表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/85

6.不安と決意

俺たちはヒカリエに戻ってきていた。


「…………」


口を開く者はいない。

店までの道中も町の人たちから罵詈雑言を浴びせられ、仲間たちは恐怖や悔しさで塞ぎ込んでいる。


ルナはずっとうつむいている。


リリィは膝を抱えてうずくまっていて、涙が今にもこぼれ落ちそうだ。


ルージュさんはテーブルに突っ伏し、ずっと嗚咽を漏らしている。


マリンが隣に座り、無言で宥めているが、そのマリンもとても暗い表情をしていた。


みんな無実の罪を着せられて酷いことを言われたんだ。

落ち込んで当然だ。


そんな仲間たちを見て、俺は自分自身に憤りを感じていた。


身に覚えのない罪で罵られ、勇者(トラウマ)との再会で頭が真っ白になっていた。

それでも、あの場で何も言い返せなかった情けない自分に失望した。


俺の仲間たちは、あんなことを言われるような悪いやつではない。

確かに少し変わったところはあるが、みんな町のために頑張っているのを俺は知っている。


知っていたのに……


パーティーのリーダーを任されておきながら、肝心な時に仲間を守ってやれなかった。


今からでも仲間たちの誤解を解き、騒ぎを煽った勇者のあの憎たらしい顔面を一発ぶん殴りたい。


と、思うと同時に、激しい不安が押し寄せてくる。


俺は……勇者に勝てるのか?


俺は昔から勇者が嫌いだった。

勇者パーティー時代は勿論、その前から。


でも、その実力は認めている。


勇者は強い。

俺は何度も打ちのめされ、そして最後には殺されかけた。


ベヒモスの大きく開かれた口と、勇者の俺を見下す笑みが思い出される。


ダメだ……勝てない……


仲間を守りたい。

が、勇者には勝てない。


俺の頭の中はそんな堂々巡りを繰り返していた。


「ハル」


ふと声をかけられ顔を上げると、ルナが心配そうな表情で俺を覗き込んでいた。


綺麗な漆黒の瞳が、涙で滲んでいるように見えた。

ルナも辛いだろうに、俺の心配を……


「ありがとうルナ、俺はもう大丈夫だ」


俺は意を決して立ち上がり、みんなの前で頭を下げた。


「みんな悪かった……何も言い返せなかった」


俺が謝ったことに驚いたのか、みんなが少しアタフタした。


「ハ、ハルが謝ることじゃないじゃん」


リリィがそう言ってくれるが、俺は首を横に振って話を続けた。


「さっきの騒ぎ、あれは恐らく勇者の仕業だ」


そう言って一度奥歯を噛み締めると、俺は自分と勇者たちとの関係、ルナと出会った時の状況をみんなに語った。


そして、今回の勇者の行動。


「勇者はよく、あんな手段を使っていたんだ。誰かを悪と決めつけ、それを自分の手で叩きのめすことで勇者への称賛を受け、偽りの信頼を集めていた。そして今回もそれだと思う。ただ、本当の狙いは多分……俺だ。俺のせいでみんなを巻き込んでしまった。俺がここにいなければ、みんなこんな辛い思いをすることはなかった……悪い」


