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3.マリンの趣味

マスター・カーネルがやってきた夜、俺はみんなから詳しい話を聞いた。


「あいつはカーネルっていって、『キャッスル』っていうクランのマスターだよ!」

「いやそれは知ってるよ」

「自称、私たちのライバル」

「それも聞いた」

「いつも一人で楽しそうに何かを企んでいる変な男ですわ」

「いやだからそれも見たから知ってるって。そうじゃなくて……」


俺が知りたいのはそこじゃない。


俺が困っていると、ルージュさんが親切に教えてくれた。


「彼はハルジオンに来て新しいクランを作り、何かと私たちヒカリエにちょっかいをかけてくるお邪魔虫みたいな人よ」


いつもニコニコしていて優しいルージュさんだけど、今の言葉にはトゲがあったような。


ルージュさんの説明では、自分のクランが人気を勝ち取れるよう、ことある毎にヒカリエに勝負事を持ち込んでくるらしい。

それこそ、魔物討伐から迷子の捜索まで様々。


つい先日は、町のゴミ拾い競争なんかもやっていたらしい。


「やっぱりこの町の人はみんなのんびりしてるな」


俺はルージュさんの話を聞いて素直にそう思った。


それと同時、ある不安が浮かんでくる。


「回りくどい方法を取っていた奴が、収穫祭が楽しみって……」


俺は浮かんできた言葉をそのまま口にした。


「え? それってもしかして」

「今回は自信あり」

「ということですか?」


三人も俺と同じ考えに至った。


「うーん、たしかにそうも考えられるわね」


ルージュさんも腕を組んで考えるポーズをとる。

が、一瞬、口の端がフッと持ち上がった気がした。


「ルージュさん……何か知ってます?」

「え? ええ? わ、私が? な、何を知ってるの?」


明らかに挙動不審になるルージュさん。


問い詰めると、今回の収穫祭ではヒカリエとキャッスルのガチンコバトルが催されるらしい。


その名も『クラン対抗戦』。


「このチャンスに冒険者として目立っておきたいと思ったのよ」と、問い詰められてしょげながらも、そんなことを言うルージュさん。


それには納得する一同。

この機を生かして有名になろうと気合を入れた。


しかし、俺の不安は消えない。


カーネルは自信がありそうだった。

しかも、俺を見て覚えがある、楽しみだと言っていた。


あの男とは初対面……というか、この町の人には基本的に面識がないはずなんだが。


カーネルの奇怪な様相も相まって、次第に不安になってくる。


どうか何事もなく収穫祭を終えられますように。



――



カーネルの襲来から数日ほど経過した。

特に変わった様子はない。


いや、町は次第に様変わりしている。


収穫祭に近づくにつれ、飾り付けや露店の準備が着々と進められている。


ルージュさんも収穫祭の運営に入っているらしく、バタバタと忙しそうにしているのを見かけた。


それと、忙しい人がもう一人。


「遅いな。何かあったのか?」


俺はその人を心配して若干ソワソワしている。


「そ、そうだね。大丈夫かな?」

「きっと……大丈夫」


リリィとルナもなんだか落ち着かない様子だ。


「うう、神様……今年こそは……お願いします」


ルージュさんに至っては、泣きそうな顔で天に祈りを捧げている。


俺たちが待っているのはマリンだ。


収穫祭ではみんな仮装するらしいのだが、その衣装を裁縫が得意なマリンが用意してくれており、それが今日完成らしい。


マリンの腕は確かだ。


以前、カフェで働くようになった俺に制服を作ってくれたのだが、かなり完成度が高かった。


マリンの作る服はとても良いものだ。

それは間違いないはず。


「みんなどうしたんだ? 楽しみじゃないのか?」


俺の質問に三人は目を伏せながら答える。


「前回、前々回もマリンに用意してもらったんだけどね」

「完成度は高かった……ただ」

「あの子が作る服って……すっごくエッチなの」


ルージュさんの言葉に、三人はいよいよ青い顔になる。


そんなにやばいのか?


そこで俺も思い出した。

そういえばもう一着、マリンからもらった衣装?があった。


やけに露出が多く、ベルトで手足が拘束できるようになっていた革製の変な服?だ。


一緒にいたルージュさん二人して、危うくその衣装を着せられそうになったのだ。


「……こ、今回は大丈夫だよな?」


俺の質問に答える者はいない。

俺たちは静かにその時を待つのだった。



――



待つことしばらく。


カランカラーン


「みなさますみません。お待たせいたしました」


開かれた扉から、重そうな大きな袋を担ぎ、ここまで急いできたのだろうマリンが、肩で息をしながら入ってきた。


「今回は今までにない出来ですわ!」


かなり興奮している。

よく見ると目の下にクマができている。

徹夜で頑張ったのか?


