17.勇者たちのその後⑥
「さぁ立て!」
「くそ! 離せ!」
「いや! お願いやめて! なんでも言うこと聞くから!」
翌日、村へやって来た騎士数人によって、俺たちは拘束されたまま護送用馬車へ移されようとしていた。
「おらぁ! 誰に向かって口聞いてんだ!」
「いいからさっさと歩け!」
逆らっていると、騎士の一人に背後から突き飛ばされた。
勢い余って前を歩く騎士に倒れ込んでしまう。
……俺の聖剣を持つ騎士に。
今だ!
俺は全身にためていた力を、肩に触れた聖剣に一気に流し込んだ。
その瞬間、騎士が持つ聖剣は暴発した。
「うわぁぁぁぁ!!!」
「きゃぁぁぁあ!!!」
突然の爆発に、周囲の野次馬たちが驚き絶叫している。
うっ……
加減はしたが、至近距離だとかなり効くな。
「う……ぐっ」
不意の一撃に巻き込まれ、俺の周りにいた騎士共は吹き飛ばされて死にかけだ。
ザマァねぇな。
俺はなんとか立ち上がると、倒れ伏すクソ野郎共を見下した。
爆発の衝撃で緩んだ拘束を外す。
「ゆ、勇者……」
「待って……」
足元から聞こえる二人分の声。
俺は舌打ちしながら声の方に視線を落とす。
爆発で吹き飛ばされたのだろう。
体中傷だらけのダンとアスカがそこに倒れていた。
「手を貸してくれ」
「お願い助けて」
二人が這うように俺に近づき、懇願してくる。
「……お、おい。何故笑っている」
ダンが俺を見て言う。
「う、嘘……よね?」
アスカは言いながら泣きそうになっている。
俺は二人には何も言わずに踵を返した。
それと同時、二人が腰に飛びついてくる。
「て、てめぇら何しやがる! 離しやがれ!」
「絶対に……行かせないぞ」
「一人だけ逃げるなんて……許せないんですけど」
「てめぇで歩けねぇやつを連れていけるか!」
俺は二人を引き剥がそうともがきながら、馬車に向かう。
覚悟の上での自爆だったがダメージが大きく、足手まといたちを振り切れない。
「あ、あいつら逃げる気だ!」
「待ちなさい!」
野次馬たちが逃げようとする俺に向かって叫んでいる。
中には石やゴミを投げつけてくる命知らずまで。
クソ野郎! 言いたい放題言いやがって!
もう少し俺様のダメージが少なければ皆殺しにしてるところだ!
「クソ……野郎」
俺は相変わらずしがみついてくる足手まといと共に、なんとか馬車の荷台に転がり込んだ。
「あいつら! 騎士様たちの馬車で逃げるつもりか!?」
「おい待て! この騎士様息してねぇ!」
「あんなやつらより騎士様だ! 手当てしろ!」
へっ、ついてやがる。
村民の暴言の数々は許し難いが、今は逃げることを優先する。
未だ俺を罵倒する奴らに向け、俺は中指を突き立てる。
これはルブルでは最上級の侮蔑行為にあたる。
「俺様を侮辱したヒミス村のクソ野郎共! よく覚えておけ! 俺様は必ずここを潰しに戻ってくる! てめぇらをこの国を殺すための足掛かりにしてやる! それまでの間、せいぜいビビって暮らしやがれ!」
言い終えると、俺は馬車を走らせた。
「ふ、ふざけるな! そんなこと許されるか!」
「今ならそいつらを殺せる! 誰か奴らを止めろ!」
走り去る馬車に向け、先ほどよりも強い罵声が向けられるが、そこには恐怖の色が混じっており、それが俺に愉悦を与えてくれる。
次にこの村を訪れるのが楽しみだぜぇ。
俺は来るべきその日を思い、声をあげて笑いながら馬車を引く馬に鞭を打つのだった。
――
ヒミス村を出て数日。
俺たちはグランズロック山脈に入っていた。
馬は休むことなく走らせて使い潰した。
そこからはなるべく人と出会さないよう、山道ではなく森の中へ入り、北へ北へと進む。
「おいてめぇら、少し休むぞ」
少しだけ開けた場所に出たので、俺は近くの岩に腰掛けながら指示を出した。
「大分歩いたが……今どのあたりだ?」
「うう……顔の怪我がかゆいんですけど……」
後ろからついてきたのは壁用のダンと見栄え用のアスカだ。
壁用とはいっても、先日の脱走でコイツらは装備を置いて逃げてきた。
もう肉壁になることしかできないだろう。
見栄え用に至っては顔半分を包帯で隠している上、その傷が膿んできている。
当然、薬なんて持ち合わせてはいないし、森で薬草を探して調合することもできない。
変えの包帯もなく、どんどん悪化していて見れたもんじゃない。
これが栄えある勇者パーティーのメンバーか……
俺がそんなことを考えていると、
「おい勇者、聞いているのか? 今どのあたりなんだ?」
ダンがイラついた様子でつっかかってくる。
空腹で気が立っているのか?
俺は答えずに地図だけホイと渡す。
「だから今どこなんだ! 説明しろ!」
ダンが怒鳴り声と共に立ち上がり俺に地図を突き返してくる。
「なんだてめぇ! 地図も読めねぇのか!? この脳筋野郎!」
「いきなり地図だけ渡されても分かるわけないだろ!」
脳筋馬鹿野郎は自分の馬鹿さを棚に上げて俺にあたってくる。
こんな馬鹿の相手してるだけ無駄か……
一度立ち上がった俺はすぐに座り直し、叫ぶ脳筋馬鹿を無視する。
「ねぇ! ちょっと静かにしてくれない!? そのデカい声が傷に響いて痛いんですけど!」
今度はアスカが立ち上がり騒ぎ始める。
この二日、森の中での生活にかなりストレスがたまっているのだろう。
元々戦闘以外では服や体が汚れるのをかなり嫌っていた。
高価な服装に成金みたいなアクセサリーの数々。
それらが土で汚れたり、小枝で傷ついたりする度に騒いでいた。
この成金馬鹿も無視だ。
コイツらにいちいち気を立てているとこっちがもたない。
というか、こいつらがここまで役立たずだとは思わなかった。
戦い以外本当に何もできない。
俺から言わせれば戦いでも足手まといだが。
特に野宿する時は悲惨だった。
まず火が起こせない。
標高が上がるにつれて気温も下がっている現在、休憩で暖を取りたいところなのにそれができない。
虫除けの道具も持っていない。
寝る時虫が寄ってきてろくに休めなかった。
食事に至っては仕留めた獲物の処理ができない。
馬車の馬を食おうかと思ったが誰も処理ができず、焼いて食ったら腹を下した。
考えれば考えるほどイライラする。
何故イライラするのか?
わかってる……
全部ハルがやっていたことだからだ。
ハルがいないと何もできない……
大臣に言われたことが思い出され、その度に怒りでどうにかなりそうになる。
俺は爆発寸前の怒りをなんとかなだめながら山の奥へと再び進み出した。
「面白かった!」
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