分からなかったので、この疑問は一旦保留した。


両手足が黒い光を放っている。

闘気の練り上げ具合で、開始と同時に襲いかかってきそうだということが見てとれた。


分かっているとはいえ、勇者の攻撃は強力だ。

聖剣に闘気を宿して斬る。

ただこれだけの攻撃。


単純だからこそ防ぎようがない。

直撃を受ければ、間違いなく俺の体は真っ二つだ。

ギリギリで躱せても爆風で大ダメージを受ける。


勇者は手加減しないだろう。

それが分かっているからこそ、恐怖で少し手が震えた。

震えを必死に押し隠し、腰に携えていた剣の柄に手を添える。


不安だが、この剣で勇者の一撃を受けるしかない。


まさかあの失礼な老人からもらった剣……ハルスカリバーに頼る時がくるなんて。


正直まだ自信はないが、やるしかない。


決意を胸に、俺は柄を強く握った。


審判の開始の合図が響くと同時、案の定勇者は鬼の形相で俺に飛びかかってきた。

俺は怯むことなく立ち向かい、全力で剣を振り上げる。


そして互いの剣が交差した。


そこで初めて気付いたが、勇者の剣に黒い光が宿っていたように、俺の剣にも白い光が宿っていた。


白と黒のマナが衝突の力で混じり合い、そして相反するように反発した。

白と黒の閃光の後、反発力は俺と勇者を巻き込んで爆発へと変換される。


中空で踏ん張りの効かない勇者は場外へ吹き飛ばされ、現在の状況になった。


「な、何が起こったんだ!?」

「勇者様が吹き飛ばされたぞ!?」

「まさか勇者様が負けたのか!?」


審判とアナウンスが場外を宣言したことで、観客は困惑し始めた。


「ふ、ふふふふざけんなぁ!」


勇者がガバッと立ち上がると、俺を指差して叫ぶ。


「こんなの明らかに不正だろ! 認められるか!」


激高(げきこう)しながらステージに上がり直す勇者。


何を思ったのか、俺が不正をしたと訴えている。


「あんな爆発が起こってクソ雑魚野郎が無傷なのはおかしいだろ! きっと後ろの奴らが魔法か何かで妨害したに違いねぇ!」


俺の後方にいる仲間たちに剣を向け、睨みつける勇者。


「アンタ何馬鹿なこと言ってんの!」と、憤慨するリリィ。

「無様」と、無表情のルナ。

「身の程をわきまえなさい」と、冷ややかな目をしたマリン。

「私たちは何もしてませんよー!」と、ベーっと下を出すルージュさん。


疑いをかけられた仲間たちが、一斉に反論する。


「うるせぇ卑怯者ども! 俺様がタイマンでハルに負ける訳ねぇだろ!」


見苦しく叫び続ける勇者。


「おーっと! ニューキャッスルの代表、勇者カナタが何やら吠えています! ……しかし、どうしましょう。我々では外野が魔法を使用したかどうかの判断ができません……」


アナウンスは対応に困り、審判も訳が分からず戸惑っている。

ただの運営の方だろうから無理もない。


そう思っていると、勇者が俺に向けて叫ぶ。


「おいてめぇ! 女に助けられたままでいいのかよ! この恥知らずが!」


俺を罵る勇者の顔はさっきとは違い、どこか焦りを感じさせた。


「男のくせに情けねぇ! まぁ、もし名誉挽回したいってんなら相手してやるよ! 正々堂々、剣での勝負をなぁ!」


勇者は聖剣を担ぎ、エラそうな態度を崩さず、俺を見下すように言ってくる。


何だこいつ?

まさかさっき場外負けしたことをもう忘れたのか?


俺は勇者の堂々とした態度に唖然とした。


「そ、そうだそうだ!」

「勇者様が犯罪者なんかに負けるはずがないわ!」

「正々堂々と戦え卑怯者!」


勇者の台詞に引っ張られるように、観客たちも息を返してきた。


でも、言いたい放題言われるのも面白くない。

対戦前の震えはもう止まっている。

こんなやつ、もう怖くない。


俺は勇者をまっすぐ見つめ、剣を正眼に構えた。


「はっはっは! クソ雑魚野郎で弱虫なハルでも少しはプライドってもんが残ってたか! いいぜ! 相手してやるよ!」


勇者が笑いながら斬りかかってくる。

俺もそれに合わせて剣を振る。


キーン


二人の剣が交差し、二回戦が幕を開けた。



――



おかしい……


俺はハルが振り回す剣を何とか防ぎ、一旦距離を取る。


「なんということでしょう! なんということでしょう! 素人同然と思われていたハルが、とうとう勇者カナタを押し返しました!!」


クソうぜぇアナウンスは無視だ。

今はそれどころじゃねぇ!


なんでこうなった!?


一回戦は間違いなく外野の仕業だ。

爆発を操作したとか、バリア的な魔法で守ったとか。

そうとしか考えられない。


そもそもハルが俺の剣を受け止められる訳がねぇ。

間違いなく魔法だろう。


これ以上邪魔が入らないよう、仕方なく剣での勝負を受けてやった。


開戦の狼煙となった一合目のつばぜり合い。

バランスを崩したところへの追撃。

ハルは間違いなく必死で避けていた。

返しのハルの反撃は見当違いの空振りだった。


当然だ。


ただのポーターだったハルは剣の素人だ。

剣の振り方も足の運びもでたらめ。

勇者として選ばれた俺の相手になるはずがねぇ。

時間の問題だ。


そのはずだったのに。


開始からすでに五分は経っている。

未だに一撃も入っていない。


それどころか、素人同然の回避にもかかわらず、俺の剣を余裕をもって(さば)き、的確に反撃してくるようになった。


一体どうなってやがる!

これも魔法か!?


「おいてめぇ! これはどういうことだ! また何か魔法を使ってんだろ!」


俺は男としてのプライドがないハルに対し、怒りを我慢できずに吠えた。


「また何か言ってるよアイツ」

「哀れ」

「人を疑うことしかできないようですわね」

「私たちは何もしてませんよー」


ハルの後ろでのんきに観戦している女どもの態度が、俺の怒りを逆なでする。


「ぶっ殺してや"る"う"う"う"!!」


俺は怒りのままにハルに突進した。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「この後一体どうなるのっ……!?」


と思ったら、


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


何卒よろしくお願いいたします。

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