「お、お疲れ様。大丈夫か?」


俺はハイになっているマリンに若干引きつつ聞いた。


「ええ、問題ありませんわ。これはむしろわたくしのためですから」


クマのできた瞳を爛々と輝かせながらマリンは答える。


不安だ……すごく不安だ。


マリンは早速袋をひっくり返し、テーブルに衣装を並べる。


それを見た俺たちは……思わず言葉をなくしなた。


「こ、これは?」


リリィが恐る恐るマリンに問う。

ルナはさらに顔を青白くさせ、ルージュさんに至ってはその場にしゃがみ込んで泣き出してしまう。


俺はというと……


「こ、こんなもん着て外に出られるわけねーだろ!!」


絶叫していた。


マリンの袋から飛び出したのは、薄い布で局部だけ隠れるようになっている服?紐?だった。


ちゃんと色分けもされていて、それぞれの分が用意されているのが分かる。


「こ、これは違います! あとで楽しもうと……いえ、違います、寝ぼけてしまいました。これではなくて……」


間違って違う物を出してしまったらしい。


安心したけど、ちょっと聞き捨てならない言葉も聞こえた気がした。

あとで何する気だこいつは。


気を取り直し、マリンは衣装をテーブルに並べていく。


「おお!」


俺は思わず声を上げた。


さっきまで悲壮感を漂わせていた三人も、改めて並べられた衣装を見て歓喜する。


「わたくしの提唱した天使の楽園は却下されてしまいましたので、せめて一日だけでもと思い作らせていただきました」


天使の楽園とは、パーティー結成時にマリンが考えたパーティー名だが、どうやら諦めていなかったらしい。


早速女性たちはキッチンへ着替えに行った。

直接見ているわけではないのに、着替え中の声が聞こえるだけでも俺のような清い思考の持ち主はドキドキしてしまう。


俺はキッチンとは反対を向き、何か別のことを考えるようにしながら着替えを待った。


「ジャジャーン!」


嬉しそうなリリィの声に釣られてそちらに振り返る。


「ハル、どう?」

「今回のはかなり普通だわ!」


そこには三人の天使が並んでいた。


純白。

その一言に尽きる。


フワッとしたデザインの白いパーティードレス。

よく見ると所々に白い刺繍が施されていて、とても上品な仕上がりになっている。


美しく荘厳な白い翼。

裁縫の域を超えていると思われるそれは、本物の翼のように羽が一枚一枚丁寧に作り込まれていて迫力がある。

しかも可動式だ。


頭上にはどうやってつけているのか、輝く光の輪が浮いている。


「うふふ、今回は可愛いだけでなく、大人の天使をイメージしてみました」

「大人!? へへ、もう16だしね。大人の階段登っちゃうよー!」

「この羽……動く」

「服の刺繍が素敵だわ! やっぱりマリンってすごいわね!」


三人はとても嬉しそうだ。


ただ、マリンは手を頬に当て、恍惚としながら、桜色の唇から涎までたらしている。

顔がとろけていた。


理由は俺にも分かる。


「ねぇねぇ!」

「ハル見て」

「どうかしら?」


リリィ、ルナ、ルージュさんが嬉しそうに感想を求めてくる。


「ええええっとぉー、すすす素敵だとおお思います」


俺は視線を彷徨わせながら声を震わせた。


何故気付かないんだ?

露出がすごいことになってるぞ!?


それは天使の清楚なイメージを見事にぶち壊す衣装だった。


衣装は純白だが、なぜか肌色の部分が多い。

生地が厚めで透けない部分と、レースのようにスケスケな部分があった。


肩から胸元までパックリと開き、ルージュさんの豊満な谷間がさらに強調されている。


背中側も腰のあたりまでVの字に開いていて、そこを美麗な刺繍が施されたスケスケのレースが頼りなく守っている。


なぜか腰の両側も肌色が見えていて、スカートも透けていないのは膝上まで。

綺麗な美脚が透けたレースの上から主張してくる。


天使の服というより、セクシーな白いドレスって感じだ。

容姿が子供みたいなリリィでさえ直視できない。


純粋に感想を求めてくる三人のことをチラチラと見ながら、俺は何故か罪悪感に押し潰されていた。


ふとマリンを見ると、俺と三人を交互に見て、さらに笑顔を緩めていた。


くっそー……

きっと困ってる俺を見て楽しんでるな。


マリンにガツンと言ってやりたい……が、

ありがとうございます!


俺は心の中でそう叫んだのだった。


ちなみに。

俺の衣装は天使とは対になる悪魔だった。


漆黒の角に片翼。

黒いタキシードでさながら悪魔の公爵閣下といった風貌。


特に変なところはなく、普通にカッコよくて気に入った。

カフェでたまに着るのも良いかも。


マリンの仮装は、以前、俺とリリィが討伐したこともあるブラックベア。


頭に熊の顔を被り、全身を黒い毛皮で覆い、手足には強靭な爪まで再現している。

小柄なところを除けば、完全に本物だった。


「ガチの熊ってのもヤバイけど、お前だけ天使じゃないのってズルくない?」

「わたくしは聖メリウス教の敬虔なる信徒。素肌を他人に見せることはできません」


俺の抗議をマリンが突っぱねる。


「そうなのか……そういうのがあるなら仕方ないか」


どうせならマリンの天使姿も見たかったけど、そういう決まりがあるなら無理強いはできないな。


「聖メリウス教にそんなルールはないわ」


残念がっていた俺にルージュさんがキッパリ告げる。


その後、「一人だけエロくないのはズルいぞ!」と、俺はどうにか天使の服を着せようと試みた。


しかし、マリンはどこからか鞭まで取り出して抵抗するし、リリィからは変態呼ばわりされるしと散々な目に遭い、一番エロいであろうマリンの天使姿は仕方なく諦めたのだった。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「この後一体どうなるのっ……!?」


と思ったら、


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


何卒よろしくお願いいたします。

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