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本条家当主継承戦  作者: 京町ミヤ
第四章 音城学院
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第九十八話 ざまぁないですね

 夜の校舎内に響き渡るギターの音色。青年が弦を弾くと、それに共鳴するかのように爆発が巻き起こる。


 同僚が作り出した、もう一つの音城学院。そこには予め、ありとあらゆる場所に罠を張り巡らせていた。


 コードネーム『メロディ』。爆弾に魔力で記した音符記号を貼り付けた罠は、『メロディ』がその音を響かせた際に発動する特殊なものだった。


 一音響き、爆発。

 また一音響き、爆発。それの繰り返し。


 闇雲に音を奏でているわけではなく、『メロディ』の視線の先には常に『アーチ・ロット』がいた。


 『アーチ・ロット』を追いかけるように爆発が轟き、時には行動を先読みして弦を弾く。しかし今のところ、『アーチ・ロット』に傷一つ負わせる事すら叶わなかった。


 『メロディ』が一旦手を止めて舌打ちをすると、『アーチ・ロット』も動きを止める。ひらひらと袖を揺らしながら、疲労なんて感じていないかのように笑みを張りつけた。


「その音耳障りですねぇ。近所迷惑ですよ、下手くそ」


「そりゃあアンタの耳がイカれてんすよ。俺、下手くそとは無縁の人生なんすよね」


 とはいいつつ、敵に攻撃が当たらなくては意味がない。


 ――――しかしそれは、敵を仕留めるのが目的であればの話だ。


 『メロディ』がしている事は、言ってしまえばただの時間稼ぎ。『アーチ・ロット』という格上の敵を相手取っているので、警戒こそ怠らないが。


 現在、『メロディ』の上司にあたる『ナージ』が、発動している結界の解除を行っているはずだ。少なくとも十分間、『アーチ・ロット』を引き付けておく必要がある。


 そのために用意されたのが、もう一つの音城学院――――異界だった。


「『パロディ』、あと何分」


「だいたいあと五分」


 『メロディ』の同僚の一人、『パロディ』。『パロディ』が得意としている魔法術。それは、然るべき機関から使用を禁じられたものだった。


 本来、使用すれば厳しく咎められるし、最悪、魔力そのものを体内から抜かれる場合もあるらしいが、バレなければ問題ない、と本人は笑っていた。


 『メロディ』は正直、「俺はこうはならんとこ」と思ったものだ。とはいえ、『メロディ』達は裏の世界の掃除屋として働く者。必要とあらば、禁術の一つや二つ犯さなくてはいけない時もあるのだろうが。


