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第1章 永遠の眠りにはつきそこねた 1

初投稿です。スマホで見やすいように一行空きを多めにするよう心掛けていますが、現在試行錯誤中です。

(私、どうしてまだ歩いてるんでしょう)


エデイラの胸に、そんな弱気な言葉が浮かんで消えた。


(だって、もうなにも残っていないのに)


だが実際、泣き言をぐずぐずと考えていられるほど彼女の体力にも気力にも余裕はなかった。砂漠の赤みがかった砂はさらさらしていてとらえどころなく、踏んでも踏んでも、前へ進んでいるというよりは足を取られて沈んでいくようで、その手ごたえのなさがエデイラの気力をいっそう萎えさせる。


暗いうちから歩き始めて、もう何時間たつだろう。


太陽は真正面から照り付けてくるし、砂漠の砂の照り返しがこんなにも体力を消耗するとは思っていなかった。疲れに比例して、倒れて楽になりたいという投げやりな気持ちが湧いてくる。


(――それなのに、なんで)


足が勝手に前へ前へと動く。


館を出てからなにも食べていなかったが、空腹は感じなかった。胃袋がというより、胸の中がからっぽで麻痺したようになにも感じない。


(アンダルトン修道院……アンダルトン修道院まで、もたせないと)


地図が確かなら、もうそろそろ、目指す建物が見えるはずだった。


『そこまで無事にたどりつきなさい』


旦那様の声が思いだされた。


『そこは砂漠の真ん中にあって、あらゆるものから中立を保っている。そこに行けば──』


エデイラの鼻がつんと熱くなった。

旦那様のことを思うと、自然と涙がこみあげてくる。だが、泣けない。


(泣いたりして、余計に体力を消耗するような愚かなことはできない。だって、私は託されたんですから。旦那様から……アリスから……)


エデイラは胸元深くに押し込んでいた紙片を取り出してひらいてみた。太陽の位置とそれを合致させてから見比べる。あたりの地形からしても、方向はこれであっているようだった。だが、見渡す限りそれらしい建造物はない。


びゅうと風が砂を巻きあげたので、エデイラは目をすがめた。

さっきから、風が強くなってきていた。


(嵐が、くる……?)


あたりにはオアシスもないし、風を遮る建物もない。通りかかる人もいない。


気温の上がり続ける砂漠のど真ん中で立ち往生することは死を意味する。だから一歩ずつでも前に進み続けるよりほかなかった。腕で顔をかばい、体をできるだけ丸くして。


ごおっという音が耳のそばでする。

風は砂を巻きあげ、強い力でエデイラの華奢な体に吹きつけてくる。


だんだん目をあけていることすら難しくなって、エデイラはやわらかい砂の上に膝をついた。そうしている間にも、風は強くなり続け、砂が顔にびしびしと当たる。


エデイラはとっさに砂の上に上体を倒して、背中を丸くした。


しばらくそうして耐えていたが、それでも衣服の隙間から砂は入ってきて、口にも、鼻にも、耳にも容赦なく流れ込む。


(旦那様……御命令……アンダルトン修道院)


それだけを繰り返し考えて、エデイラは嵐がやむのを待っていた。

長い長い嵐だった。


(旦那様……旦那様……)


『頼んだ、わよ』


気がつけば、どこか外側からアリスの声が聞こえてくる。最後に聞いた声だった。


よくない兆候だとわかってはいた。

疲労と喉の渇きとで、意識が勝手にさまよい始めているのだった。危険だった。だが自分の意思では止められない。


『ねえたのんだ、わよ』


(アリス……わかってます、わかってます……けど、)


この数日の疲労と悲しみで、肉体も精神も限界にあって、エデイラはしだいに声のする方へと意識を引きずられていった。


◇◇◇


タルヴィス家といえば、こと薬にかけては押しも押されもしない名家であって、そのお屋敷で働くメイドは見習いもいれると二十人をゆうに超える。


エデイラたちのように、十代後半のものがもっとも多くて、年上のものは『外の任務』に出るのが常だった。


 おつかえするのは旦那様と大奥様のお二人だ。


 そのお二人も含め、メイドたちが皆殺しにされたのはつい先日のこと。


 まず死んだのは年老いた大奥様だ。夕方遅く、庭に出たところを相手の斥候と出くわして殺された。


 攻めてきた兵たちはむろん身元を隠していたが、エデイラたちが拷問し、薬剤カルテルの二家が共謀したことだと口を割らせた。

 割らせたところで、どうなるものではなかったが。


 殺戮は丸二日の間続き、三日目の朝日が昇る頃、終わりになった。

 誰ひとり、生き残ったものはいなかった。エデイラを抜かしては。


 最後の最後、三日目の朝日が昇る前に、エデイラとアリスが旦那様に呼ばれた。もっとも技に長けた二人がそろって呼ばれたことで、なにを命じてくださるのかと胸が高鳴る。


「皆殺しよ」

「もちろんです」


 アリスが言い、エデイラも応じる。


 決して仲はよくないが、腕の確かさは互いによくよく知っていた。


 短時間で美しくテーブルを飾ることも、そこにふさわしい食器とカトラリーを選ぶことも、優美な物腰で料理をサーブすることもできる。


 だがもっとも得意とするのは戦闘だ。それも、細身の剣や、服の隙間に隠れる程度の小さな武器を使った接近戦。


 本当ならば最後まで、旦那様のそばでお守り申し上げたかった。だが命令ならば仕方ない。

 エデイラは後ろ髪を引かれる気持ちを戦闘への高揚に置き換えて、おそばを離れたのだった。

全7章で完結します。

はじめは「のんびり投稿すればいいかな~。一週間に一度くらいのペースで」とか考えていましたが、もうちょっと早い方がいいと風の噂に聞いて、考え中です。

「自分のペースでやったらいいのよ~」とも思うものの、8割書き上がっていることもあり、可能な限り読んでくださるかたのご意見も反映させたい……。

ので、ご意見ご指摘をお待ちしております。

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