12.天然な店長
マリンとも打ち解けることができた。
打ち解けたという言い方が正しいかどうか分からないが……
マリンは冒険者になったばかりらしい。
ヒカリエがハルジオンに来たばかりの頃、カフェの店員として仲間になったそうだ。
俺とマリンの初心者二人組では大した依頼が受けられない。
なので、他の二人の時とは違い、マリンからはカフェの仕事を教わるようになった。
今でもつい体に目がいってしまうものの、ふわっとした美人なのに超ドSというキャラがルナやリリィ同様に残念で、普通に会話する分にはキョドらなくなった。
一緒に仕事をする度にいじられるのだが、嫌われるよりはマシだと思ってしまう自分がいて怖い。
どちらかというと、俺もSだと思うんだけどな……
俺はささやかな抵抗として、マリンに様付けすることは拒否した。
そんなマリンだけど、彼女は裁縫が大得意らしい。
自分の神官衣だけでなく、店の制服もマリンのお手製だ。
それを聞いて驚いた。
俺にもカッコいい服が欲しいと頼んでみたら、男物は専門外だけど特別にすごいのを作ってくれると言ってもらえた。
その時の顔がドSモードの目をしてた気がして不安だけど、とりあえず楽しみに待つことにした。
ちなみに、マリンは18歳で一つ年上だった。
ルナやリリィと一緒にいるとお姉さんっぽく二人をまとめてるし、年上だろうとは思っていたけど、意外と近かった。
お姉さんと言えばルージュさんだけど、彼女は19歳でマリンよりさらに一つ年上らしい。
大人のお姉さんという言葉が脳裏をよぎり、ドキッとした時の俺を見て、「顔が気持ち悪いですわよ?」と言われたことで我に返った。
――
ヒカリエに所属して二週間が経過した。
今ではルナやルージュさんだけでなく、一応リリィやマリンからも仲間として認めてもらえた。
以前の勇者パーティーでは、俺は仲間として見られていなかった。
俺としてはそんなつもりなかったが、どうやら彼らは違ったのだ。
ここでも最初は色々あったが、仲間として認められるのは素直に嬉しい。
「まさかヒカリエに男の人が加わるなんてねぇ。ハーレムって奴じゃないか」
常連のおばさんが俺にニヤニヤと笑いながら言う。
今日はカフェの店番だ。
「いやぁ、きっと俺の男としての魅力がみんなに伝わったんですよ」
俺は笑いながら返した。
こんな返しができるくらいには、接客にも慣れてきた。
「ハル、調子に乗ってないで働きなさい。ちなみに、あなたに男としての魅力は一切感じませんわ」
笑う俺の背後から、マリンの切れ味抜群の言葉が飛んでくる。
「ハル! 何馬鹿なこと言ってんの!? あんまり調子乗ってると痛い目みるよ!」
言葉の暴力に怯んでいると、リリィが追い討ちをかけるように、蹴りを入れながら言ってきた。
「お前ら……覚えてろよ」
俺は心身ともにダメージを受け、目に涙を浮かべながら二人を睨んだ。
リリィは小馬鹿にしたようにニヤリと笑い、マリンはうふふと頬に手を当てながら恍惚としていた。
くそぉ……本当に仲間として見てもらえてるんだろうか。
俺が不安に思っていると、
「あらあら、なんだか最近みんな綺麗になったと思ったけど……なるほどねぇ」
常連のおばさんは俺と二人を交互に見ながらニヤニヤとそう言った。
どういうことだよと、俺たちは揃って首をかしげた。
――
「ただいまー」
出かけていたルージュさんが帰ってきた。
どうやらルナも一緒だ。
「おかえりな……」
「ルー姉、ルナもおかえり!」
「二人ともおかえりなさい」
二人を向かい入れようとした俺の頭をグッと押さえつけ、リリィとマリンが出迎える。
「おい押すなよ」
俺が二人を振り払うと、ルージュさんがニコニコしながら、
「ハルくんがみんなと仲良くなったみたいでよかったわ」
嬉しそうにそう言った。
