第7話
「ジ・オ・ル・ド?」
「ぐぅっっっ」
お母様からの容赦ない鉄槌を頭にもらい、情けない声を出して膝から崩れ落ちたのは、やっぱりエミリアの兄の『ジオルド・メーガン・ヴェルツナー』みたいだ。
公爵家の子息としてよろしくない入室の仕方だったとはいえ、お母様は一切の容赦がない。
あれめっちゃ痛いよね…。かつて鉄槌を下された自分の頭をそっと撫でた。
そんな彼を哀れんでいる私だけど、将来ジオルドは私を破滅に導く悪徳非道な攻略対象になるはず。
エミリアのした行動は許されたものじゃないけど、色々と非道すぎるよなぁ…。
エミリアと同じ緋色の瞳と髪をした彼は麗しの王子様系の美形に分類される。
妹のエミリアの将来の姿でお察しの通り、見た目の艶やかさと腰に響くような美しく低いお声で数多の女性を意図無くして堕と…げふんげふん、惑わし…てしまう。これ以外適切な言い方が見つからなかった。
その点はリアムと似たものがあるけど、リアムは魅惑的な美しさの中に常に闇があるから、その点だけ違う。
ある程度の推しフィルター掛かってるかもしれないけど。
そんな感じで冷静に攻略対象のことを思い出していたら、急に立ち上がったジオルドが私を抱きしめてきた。
「ぐぇ、っ」
「あぁ、あぁエミリィエミリィエミリィ!本当に本当に心配したよ!」
おっと、こーれは正しくは抱き"締めて"きているジオルドに窒息死をさせられそうなんだけど?! お母様お父様どこにいるのジオルドが邪魔で助けが求められないんですけど、あっれもしかして既に原作通りにジオルドとは不仲になってるの?!殺される?!
「庭で花を見ていたら急に倒れたから急いで医務室に連れて行ったらすぐに高い熱が出始めて───」
「一週間も眠ってしまっていた、ってことですね…?」
「ああ、そうなんだ。その間僕は気が気じゃなくて、あの場にいた侍女とのうのうと生きている皇太子を殺し出しまおうかと思ったよ」
「なるほど、侍女と皇太子をころ───えっ?」
うんうんと頷いて先を促していたらとんでもない単語が聞こえた。
いやもう話が飛びすぎていて、それこそとてもじゃないけど理解ができない。
思わずかっと見開かれた血走った目でジオルドを激しく二度見してしまう。
「ななな何を───」
「だってね、エミリアは侍女たちの皇太子についての話を聞いてから倒れたんだよ?」
「え」
「殺すしかないでしょ?」
「え」
一体全体どういうこと?
エミリアはなぜ皇太子、つまりは未来の婚約者のルーカスの話を聞いて倒れたの?
───あれ、まってそれって悪役令嬢もののテンプレの思い出しイベントぽくない?!
私がこの体に入る前の人が、実は転生者だったとかじゃないの?!