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本条家当主継承戦  作者: 京町ミヤ
第一章 新たな当主
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第二十一話 お前に頼みがある

《本条家屋敷・五輝の部屋》


 本条家の屋敷。五輝の部屋は一言で言えば散らかっていた。

 まるでひと昔前の小説家のように机に向かい、紙に何かを記しては丸めて捨てたり、付箋を貼って積み上げたりしている。


 紙の下敷きになっていた黒い四角い機械に繋がれているイヤホンを順番に二つずつ聞いていく。機械は計九個。その内電源を付けているのは五個。

 これは盗聴器だ。自分以外の兄妹の端末にこっそりと入れた盗聴アプリ。そしてホテル本条の支配人に頼んで五大権が集まる会議室に取り付けた物。


 常に稼働しているのは一華と七緒。八緒もそうなのだが、現在は七緒と共にいるので一つで問題ない。そして三央もしばらく屋敷を抜けるので確認を急ぐ。二宮は医療機器と車以外の機械の扱いが下手なのでバレる心配はない。九実は録音データを取っておいて夜中に早送りにして耳にする。


 屋敷の間にいる場合は機械の電源を切って、魔法術による盗聴に切り替える。屋敷内であれば消費するエネルギー量も少ないし、その方が効率的だと判断したからだ。


 五輝は天才と謳われてきた。何よりも、自身の技量の使い方が上手いと自負している。現に五輝は群を抜いた集中力で、八ヶ所での会話を聞き分けている。


 現在優先して聞かなければいけないのは七緒の端末だ。現在彼等は五大権との交渉の最中で、結果次第では新たな策を考えなければならない。だがその心配は無駄だったらしく、五輝は息をついた。


(七緒と八緒の方はしばらく泳がせておいてもいい……何かあれば支配人の女が連絡してくる。三十日夜九時には三央と八緒が庭で殺り合う。それまでに他の奴等を抑え込む必要があるな)


 被害は最小限に留めたい。それも来たる時の為に。


(いや、二宮はまだ動かないか。留めておくのは七緒……戦いが始まれば白羽が来る。兄妹を死なせない為に動いてくれるのは助かるからこっちは無視。六月を後で呼ぶか……)


 人並外れた超スピードの思考は止まる事を知らなかった。数時間の間、神経を尖らせて分かった事は『全て想定通りに事が運んでいる』だった。五輝は機械の全てを録音モードに切り替えて、イヤホンを外した。


「はぁ……片付けねぇとな」


 企みが漏洩してもいい事はない。付箋の付けた紙の束を纏めて、六月から貰った札で封じる。これで五輝以外が目を通す事は叶わない。丸めて捨て置いていた紙も、一旦広げてシュレダーにかける。ごみに出す時も札を付ける事を忘れない。片付けを済ませた頃、襖がノックされ六月が顔を覗かせた。


「五輝、ご飯だよー」


「昼飯?」


「違う! 晩ご飯!」


 そんなに時間が経っていたのか、と思いながら踵を返そうとした六月を呼び止める。


「おい、話がある」


「何、進展あったの?」


「あぁ。三十日の夜九時、三央と八緒が動く」


 五輝の言葉に六月はハッとして襖を閉めた。他の者達に聞かれないようにという対策だろう。六月だけに聞こえるように、五輝はそっと囁いた。


「お前に頼みたい事がある──」




※※※※




 《墓地周辺》


 九月二十九日。

 一華は白羽と共に夜の住宅街を歩いていた。数メートル置きに設置されている街灯だけが二人の歩く道を照らしている。そんな彼女の手元には一振りの刀が握られていた。これから戦いに行くから……ではない。あくまで護身用だ。


 そもそも何故こんな夜更けに出歩いているのか。それはある人物から呼び出しが掛ったからである。


 本日昼頃、白羽の自宅に手紙が届いたのだ。宛先は一華。つまり、一華の居場所を知っている誰か、になるのだが、それは一華達にとって都合が悪い。


 五大権の誰かであるならば、直接呼び出す筈だ。それが以前一華達を襲った者達なのか、はたまた他の兄妹なのか、手紙だけでは皆目見当もつかなかった。


 ならば危険を承知で呼び出しに応じるしかない。


 場所は先日二宮と四音が対決した墓地。開けた場所で退路も確保しやすい。それが仕組まれたものかどうかは定かではないが、白羽曰く下調べは済んでいるそうなので心配はしていない。

 目的地に到着する少し前で、白羽はその場に立ち止まった。


「僕は別の道から目的地へ向かうね。僕の事がバレてるとはいえ、一緒に行くよりかはマシでしょう」


「分かった。頼んだぞ」


「はい」


 しっかりと頷くと、次の瞬間には白羽の姿は消え去っていた。それに動じる事なく、一華は歩みを進めた。

 墓地の奥には山の入り口がある。そこは少し開けている立ち入り禁止区域だ。二宮と四音もここで闘ったのだから、その分の余裕はある。加えて、結界さえ張れば人に見られる心配もない。