 『パロディ』が魔法術を発動させている間、『アーチ・ロット』は『ナージ』や一華のもとへ向かう事は出来ない。だが、問題があった。


「もう半分くらいいけそうと思ったんだけど……ちょっと……いや、かなり気持ち悪くなってきた……」


 『パロディ』は、そもそもの魔力保有量が少ないのだ。十分間もたせる気概でいても、実際はその半分をいくかいかないか、のところで魔力切れを起こしてしまう。


 『メロディ』は恐れていた事態がここできたか、と頭を抱えた。『アーチ・ロット』もこちらの出方を伺っているのか、何かを仕掛けてくる様子はない。


 この際、自分達の上司を信じるしかない。『パロディ』の魔力から推測するに、もってあと二分前後。以降彼女は魔力切れで起き上がれなくなるだろう。


 術が解除されれば、ここと同じ場所へ出てしまうらしいので、まずは『アーチ・ロット』を図書室から遠ざけることが先決だ。


 即座に決断を下して、傍らでサポートに回っていた『キャンディ』に指示を出す。


「『キャンディ』、爆発の援護」


「あいよ。でも、外から聞こえないとはいえ、校舎そのものを破壊するのはオススメしないんだぜぇ」


 そう苦言を呈しつつも、『キャンディ』は飴玉くらいの大きさの爆弾を両手にスタンバイしている。


 『メロディ』だって、そんな事は百も承知だ。すでに言い訳が通じないレベルで図書室内を荒らしているが、建物を崩すとなれば自分達にも危害が及ぶ。


 何より、『アーチ・ロット』も不審に思うはずだ。仮にもここは学校で、本条家当主を守るため、を理由に動くにしても、かなり慎重に行動しなければならない。


 『メロディ』の扱う爆弾は、綿密に準備して仕掛けた地雷に近い。常に敵の動向に気を配る必要があるし、仕掛けた爆弾を発動させるには『メロディ』自身が特定の楽器の音を鳴らさなければならない、というデメリットもある。


 それに反して、『キャンディ』の扱う爆弾は強い衝撃さえ与えれば勝手に爆発する仕組みだ。『メロディ』のものよりも単純だし、『アーチ・ロット』目掛けて投げつければいい話。


 『メロディ』は『アーチ・ロット』の逃げ場をなくす事に専念して、あとは『キャンディ』に任せよう、と弦を弾いた。


 予め仕掛けておいた爆弾が、『メロディ』が奏でた音と共鳴するかのように爆発する。『アーチ・ロット』が軽やかに身を捻って回避したところを、今度は『キャンディ』が狙い打つ。


「そらよっと!」


 『キャンディ』が投げつけたのは、飴玉のようなサイズの爆弾。『アーチ・ロット』目掛けてまっすぐ投げられ、彼の足元に着弾する。


 瞬間、『メロディ』達の方まで熱風と黒煙を巻き上げながら、爆発した。


 何が「校舎そのものを破壊するのはオススメしないんだぜぇ」だ。誰よりも一番破壊しているではないか。


「……人の事言えねぇな、お前も」


 『パロディ』が、呆れたように呟いた。けれども『キャンディ』は聞こえないふりをして、爆発により穴のあいた校舎の壁を指さし叫ぶ。


「作戦成功! 行くよ『メロディ』!」


「はいはい」


 『パロディ』の魔法術も、あと一分程度で解けてしまうだろう。それまでに外に追いやれたので、『メロディ』達は時間稼ぎに貢献した事になる。


 が、『アーチ・ロット』は『メロディ』達――――否、『ナージ』等幹部クラスですら手こずっている凄腕だ。


 強力な爆発を間近で受けていたとはいえ、『アーチ・ロット』ならば対策を抗じていたかもしれない。そんな一抹の不安を抱きながら校舎の外に出る。


 ぱらぱら、と校舎の破片が落ちてくるので、即座にその場から距離をとる。


 そして、グラウンドに『アーチ・ロット』は立っていた。服がところどころ焼け焦げていたが、血は一滴も流れていないし、表情も余裕綽々といったふうだった。


「さっきから爆発爆発爆発……仮にも当主様が通う学校でしょうに。あれ、取り返しつくんですかぁ?」


「大丈夫大丈夫。問題ナッシング」


 煽るように首を傾げた『アーチ・ロット』に対して、『キャンディ』はぐっ、と親指を立ててグッドサインを送る。


 即座に、『メロディ』は隣に立ち並ぶ『キャンディ』に言ってやった。


「それ死語なんだってさ」


「マ?」


 眼鏡の向こうで、『キャンディ』が目を見開いて驚きをあらわにする。


 けれどもそれも、『アーチ・ロット』が思い出したかのように声を発するまでのことだった。


「あぁ、思い出しました。君達、『霞』の中ではあまり有名ではない構成員ですが……『3D』じゃありませんか。知っていますよ」


 ――――『3D』。

 

 絶対音感の持ち主で、計画を立てる事、計画(・・)通り(・・)()任務(・・)()遂行(・・)する(・・)()を得意とする、チームのリーダー的存在の『メロディ』。


 普段から飴を舐めており、飴玉の形を模した強力な爆発物の扱いを得意としている『キャンディ』。


 変装術を得意としている傍ら、魔法術士の界隈では禁忌とされている創世魔法術を短時間ながら扱える『パロディ』の三人の事を指してそう呼ばれているのだが、あまりにも安直すぎて仲間内ではちょっとしたネタにもなっている。


