7.対抗戦
すごい客入りだった。
メインイベントとは聞いていたが、たかだか二つの冒険者クランの争いでにこんなに人が来るなんて。
もっも他に楽しいイベントを思いつかなかったのかよと運営に文句を言いたい。
言いたいが我慢する。
そんなことより対抗戦だ。
勇者たちは強い。
ずっと間近で見てきたから分かる。
多少考えなしなところはあるが、身体能力はピカイチだった。
でも、こっちにはSランク冒険者のルナがいる。
そうだ。
ルナが負けるとは思えない。
そう自分に言い聞かせながら出番を待つ。
「ハル、大丈夫?」
ルナが横から覗き込むように聞いてきた。
声の震えから察するに、人前に上がるということでかなり緊張しているようだ。
「大丈夫だって! アタシたちもいるんだから!」
「ええ、大船に乗ったつもりでいなさい」
「大丈夫大丈夫。ルナもいるし、何とかなるわよきっと」
リリィ、マリン、ルージュさんも笑顔で俺を激励した。
そうだったな。
もう気負うことはない。
みんなに笑われないよう、堂々としていよう。
それにしても。
さっきあれだけ落ち込んでいたルージュさんが、今はなんだかのほほんとしている気がする。
いつも通りと言えばそれまでなんだが……
俺がルージュさんの態度に気を取られている内にクランの紹介が始まった。
アナウンスにのコール合わせて、俺たちは壇上へと上がる。
物凄いヤジが飛び交っているが、もうそんなのは屁でもない。
ふてぶてしく笑い、俺たちを睨む勇者カナタと目があった。
俺は負けじと睨み返す。
「あれ? 四人だけ?」
リリィが対戦相手であるニューキャッスルを見ながら言う。
ステージに上がってきたのは勇者カナタ、ダン、アスカとリーダーのマスター・カーネルだけだった。
「おかしいわね……確かキャッスルには、他にも何名か冒険者がいたはずよ」
ルージュさんも不可解そうに眉を寄せる。
どうなるんだ?
俺たちはルージュさんを含めて五人。
対するニューキャッスルはマスター・カーネルを合わせても四人と一人少ない。
これじゃ団体戦はできないんじゃ……
俺の心配に答えるよう、アナウンスが対抗戦のルール説明に入る。
「今回の対抗戦、ヒカリエ五名に対してニューキャッスルが四名と人数が合いません。そのため特別ルールといたします! ルールは簡単! 各チームの代表による一対一のガチンコバトルです!」
アナウンスが大音声で説明を終える。
一瞬「え?」となった会場だが、すぐに興奮が返ってくる。
「なんだなんだ? リーダー同士の一騎討ち?」
「謎の多いカーネルさんの実力は気になっていたんだ!」
「いや、ここは勇者様じゃねーか?」
「勇者様ー! その犯罪者たちに天罰をー!」
観客たちの期待が高まっていく。
そんな中、一番驚いているのはルージュさんだった。
「ええ!? 確かルールは三対三だから、私が戦うことはなかったはず……あれ!?」
そうか、この人運営に加わってるからルール知ってたのか。
人数的に自分が出ることはないって分かってたから、さっきから気が抜けてたんだな。
「あわわわ、どどどうしよう」
ルナたちが戦うと思っていたところに、まさかの自分指名。
驚き慌てるルージュさん。
「あはは、張り詰めていた俺のために代わってくれたんですね。ルージュさんありがとうございます」
「なんで……どうして……」
からかう俺を見て、涙目で助けを求めてくる。
「ルー姉なら大丈夫!」
「私たちの分までお願い」
「わたくしたちの力を示してください」
そんなルージュさんを激励する三人は、気が抜けたのか、笑いを堪えているように見える。
「それでは、ニューキャッスルの代表!! 勇者……カァァァナァァァタァァァアア!!!」
そんな俺たちを他所に、アナウンスが対戦相手を発表した。
名前を呼ばれた勇者が、声援に応えながら中央へ歩き出す。
あれ?
