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メリオン城の悪魔  作者: 西条さき
旅路
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葛藤

 馬車の中でも師匠がザンダに飲ませた眠り薬はよく効いていた。車輪がもたらす激しい縦揺れをものともせず眠り続けている。


「ダリウス。気づいているか。」


 突然、闇の中から師匠が尋ねた。


 心当たりがないので、ダリウスは正直に何のことだかわからないと答えた。


「ザンダはカラスに目をつけられている。」


「え?確かですか。」


 ダリウスは突然の情報に当惑した。


 カラスというのは宮廷政治の世界を暗躍する殺し屋たちの総称だ。ダリウスの目にはザンダは(まつりごと)の闇の世界とは無関係な暮らしを送っているように思える。そんな娘がカラスに縁があることなどありえるだろうか。


 ダリウスの心のうちを読んだかのように師匠が言った。


「ザンダは特別な筋持ちだ。カラスが自分たちの仲間にいれようと動き始めた。」


「特別って。まさかー」


 ルクシタニアには二つの種類の人間がいる。筋持ちと筋なしだ。


 森羅万象のエネルギーを感じ取って自分の体の中に取り込める人間が筋持ち。そうでない「普通」の人間が筋なしだ。


 ザンダは前者。ダリウスや師匠みたいのは後者だ。


 筋持ちであることは人灯術を習得する大前提だ。


 筋持ちが自然界の見えない力を取り込んで再び外界に放出する能力を神気(かむき)と呼んでいる。細かいことは置いて、とにかく、灯しびとたちはその神気でトーチに光を灯す。


 だが師匠が「特別な」筋持ちと言うとき、それはその者の持つ神気が異常に強いことを意味していた。強すぎる神気は人灯術に向かない。かわってそれに並々ならぬ関心を抱くのがカラスたちなのだった。


「どこでそんなことを嗅ぎつけたんですかね。」


 師匠が嘆息した。


「おそらくヘラルメにいる時から目をつけられてれていたんだろう。奴らはヘラルメにひそんで、それとおぼしき生徒を拉致する機会をねらっている。」


「カラスは人を殺すことだけが仕事だと思っていました。」

と、ダリウスは正直な感想を述べた。


「いや。カラスのなかには、自分たちの役に立ちそうな人材を拉致する特別な任務を追っている奴らがいる。ザンダをつけねらうのはそいつらだろう。」


「カラスは今、どこに。」


「わからない。だが、ロプサの街で気配を感じた。この分だとわたしたちの馬車を追って来るだろう。」


「逃げ切れるいいけれどー」

と、ダリウスは心底からそう思って言う。師匠が笑った。


「無理だろう。カラスは一旦、目をつけたら捕獲するまで追跡をやめない。」


「じゃ、ザンダを預かっている限り、おれたちはカラスの相手をしなきゃいけないということですか。」


 ダリウスは目の前で眠るザンダを見やる。ザンダを師匠は窓の外の暗闇を見遣って嘆息した。


「そういうことだ。」


 面倒なことだ、と師匠は呟いた。


 くねる道を通るのか、馬車が横に揺れだす。二人して、ザンダの体が、馬車の揺れで席から落ちそうになるのを、代わる代わる手で押さえて防いだ。


 ダリウスには、師匠の思考がどこに向かっているか、わかる。ダリウスはそれをあえて口にのぼらせた。


「確かにこのまま、ザンダを城まで連れて行けば、城が危ないー」


 城というのは、文字通り、城だ。ドラグル山塊のどまん中にある師匠の住まいだ。


「危ないと決まったわけじゃない。ただ、わたしたちの作業場で面倒なことを起こされるのはごめんだ。」


と、師匠はダリウスの言葉を修正した。


 ダリウスたちの仕事は、その性質上、人目を忍ぶ。作業場のある城が、ほとんど人の立ち入らない山の中にあるのもそのせいだ。


 カラスがくれば、仕事のことを嗅ぎ回られる可能性がある。ダリウスたちの顔も広く割れる。ダリウスの師匠が恐れているのはそれだった。


「奴らに渡すんですか。ザンダを。」


 ダリウスはあえて問う。師匠がどんな答えを返してくるか、知りたかった。

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