 『3D』は『霞』の所属だが、ただの構成員であり、幹部ほど警戒される存在でもない。そんな彼等を、『アーチ・ロット』は知っていた。


 『ナージ』はともかく、自分達の事は知らないだろうとたかを括っていた『メロディ』は、動揺を隠すように口の端を持ち上げる。


「天下の逃亡者に言われるとは光栄なこったな。俺等、別に強いってワケじゃないし、認知されているとは思わなかったわ」


「同業者の情報は知っていて損はしませんからね」


 そんな当たり前の事もこなせていないんですか、と嘲るように述べる『アーチ・ロット』だが、その表情には先程のような余裕は見受けられなかった。


 それまでと変わらず口角を持ち上げてはいるが、彼の目は何かを考え込むかのように真剣で。


 やがて、『アーチ・ロット』はふむ、と納得がいったかのように目を閉じた。


「成程……時間稼ぎであるなら、付き合うつもりはありません」


 自身がいる場所が、まったくの別世界である事に気が付いたらしい。


 『アーチ・ロット』はくるりと『メロディ』達から背を向けて、一目散に走り出した。


「うぉっ!? 流石天下の逃亡者! 早い!」


「言ってる場合か!」


 『キャンディ』にツッコミを入れてから、『メロディ』はその背を追いかける。


 魔法術が解けるまで、残り数十秒を切っていた。




※※※※




 一華が校舎内に侵入して、一時間が経とうとしていた。


 泉は正門前に立ち、一華が帰ってくるのを待っている。中で何が起こっているかは想像もつかないが、自分は言われた通りに、行き帰りの護衛を務めるだけだ。


 とはいえ、流石に退屈だな、と思い始めた頃。人の気配を感じて、泉は気を引き締めた。


 日付も変わり、学校付近を通る人はいない。それなのに、その人は確実にこちらに向かってきていた。


 足音が近付いてくる。その音に耳を傾けながら、泉は視線を動かした。


 やがて、街灯の明かりでその姿があらわとなった。


 白銀の髪に黄色の瞳をした男性。

 その姿を、泉はよく知っている。一条家当主────白羽と亜閖の父である、一条早道だ。


「泉君、久し振りじゃないか。元気にしていたか?」


「えぇ、それなりに。どうかなされたのですか?」


「一華お嬢様がいると聞いてな。今、白羽は妻と出張に出ているから、護衛として俺が呼ばれていたんだ。連絡は来ていなかったか?」


「いえ。そのような連絡は、誰からも来ていませんが」


 泉が淡々とした調子で答えると、早道は「おかしいな……」と首を傾げた。


「不手際でもあったのだろうか。まぁ、そういう事だ。お嬢様の護衛は俺に任せて、泉君は帰っても大丈夫だぞ」


「……左様ですか。では、そのように」


 本来、護衛の役割を担っているのは一条家だ。戦闘能力の高さも、泉より早道の方が上だし、一華の護衛としては彼の方が相応しいだろう。




 ――――だがそれは、本当に早道が一華の護衛を目的としているのならば、の話だ。


 泉は懐から銃を取り出し、勢いよく振り返って早道に銃口を向ける。


 真夜中で人気がないとはいえ、近くには住宅が立ち並んでいる。出来る事ならば、こちらも穏便に物事を済ませたかったが、そうはいかなかったようだ。


 早道も、こちらに銃口を向けていた。

 お互いに牽制し合うかのように、銃を構えたまま沈黙が流れる。


 やがて、早道が困ったように笑った。


「酷いじゃないか。俺の事が信用出来ないのか?」


「ちっとも。貴方は今も昔も変わらず父さんの手駒……また(・・)、当主様を手にかけるつもりだったのでしょう」


「何だ、知っていたのか。だが、俺は間違った事はしていない。あの方は、本条家当主に相応しくなかった。そうだろう?」


「いいえ、どのような主であっても従い、道を違えてしまった時は正しい道へ戻す。貴方達の行動は全て、自分の思い通りにならないから、って苛立っているだけじゃないですか。それは忠義とは言わない」


