第8話
うぐ、転生者疑惑の話は気になるけど、ひとまず侍女と皇太子の安全を確保しなければ!
「まずお兄様、殺すのはおやめになって下さい。ところで侍女たちは一体何の話をされていたの?」
「え?」
「実はわたくし、話の内容を覚えていないのです」
「…」
「お兄様?」
急に黙りこくったジオルドはどうやら話したくない様子だけど、そうやって溜められたりすると何がなんでも理由を知りたくなるのが人間よね!
「お兄様が教えてくれないから侍女に聞きに行きますからね!」
「いないよ」
「え?」
「もうその侍女たちはこの屋敷に居ない」
「どういう、」
「いないんだ!」
「なぜですか!!」
どうしてその侍女たちが屋敷に居ないのよ!
明らかにジオルドの目が泳いでる…って、ゲームでは常に冷静沈着で絶対に一度もそんな顔をしてなかったから見るのおもしろ、っていやいやそんな事よりも早く話を聞かせ───
「いい加減にしなさい」
「い゛っっっ」
「侍女はちゃんといるでしょう?」
救いの声が聞こえ、再び鈍い音が響いてジオルドが蹲る。
どうやら先程まで静観していたお母様がジオルドに鉄槌を下した模様。
も、もっと早く来てくれてもよかったのに………とかは言わないよ?? まあまあまあ助けてもらった上に口答えして鉄槌の火の粉を被りたくないとかそんな打算全くないけどね??
てか侍女いるんかい。
「…さてお兄様、早く教えてくださいませ」
「……その、王家が、エミリーを皇太子の筆頭婚約者候補に、って話を聞いてから───」
「はぁぁぁぁぁあ?!?!?!」
何その話、初耳なんだけど?!
まだルーカス様には会ってないのに、そんな話になってるのおかしくない?!
原作にはなかった流れだよね?!
「そっそれで何で私は倒れたのですか?!」
「…それは、エミリーが殿下のことをお慕いしてるからじゃないか」
「!!!!!」
ピシャーーーーンと私の脳内に雷が走った。
そうだ、あれは一週間前に庭でジオルドと花畑を見ていた時。
私たちがいることに気づいてなかった侍女たちが、"エミリア様は第二皇子のルーカス様の筆頭婚約者候補になるでしょうね"、的なことを話してて!
齢五歳のエミリアは自分が皇太子の婚約者になれることへの感激で気絶した───
って、頭がお花畑すぎるわ。感激で気絶ってどんなよ。
確かにね? ルーカス様がいかに美しいかだなんて侍女たちがよく話してたし、先入観が盛りに盛られていたにしても、それにしてもよ。
今のこの気持ちが呆れなのか何なのか分からないけど、とりあえずエミリアは阿呆。原作のエミリアの幼少期は、傲慢ちきで威張り散らすわがままお嬢様と表記があったけど、感激で気絶するとまでの阿呆とは書かれてなかった。
いやまって。というか、倒れた理由が転生者かもだなんて思ってた自分が一番阿呆らしかったんじゃ…?!
♢
多大なるショックを受けて固まる私を見てお母様がくすくすと笑った。
「どうやら本当に元気になったみたいね」
「元気? まあ、とりあえずは…?」
「あら、それなら───」
「だめ!!!」
「ひぇっ」
急にジオルドが叫び出したせいでまたもやびくってなっちゃった。
すると何やら生暖かい目でジオルドが見てくる。
何度も脅かした本人なのに全く反省の色が見られないし、ここは私からも鉄槌を下すべきかしら?
そんな冷めた目で見ていたらさっと視線を逸らされた…。
「さて、ジオルドは放っておいて。元気になったみたいだし、」
「だ、だm」
「エミリーがすごく楽しみにしていた皇太子様へのご挨拶、明日行きましょうか!」
「え」
「ぁぁぁ…」
……えっ、いやいやいやまってまって、今もしかしてルーカス様と初顔合わせの予定を組まれようとしてる?!
まだ回避策を何も立てられてないのに会うなんて絶対だめだよね?!
なんとかお母様を止めないと…!!