4.陰謀と再会
「今日は特別の特別にお祭りを案内してあげるよ! 特別に!」
「一人で先に行くと迷子になるぞ」
「子供扱いすんな! この変態!」
祭りではしゃぐ少女を心配しただけなのに、思いやりのお返しに蹴りをもらう。
「変態呼ばわりはやめろよな。俺がいなかったらお前らあの服で外歩いてたんだぞ?」
「う"……」
俺の反撃に気まずそうにするリリィ。
先日の試着会で俺がエロエロ連呼しまったばっかりに、あの服がヤバイことにみんなが気付いてしまった。
何故か俺がみんなから怒られ、そして何故かマリンにも睨まれた。
いや、後者の理由はなんとなく分かるけど……
せっかくのアダルト天使ドレスは、ただの白いローブになってしまった。
まぁそれでも翼と光輪はあるし、十分天使っぽくは見える。
「んで、そっちはどうした?」
俺は振り返り、後ろにいる二人に声をかけた。
「人が、多い……」と、真っ青な顔のルナ。
「ハルのせいでみなさまの服が……」と、いじけるマリン。
「まぁまぁ」と、呆れ顔で二人をなだめるルージュさん。
リリィはどんどん進むし、後ろの三人は全然進まないし、まとまりがなさすぎる。
俺は頭を抱えたくなった。
収穫祭当日を迎え、俺たちはマリンお手製の仮装を身に着け、町を練り歩いている最中だった。
ハルジオンの収穫祭は有名な祭りの一つらしく、町の外からも沢山の人がやってくる。
俺は賑わう露店街を案内してもらった。
「あれはヒカリエの店員か?」
「今年の仮装はあまりエロくないな……」
「うわ!? ブ、ブラックベア!?」
行く先々で俺たちは好奇の視線を集めていた。
毎年マリンの際どい仮装で参加していたんだろう。
ローブ姿という色気のない格好にガッカリしている男性が多い。
それに……
「なんでお前だけブラックベアなんだよ」
俺は後ろでいじけるマリンに言う。
みんなが天使の仮装をしている中、マリンだけは本物そっくりの熊の仮装だった。
ブラックベアはリリィと討伐したことがある魔物だ。
黒い剛毛に鋭い爪が見事に再現されている。
そして頭から熊の顔を被り、近くで見ても本物に見えるほどなりきっていた。
「光の女神メリウス様の敬虔なる信徒であるわたくしは、他人に肌を見せられませんわ」
ブラックベアがそんなことを言ってくるが、そんな決まりは聞いたことがない。
俺がブラックベアに呆れていると、何やら不穏な声も聞こえてくる。
「おい、あれが最近噂の?」
「きっとそうだぜ。声をかけても無視されるんだってよ」
「それにすぐにキレるらしいな」
……身に覚えのありそうな噂話だ。
パーティーを組む前は各々がソロで活動していたのだが、コミュニケーション能力に問題のある彼女らは、行く先々で問題を起こしていたのかもしれない。
俺がそんな噂話に肩をすくめていると、
「町近郊の魔物の活性化は、ヒカリエの仕業って話だぜ」
「最近名が知れてきた盗賊団もあいつらが関わってんだろ?」
「自分たちで起こした問題を解決し、町長やギルド支部長に取り入ろうって魂胆か」
と、聞き捨てならない話が聞こえてきた。
「ち、ちょっと、何ですかその話?」
思わずそちらへ顔を向けると、何人もの人たちが、俺たちを睨みつけてきていた。
「何ですかだと? 俺たち町の者を脅かす元凶の分際で?」
「俺の馬車が魔物に襲われたんだぞ!? あんたらが裏で糸を引いてたんだろ!?」
「俺は盗賊に商品を奪われた! 全てお前たちの仕業だ! そう聞いたんだ!」
明らかな憎しみを帯びた視線と叫び声。
それを聞いた周囲の人たちも気色ばむ。
ど、どういうことだ!?
何の言いがかりだ!?
俺は意味が分からず困惑した。
どれもこれも全く知らない話だったからだ。
「何なのアンタたち!? 変な言いがかりはやめてよ!」
リリィが激高するも、周囲の喧騒は収まらない。
それどころか、さらに激しさを増した。
「図星を突かれてキレやがったぞ!」
「噂道理だな!」
「この犯罪者ども! 誰か警備団を呼んでこい!」
お、おいおい、大ごとになってきたぞ!?