 いつでも撃つ準備は出来ている。そう警告するかのように、泉は引き金に指をかけた。


「自分の行いを恥じてください。白羽君と亜閖ちゃんが可哀想です」


 早道個人は泉の父、蝶花の操り人形同然だが、父親としては別らしい。彼の子ども達の名前を出せば動揺するか、と思っての挑発だったが、早道は酷く落ち着いた様子で言った。


「その謀反を企てている首謀者の息子だろうに。それは自分が可哀想と思っているという事か?」


「そうですね。私も市子も可哀想です。だから私は、父さんには従わない。私が従うのは、本条家当主……一華様です」


「現実から目を背けるな。お嬢様は零様の娘君だが、表の世界の人間の血が混じっているじゃないか。やはり、本条家当主には相応しくない」


「頭が痛くなりますね。結局、貴方も父と同類だ」


「それは違うな。だって俺個人は本条家当主に忠誠を誓った身。だから、建前だけでも綾谷数予の護衛を務めていただろう」


「薄汚ぇ忠誠ですね」


「そういう君も、不満は抱いていただろうに。三代にわたって秘書をしてきた君なら分かるだろう。表の世界の人間と勝手に結婚した零様も。表の世界の人間でありながら本条家当主という尊き座に就いた綾谷数予も。そんな二人から生まれた一華お嬢様も。皆、裏の世界の秩序を乱していく。そんなものは、王ではないだろう」


 ────王、とは何だろうか。


 泉は薄く目を見開いた。一瞬の、泉の反応を好機と捉えたらしい。早道は畳みかけるかのように続けた。


「なぁ、君なら分かるだろう? 本当に、一華お嬢様が当主に相応しいと思うのか?」


「…………」


「君も、嫌な思いをしてきたんじゃないか? 代理の仕事も疲れただろう。この状況を、心のどこかではおかしいと思っているのではないか?」


「いえ、まったく」


 即座に、否定した。

 たしかに、何度も「何故零様は表の世界の人間と結婚したのだろうか」「何故数予様はあの男と再婚したのだろうか」と考えた事はある。特に再婚の件に関しては、跡取りとなる子どもが複数いれば、継承戦が行われるのは必至だった。それは数予も理解していたはずなのに。


 それに、数予は銀治を愛して(・・・)いなかった(・・・・・)

 零を亡くして傷心していたとはいえ、そこにつけ込まれるほど弱い心の持ち主ではない。


 多方面から反発が起こっていた事も、当然知っていた。傍にいる機会が多かった泉だって、何度も反対の言葉を口にしていた。


 それでも、数予は言い切ったのだ。


 「それが、一華のため。そして、裏の世界のためよ」と。


 最初、理解が及ばなかった。けれども、今となっては、数予の考えていた事が分かる気がする。


 ────ここで変えなくては。零が……否、それよりも前。


 零の母、本条(ほんじょう)百枝(ももえ)の時代からの悲願を叶えるためには、零が巻き起こした混乱に乗じるしかないのだ。


 こんなところで、泉も立ち止まっているわけにはいかない。何としても一華を守り、次の世代へ繋いでいく。


 本条家当主が進む道に立ちはだかる邪魔者は、排除しなくては。たとえそれが、自身の親や世話になった人だとしても。


 泉は一度息を吐き出してから、早道に語りかける。


「……数予様も、一華様も、必死だった。零様がお亡くなりになられてから、従家の者達からの当たりが一層強くなった。数予様は当主として、屋敷の長として、そして母としての役目をこなせるように強いられていました」