俺はまた、頭を下げた。


勇者は言っていた。

屈辱を返すと。


あれも、いつもの言いがかりだろう。

嫌なことがあれば、いつも俺に八つ当たりしてきた。


ウザいやつだが、今回は状況が悪い。


俺が狙われたせいで、みんなまで町の人から言いがかりをつけられてしまった。


俺がいなければ、こんなことにはならなかった。

そう思ってしまう。


頭を下げたままでいた俺に、ぽつりと声がかかる。


「ハルは悪くない」と、ルナ。

「アンタはアタシたちの仲間だよ」と、リリィ。

「ルージュの言葉を借りるなら、『家族』ですわ」と、マリン。

「ええ、私たちは家族よ。いなければ、なんて言わないで」と、ルージュさん。


仲間たちからの優しさを、俺は嬉しく思った。

やっぱりここが、俺の居場所なんだと強く思えた。


勇者パーティー時代……いや、その前の孤児院時代も。

俺は常に周りから嫌われ、蔑まれ、仲間外れにされて生きてきた。

認められようと必死になって努力した。


その結果があの裏切りだったのだから、俺はどこかで諦めていた。

仲間と生きることを……


でも違った。


みんなは俺を仲間だと、家族だと言ってくれた。

俺が生きてきた16年間、一度も言われたことがない、一番言ってほしかった言葉を。


「俺は、悔しい。あの時仲間を守れなかったことが悔しい。勇者の八つ当たりで家族が傷付けられたのが悔しい」


思いを吐露するたび、目頭が熱くなるのを感じる。


それでも俺は、口を開くことをやめない。

震える手をグッと握る。


「正直、勇者には勝てないかもしれない。自信はない。それでも、このまま仲間の居場所がなくなるのは嫌だ。ここがみんなにとって大事な場所だってことを、俺も知ってるから」


自信がない。

この言葉を口にするのが怖い。

臆病な自分を必死に押さえつけ、俺は最後の言葉を言い放つ。


「もう一度俺にチャンスをくれ! 今度は絶対、俺がみんなを守るから! 午後の対抗戦、俺が勇者を倒す! 俺に……俺に任せてくれ!」


最後まで言い切ると、少し、心が楽になった気がした。


「私も戦う」と、静かに立ち上がるルナ。

「このまま引き下がれないよ! アタシも戦うよ!」と、袖でゴシゴシと涙を拭って立ち上がるリリィ。

「ハルはわたくしのおもちゃであるということを分からせて差し上げましょう」と、黒い笑みを浮かべて立ち上がるマリン。

「 ハルくん、ありがと」と、ゆっくりと立ち上がり、泣き腫らした赤い目で微笑むルージュさん。


立ち上がった四人は、右手を差し出して重ねていった。


「みんな、ありがとう」


俺はみんなに感謝を告げ、重ねられたみんなの手の上に自分の右手を重ねた。


重ねた手から、ずっと求めていた仲間、家族の温もりが伝わってくる。


俺はここで、この場所で、ようやくそれを手に入れることができたのだと実感した。


みんなで見つめ合う。

そして、みんなの視線が俺へ集められて……


「……こう言う時の掛け声って決まってるのか?」


思わずガクッとズッコケる。


「アンタねー! こういう時くらいビシッと決めてよ!」と、目を吊り上げるリリィ。

「決まりはない」と、真顔で答えるルナ。

「本当に格好のつかない男ですわ」と、呆れ顔のマリン。

「あはは、ハルくんったら」と、笑い出すルージュさん。


みんなの顔に笑顔が戻る。

自然と、俺の頬も緩んだ。


怯えも気負いもなくなり、俺たちは午後の対抗戦に挑むのだった。


――



ハルジオン収穫祭。


元は一年の豊作に感謝し、翌年の実りを祈る祭りだ。


この一日の中でメインイベントとされているのは『仮装巡行』、『夜間行進』、そして新たにもう一つ。


『クラン対抗戦』。


ハルジオンに拠点を構えているクランによる対抗戦だ。


つまり……


「さぁさぁさぁ! 今年から新たな催しとして用意された大イベント! ハルジオン収穫祭クラン対抗戦!」


町外れに特設された簡易闘技場。

客席には溢れんばかりの人。

立ち見もいるようだ。


割れんばかりの歓声に応えるよう、アナウンスにも熱が入る。


これも魔道具なのだろうか。

拡張されたアナウンスが、会場の外まで響き渡っている。


観客席後方。

対面するようなに設置された巨大ボードには『ヒカリエ』と『ニューキャッスル』の文字がそれぞれ浮かび上がっている。


「まず登場するのはこのクラン! 『キャッスル』から心機一転! 勇者を擁し、町の期待を一身に背負い立つ! 新たな門出を勝利で飾ることはできるのか!? 冒険者クラン『ニューキャッスル』!!!」


後方のボードのニューキャッスルの文字がきらびやかに点滅する。


客席の中央に用意されたステージ。

その一方から、歓声をその身に受けつつ、ニューキャッスルのメンバーが堂々とした態度でステージへ上がる。


「そして! 最近何かと黒い噂の絶えない町のアイドル!  実は冒険者だったとは知らなかったぜ! 美少女冒険者クラン『ヒカリエ』!!!」


ステージを挟みニューキャッスルとは反対側。


先程とは一転、湧き起こる罵詈雑言を聞き流し、俺たちはゆっくり壇上へ歩を進める。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「この後一体どうなるのっ……!?」


と思ったら、


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