「俺たちが魔物や盗賊と関わりがあるわけないだろ? むしろ冒険者として町を……」
混乱しつつも弁明をしていると、俺の背後から声がかかった。
「チッ、本当に生きてやがった」
舌打ち混じりの憎まれ口。
覚えのある声に慌てて振り返る。
「久しぶりじゃねぇか、ハル。元気そうで何よりだぜ」
逆立つ金髪、背に剣を担ぎ、人を見下すように立つ男。
「な……ゆ、勇者……なのか?」
俺は理解が追いつかず、何とかそれだけの言葉を絞り出した。
目の前に勇者がいる。
俺を役立たずと断じてパーティーから追い出し、己の逃亡のために俺を魔獣の餌にして殺そうとした男が。
「はっはっは! なんて顔してんだおい! 久しぶりの再会でいきなり笑わせんなよ!」
あの山で俺を嘲笑った時と同じ顔で笑う勇者を見て、忘れかけていたトラウマが蘇る。
「おお! ハルではないか! 生きていたのだな!」
「あの時はもうだめかと思ってたけど、無事でよかったわ!」
勇者の後ろに並ぶ男女。
紫のモヒカン頭で筋骨隆々な大柄の男と、きらびやかなアクセサリーで着飾った金髪の美少女。
「ダン、アスカ……」
生きててよかっただと?
俺を見捨てておいて、何言ってんだこの二人は?
というか、何でこいつらがハルジオンにいるんだ!?
困惑する俺。
「それにしてもよぉ、まさか元パーティーメンバーがこんな町で犯罪者になってやがったなんてなぁ」
勇者はそう言って、俺たちを見ながらニヤリと嫌な笑みを浮かべた。
これは何か企んでいる顔だ。
俺はそう直感した。
「な、何を言って……」
「ふっふっふ、ヒカリエの諸君! ご機嫌よう!」
勇者を問い詰めようとして、さらに予想外の人物から声がかかった。
「「「カーネル!?」」」
ルナたちが一斉に驚きの声を上げた。
「いやー、サプライズはやはり気持ちがいいですねー。喜んでいただけましたか?」
人を小馬鹿にしたような笑みの仮面から嬉々とした声が発せられる。
「一体どういうこと!?」
リリィが問い返す。
「ふっふっふ、何を隠そう、彼らは私の新しいクラン『ニューキャッスル』のメンバー! 勇者カナタとその仲間たちなのです!」
カーネルは両手を高らかにあげ、大音声で宣言した。
ババーンという効果音が聞こえてきそうだ。
カーネルの宣言に、周囲の人がどよめいた。
「ゆ、勇者様?」
「そう言われてみると、貫禄があるな」
「なんだかいい男だわ」
先程まで俺たちを罵っていた人たちは、こぞって勇者たちに声援を送るようになる。
その声を受け、偉そうにしていた勇者たちが言う。
「この俺様が、町に危険をもたらすこの犯罪者どもを始末してやるよ!」
「我々が来たからにはもう安心だ!」
「私たちが全て解決してあげるわ!」
俺たちを指差して叫んだことで町の人たちが歓声を上げ、同時に俺たちをさらに罵倒し始めた。
「町を危険に晒しやがって!」
「お前らなんか勇者様に退治されてしまえ!」
「私たちの町から出ていって!」
飛び交う罵声。
中には手に持っていた物を投げつけてくる人までいた。
人見知りなルナやマリンはもちろん、リリィやルージュさんまでが、この異様な空気に怯えている。
俺はそんな仲間を背に庇うように前に立った。
こいつら、俺の仲間によくも……!
込み上げてくる怒りのままに、俺は叫び返そうとした。
「お前らいい加減……」
「ハルよぉ! 午後が楽しみだなぁ!」
勇者はそんな俺の言葉を遮るように、下卑た笑みを向けながら言ってきた。
そして、
「俺様が味わった屈辱の数々……てめぇに全部返してやるよぉ! 覚悟しやがれ!!」
額に浮かぶ青スジが今にも破裂しそうな勢いで、勇者は俺に向かってそう叫ぶと、カーネルたちに連れられて去っていった。
予想外の連続で忘れていたが、俺たちは今日の午後、冒険者クラン『キャッスル』改め、『ニューキャッスル』と戦うことになっている。
それはつまり、この四面楚歌の状態で、勇者と戦うということ。
そのことに思い至り、再びトラウマが蘇る。
俺が……勇者と……
笑いながら去っていく勇者たちに何も言い返すことができず、俺はただ、呆然と立ち尽くしていた。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「この後一体どうなるのっ……!?」
と思ったら、
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。