 本当ならば、そこまでの重荷を背負わされる事はなかったのに。その言葉を飲み込んで、泉は続ける。


「一華様は、数予様に代わり、仕事を積極的に引き受けて下さいました。そして当主になってからは、休む暇もなく奔走しておられる」


 泉も、一華と同じ歳の頃から、零の秘書として働き始めていた。けれども、高校までは通わせてくれたし、普通の学生として生きていた思い出もたくさんある。


 けれども、一華に学生としての思い出がたくさんある、と言えるのだろうか。


「一華様、修学旅行に行けなかったんですって」


「……それがどうした?」


「体育祭も、文化祭も、参加しておられません」


「……何が言いたい?」


「……何も感じないんですね」


 訴えるだけ無駄かもしれない。現に、早道は何も感じていないのだから。


 それはきっと、蝶花や、香月も。一華の事を、本条家当主としてふさわしくない、と思っている者達もそうなのだろう。


 結局、自分の事しか考えていない。

 ただでさえ、凄まじいプレッシャーがついてくる家のもとに生まれたのに。自分の責務のために、人生で一度きりの時間を捨てようとしている。


 「学校を辞めませんか」と提案した泉だが、一華の心情は察しているつもりだ。


 泉だって、一華に学校を辞めてほしいとは思わない。学生らしく、そして子どもらしく、過ごせる時間を設けてやりたい。それが泉の本音だった。


 だからこそ、それを邪魔する父や、一華の事を理解しようともしない早道の事が腹立たしくて仕方がない。


「自分の人生を……本来なら、学生として過ごしていた日々をなかった事にして、あの方は立っているのですよ」


「俺の知った事ではないな。どうでもいい」


「……そうですか」


 本当に、子を持つ者の言葉なのだろうか。この男は、もう手遅れなんだ、と泉は察した。


 引き金から指を外して、銃を下ろす。

 早道は銃を下ろさない。引き金にも指をかけたままだ。


 一方的に銃口を向けられたまま、泉は口を開く。


「父さんは、よく数予様と一華様の事を嗤っていました。“厚かましい女共だ”と。何でこんなのが父親なんだろうか、と、私は自分の生まれを呪いました。たとえ裏の世界にとって相応しくなかろうと、両親から愛情を注がれて育った一華様が羨ましくもあった」


 零の事も、数予の事も、一華の事も。傍で見てきた泉からすれば、正しい血筋が何なのか。ふさわしい王とはどんな人の事を指すのか、分からなかった。


 後ろ指をさされても、誰かの幸せを願い、役目を果たそうと必死になる彼女達を、どうして見下す事が出来る?


 泉は一華の事が羨ましくもあるが、それ以上に彼女自身が積み重ねてきた努力を知っている。一人の人間として、尊敬に値する少女だ。


 それを理解しようともしない彼等に、もうどんな言葉を投げかけても意味をなさないだろう。ならば、一華の障壁となる彼等を排除するしかない。


 泉はもう一度決意を固めて、言い放つ。


「一華様が生まれてすぐ、抱っこさせてもらった事があります。どうです、こんな名誉な事、貴方達にはさせてもらえなかったでしょう」


 その言葉に、早道の眉がぴくりと動いた。早道が泉の反応を逃さなかったように、泉も早道のちょっとした反応を見逃さない。


 今度は泉が、畳みかけるように口にした。


「そもそも、最初から信用されていないんですよ、貴方達。零様の時代……どころか、百枝様の時代から。貴方達が崇拝する本条家当主に、見放されているんですよ」


 泉は知っていた。

 父等はこぞって「当主様の子を抱く事は許されない」と口にしていたが、それは不敬に当たるからなどではない。


 単に、当主側から拒否されていただけだった。可愛い我が子を、信頼のおけない者に抱かせたくなかっただけなのだ。それを知った時、泉は大声で笑ってしまいそうだった。


 現に、泉は笑っていた。口角が上がってしまう。おかしくて、肩が揺れてしまう。


 口元を手で覆い隠して、戸惑う早道を見上げた。


「あぁ、お可哀想に。本当に可哀想だ。あははははっ、ざまぁないですね!」


 瞬間、耳を劈くような発砲音が轟いた。


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