「…………」


 一歩、足を踏み入れると、それまで目視出来なかった姿が露わになった。金色の髪に青いメッシュ。耳にはたくさんのピアスがつけられている少年。

 黒い生地に白い文字で『米派』と書かれた、少々センスを疑いたくなるTシャツにジャージのズボン。青いカーディガンを羽織っているその人物は、ゆっくりと口を開いた。


「よぉ、久し振りだな、一華」


「そうだな。呼び出したのは君か、五輝君」


「あぁ。白羽とかいう奴は一緒じゃねぇのか?」


「何故白羽さんを知っているんだ?」


「途中まで一緒に来てたよな?」


「さては五輝君、私に盗聴器でも仕掛けたな?」


「七緒と八緒には、開幕宣言の後会ったか?」


「ところで要件は何だ?」


 互いの質問には一切答えず、一華と五輝は互いに質問を投げ掛ける。だが一華の質問を最後に、二人は押し黙ってしまった。そして……


「「いや質問に答えろよ!!」」


 二人してキレてしまった。


「何な訳!? 俺が質問してんだから答えてくんない!? 質問に質問を重ねるなこの脳筋ゴリラ!!」


「突然怪しげな手紙を出してきた君には言われたくない!! しかもTシャツダッサいな!? それよりも私の質問に答えてくれないか!?」


「ダサくて悪かったな俺の手作りだよ!!」


「Tシャツの方じゃない! そっちはどうでもいい!!」


「はぁ!? テメェ俺を侮辱すんのは構わねぇが米だけは馬鹿にすんなよ!!」


「大事な主食様を馬鹿にする筈がないだろう君は馬鹿か!?」


「少なくともお前よりかは賢いわ!!」


「ぐっ、否定出来ない!!」


 そんな不毛な言い争いの末、一華と五輝は落ち着きを取り戻したのかピタリと動きを止めた。


「アホらしいな」


「そうだな」


「私から順番に答えよう。だが白羽さんの件については黙秘する。七緒君と八緒ちゃんには会っていないよ」


「白羽については隠す事はない。そこにいるなら出てきて欲しい。お前にも話があるからな」


 一華は答えない。判断は白羽に任せているからだ。

 しばらくしてから、木の影から白羽は姿を現した。五輝の前では嘘を付いても意味がないという事は彼も承知しているらしい。


「各条家については俺個人として調べた事がある。だから特別ルールの起用についても把握しているが……八緒以外にはこの事は言っていない」


「何故だ」


「反乱分子の国主に悟られない為にだ。俺達含め、おそらくだが関係者全員の居場所や情報が洩れている。今俺が知っている事は親父と手を組んでいた組織(・・)と目的くらいだ。情けない事にな」


 そこまで知っていて情けない事はないと思うが、という言葉を飲み込んで一華は一人納得していた。


 五輝が出したという手紙には『今日夜十二時に墓地で待つ。出る前には必ず携帯の電源を切るように』と書かれていたのだ。連絡が取れなくなるのは不便だが、白羽がついて来るという事だったので切っていた。勿論白羽も同様にだ。


「組織って何かな? 国主ではないの?」


「仮にも一国の代表が直接手を貸す訳がないだろ。……『(かすみ)』という組織名に聞き覚えはあるか?」


 白羽の問いに、五輝はそう言い放った。


 『霞』。名も無い、性別も無い、戸籍も無い者達の集まり。金さえ積めばどんな依頼でも受ける、絶対中立を掲げる組織。裏の世界の知識がある者なら嫌でも知っているだろう。


「『霞』か。ありえなくはないが、中立を掲げる彼等が何故……」


「金を積まれたからに決まってんだろ。仮にも親父は瀬波家の人間だったし、裏の世界にも干渉出来た筈だ。これは確かめる術がねぇから憶測だが……親父は『霞』に依頼していたんだろう。資金援助の為に、反感を持つ国主を味方につけてな」


「成程な。だがその話を今してどうする。非公式組織である『霞』が咎められずに活動しているのは、裏の世界の住人がその存在を認めているからだ」


「継承戦という伝統を邪魔していたとしても、彼等はあくまで絶対中立。本当に『霞』が関わっているとして、僕達にはどうする事も出来ないでしょう」


 実際のところ、一華の父・零も『霞』の手を借りていた事があったと聞く。国主達自ら行動しては不都合な事が多いからだ。法律という縛りがない裏の世界には欠かせない存在、それが『霞』だ。

 こうして現在は一華達の敵となっていたとしても、将来的には『霞』の手を借りる事になるかもしれない。


 ──しかしそんな事は五輝も理解している。その上で、彼は一華との交渉を求めているのだ。


「ハッキリ言って、継承戦なんてしている場合じゃないんだ。そこでお前に頼みがある」


「……なんだ」




「継承戦で負けてくれ、一華」



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