カナタ?
マスター・カーネルじゃなくて?
アナウンスは続ける。
「対するヒカリエの代表は!! 勇者カナタの幼馴染にして、元パーティーメンバー! ハァァァァァァルゥゥゥゥゥ!!!」
予想外の展開に会場がどよめく。
「勇者の幼馴染だと!?」
「元パーティーメンバー!?」
「そんな奴がこの町で悪事を働いてやがったのか!?」
俺は一斉に罵声の標的となり、飛び交う声に押しつぶされそうな気分になる。
「ふっふっふ、これはなんて好カード。因縁の対決ですねー」
カーネルが肩を揺らす。
「まさかあなたの仕業!?」
ルージュさんが声を荒げてカーネルを睨む。
リリィとマリンも抗議の声を上げている。
「何のことでしょう? 私はただ面白くなってきたなと思っただけですよー」
そんな抗議には耳を貸さず、カーネルたちは場外へ降りていく。
「ハル」
ルナが心配そうに俺を見る。
「こんなのインチキだよ! 相手にする必要ないよ!」
「運営であるルージュが知らない以上、裏工作があったことは紛れもない事実。対抗戦は中止ですわ!」
リリィとマリンが怒りをあらわにする。
ルージュさんは何が何やらと混乱しているみたいだった。
そんな周りの様子を、案外冷静に見ていられた。
なぜだろうな。
「うひゃひゃひゃ! おらぁ! どうしたてめぇら! まさか逃げんのかぁ!?」
勇者が下卑た笑みを浮かべたまま、抗議するリリィたちを嘲笑う。
騒然となる会場。
そんな中だというのに、俺には喧騒が届かない。
やっぱりこうなった。
むしろ、こうなってほしいと、心のどこかで願っていた。
あいつと再会した時から。
「ルナ。大丈夫だ。俺に任せてくれ」
俺は心配そうに見てくるルナの肩をポンと叩き、ステージの中央、カナタが待つ場所へ歩を進める。
「お前たちも! こんな馬鹿にされたままじゃ帰れないだろ! 俺に任せろ!」
言いながら俺はリリィたちへと向き直り、拳を突き出して宣言する。
「勝つのは俺たちだ!」
その言葉に、仲間たちは笑顔を取り戻した。
「アンタならできるよ! 頑張れハル!」
「無理しないで」
「あの不届き者に、わたくしたちの威光を見せつけてやりなさい」
「やっちゃえハルくーん!」
俺は仲間の声援を背に受けながら、カナタと真っ向から対峙した。
「よぉハル。クソ雑魚野郎のてめぇが、逃げずに俺様の前に立てたことだけは褒めてやるよぉ」
ものすごい顔でカナタが言ってくる。
なんとも言い表せない。
邪悪そのものといった顔だった。
「両者舞台中央で睨み合う! 早くも剣呑な雰囲気だ! 元パーティーメンバーという話ですが、それ以上に何か因縁めいたものを感じます!」
アナウンスが会場を盛り上げ、観客たちのヤジにも力が入る。
「やっちまえ! 容赦するなー!」
「勇者様ー! この町を助けてー!」
一度中央から離れると、開始の合図をすべく審判が構える。
いよいよだ。
目を閉じると、汚い野次に紛れて、仲間たちの声が確かに聞こえてくる。
大丈夫だ。
落ち着いてる。
「はじめぇぇぇぇぇええええ!!!」
審判の開始の合図とともに目を開く。
「ハァァアルゥゥゥウウウアアアア!!!!」
開始と同時、カナタが聖剣を抜き、獲物を前にした獣のように勢いよく飛びかかってくる。
「カナタァァァ!!」
俺も剣を抜き、振り下ろされるカナタの聖剣に合わせて、掬い上げるように下から上へと力一杯剣を振り上げた。
剣と剣がぶつかる瞬間、白と黒の光が閃光のように迸り、爆発とともに周囲を爆煙が包み込んだ。
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