「私も喜ばしい」
ルージュさんの言葉に続いたルナはいつもの眠たげな顔だ。
感情をあまり見せないルナだけど、基本的に思ったことをハッキリ言うタイプなので、これは素直に喜んでいいはずだ。
はずなんだけど、
「これは仲が良いと言えるんでしょうか?」
俺はジト目でリリィたちを見ながらそう吐いた。
それでもルージュさんは笑顔を崩さず言い切る。
「ええ。私たち以外とこんなに楽しそうにする二人は珍しいわよ」
「激レア」
「ちょ、やめてよルー姉」
「ルナもですわ。ハルがまた調子に乗ります」
うーん……
まぁ、ルージュさんやルナが言うんだから、きっと仲良くしてくれてるんだな。
俺は無理矢理そう思うことにした。
「そういえば今日で二週間だよな? 明日からはどうすんの?」
ちょうどみんな揃ったので、俺は明日の予定を確認した。
「もう二週間!? どうしよう……次は考えてなかったわ」
バタバタと慌て始めるルージュさん。
この人はそそっかしいというか、抜けてるというか。
まだそんなに話したことはないんだけど、天然オーラを感じるんだよな。
「この後、上で決める」
ルナの一声で、これから会議をすることが決まった。
――
片付けも終わり、二階に場所を移して話し合う。
「カフェの人手も増えたし、ギルドで依頼を受ける回数も増えるね。これでまた楽になるよ」
嬉しそうに目を輝かせるリリィ。
「私は、マリンの冒険者ランクを上げた方がいいと思う」
静かに意見するルナ。
「よろしいのでしょうか……低ランクのお仕事は報酬が少ないですよ?」
申し訳なさそうに小首をかしげるマリン。
うーん、と唸る一同。
どうやら、俺の同行はこれで終わりっぽいな。
今後のクランの方向性を決めるみたいだ。
「まぁまぁ、そんな難しく考えることないわ」
淹れたての紅茶を持ってきたルージュさんが、ニコニコと笑いながら言う。
「私ね、実は考えが、きゃっ」
自分の足につまずいたのか。
ルージュさんが突然、前のめりにズッコケそうになる。
一番近くに座っていた俺は、咄嗟にルージュさんをキャッチ。
しようとして、顔面に熱々の紅茶をぶちまけられた。
「あっぢ! あぢあぢ! ア、【アイス】!」
あまりの熱さに我慢できず、頭を魔法で冷やした。
「あいたたた……うう、また失敗しちゃった」
「ルー姉大丈夫? 物を運ぶ時に喋っちゃダメだってば」
「失敗して恥ずかしがるルージュ……うふふ、いつ見てもいいですわ」
「ハルが身を挺して受け止めてくれたから、カップは無事」
心配そうにルージュさんに集まる三人。
いや、誰か一人くらい俺を心配しろよ!
「お、お前らなぁ」
呆れた声を漏らす俺の方を振り返り、各々が口を開いた。
「熱いのは平気なんじゃなかったの?」と、したり顔でニヤつくリリィ。
「水も滴る良い男ですわ」と、頬に手を当てて恍惚な表情をするマリン。
「カ、カップを割らずに全てを受け止めるなんて、すごい」と、視線をスーッと横に逸らし、取ってつけたよな褒め言葉を述べるルナ。
こ、こいつら、心配しないどころか、バカにしやがって!
「少しは俺のことも心配……」
「ご、ごめんねハルくん」
立ち上がったルージュさんが、怒鳴ろうとした俺の手を取って謝罪を口にした。
急接近した少し涙目の可愛らしい顔と、大きな胸の膨らみに、思春期童貞心がドキッと弾む。
「あ、あの、だ、だいじょ、ぶ、です」
目を泳がせて噛みまくる俺を見て、ルナ達はため息を吐く。
「噛みすぎ、目泳ぎすぎ」と、リリィ。
「そこで粋な一言が出れば格好がつきますのに」と、マリン。
「ハル、ルージュとも仲良くなってほしい」と、ルナ。
そんなこと言われても。
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