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メリオン城の悪魔  作者: 西条さき
来訪者
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救出

決行の日の夜。ダリウスは師匠とともにデルミ島の北西に位置するメタ岬にいた。


 人家のない、吹き曝しの原野を潮風が渡る。天は暗く、海と陸の区別もつかないほど闇がすっぽりあたりを覆っていた。


 師匠はこの夜のために灯しびとを一人雇っていた。


 何しろ、ルクシタニアを覆う「雲のふた」は夜も降りたままだ。光源を確保しなければ、真っ暗で作業などできたものではない。


 岬の先端に立つ城砦はルクシタニア統一以前のいわゆる百年戦争時代の名残で、監視塔もパラペットも朽ち果てている。


 今となっては、利用価値があるのは城砦の地上階の東の一部分、つまり土牢がある場所だけだ。


 灯しびとが照らす光のもとに、剥き出しの岩の低い天井と壁を、五つの岩の柱が支えるホールのような空間が浮かび上がった。


 海に面した側にはアーチ型にくりぬかれたガラスのない窓が四つ並んでいた。


 窓を吹き抜ける海風は北方からの冬の空気を含んで寒い。

 

 床には十の丸い石蓋が並んでいる。これらが悪名たかい、メタ岬の土牢である。


 無人なのは、地中深くまで掘られた穴から囚人が逃げることがありえないからだった。


 ダリウスの目は、指定された十番目の石蓋に当てられていた。

 

「おれが確かめてきます。」

と、彼は言って、目的の土牢へ歩いていった。


 石蓋の鎖を外し、蓋を開ける。灯しびとに、


「中を照らしてくれ。」

と頼んだ。


 片膝をついて穴のなかを覗き込むと、深い円筒形の穴のそこに黒くうずくまる者がある。


「おい!」


 ダリウスは人影目がけて声をかけた。動きはなかった。


「ザンダ!ザンダ・モラン!」


 法廷で初めて知った名を呼んでみる。するとトーチから迸る光の輪の中で、憔悴しきった亡霊のような顔が浮かび上がった。


「ずいぶんと深そうだな。」

 師匠がいつのまにかダリウスの背後に立っている。穴のなかを覗き込んだ。


「それにしてもひどい、腐臭だ。」


 そう言いながら、師匠が外套(ケープ)を脱いだ。自分が穴に入るつもりらしかった。


「おれが行きます。」

と、ダリウスは言った。この役は譲るまい。ダリウスとて、ザンダを救出するのに一役買いたい。


 おれが助け出す。


 師匠がびっくりした顔でダリウスを見る。


「いやに積極的だな。匂いが君の新調したての一張羅につくぞ。」

と、言った。


「師匠だって一張羅じゃないですか。」


「わたしはいいんだよ、服はいくらでもある。」


「とにかく、おれが行きます。」


 ダリウスは師匠から太縄をひったくると、一端を柱にくくりつける。もう一方を自分の腰に巻きつけると、師匠の返事も待たず、穴のなかに降りていった。


 吐瀉物と汚物が混ざった鼻がもげるような腐臭だった。だが、ダリウスには匂いなど気にならなかった。


 ダリウスはザンダだけを見ていた。

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