第4話
自分の名前はなぜだかよく覚えていない。暗闇に落ちたせいかな…?
でも平凡な名前だった気がするのは確か。
黒髪黒目のどこにでもいるような平凡な十六歳の私。
平凡じゃない所を強いて言うならふたつある。
ひとつめは十六歳の割に多少、そう多少背が低い事くらいだった。でも多少背が低くともどうってことない平凡に変わりはないのだ。
『×××ちゃんおはよ〜!』
『ゆいおはよ〜』
私に挨拶しながら背後から覆い被さるように体重をかけてきているのは、入学後初めて出来た友達のゆい。
出席番号が前後で席も前後だったのと、好きな物が同じだったのでとことん話も合って必然的に仲良くなった。
私と彼女の好きな物。それはとある乙女ゲームである。
その乙女ゲームの名前は通称ミスプリ、正式名称は" Miss over Prince "。
これが私の少し平凡じゃないところのもうひとつ。
ミスプリは中世ヨーロッパを舞台とした魔法が飛び交う世界で、特別な力をもつ主人公は"アンノウン王国"という王国の大都市にある魔法学園に通い、非常に端正な顔立ちをした男性たちと親交を深め恋に落ちるというありふれた、しかし一部だけ少々常軌を逸した内容をした乙女ゲームである。
『×××ちゃん聞いてきいて!』
『なになに?』
『今朝電車の中で十連引いたんだけどね、そしたらSSRのるーくんが出たの!やばくない!??』
『えっっっほんと!?!?』
彼女が言ってた"るーくん"とは、ミスプリの登場人物のひとりだ。
神々しさを感じる白髪の金色の瞳をしたるーくんは王家の第三皇子の〖ルーカス・ローレン・フォルト〗という名前の十五歳の男の子、光属性の生まれも見た目も完全に王子様である。
いかにも王道な性格という感じだけど、表面はきらきら王子様だけど実は腹黒。
結衣曰く、ルーカスルートを進めていくと、主人公たった一人にしか向けない蕩けるような甘い笑顔を見せるのが尊死とのこと。
そのスチルを私も見て見たけど、推しじゃなくても尊い‥と拝みたくなる笑顔をしていらっしゃった。
王道萌えだぁ‥と率直に思った。
しかし彼をるーくん呼びするのはソレジャナイ感が半端ない。大抵の人ははルーカス様や愛称でルー様と呼ぶのに、それでもるーくん呼びを貫くゆいは中々に稀な存在だ。
そんなルーカスには幼少期から決められた婚約者がいる。
それが典型的な悪役令嬢である事は転生ものが流行っているこのご時世ではお決まりのこと。
彼女の名前は〖エミリア・メーガン・ヴェルツナー〗十五歳。
緋色の髪と瞳をしたグラマラスなボディの侯爵家の我儘放題な一人娘。
しかしそんな彼女にはゲームの舞台の魔法学園に通ってから妹が出来る。
その妹こそがこのゲームのヒロイン、〖ソフィア〗だ。
ソフィアはエミリアと同じ十五歳だ。
ふんわりとした桃色の髪と薄桃色の小さな唇、そしてつぶらな桃色の瞳は全ての男性を魅了してしまうような容姿だ。
その容姿と持ち前の天真爛漫な性格で端正な顔立ちをした男性を次々と魅了していく。
エミリアの家は彼女を養子として引き取り、エミリアと同じ年に同じく学園に通わせる。
そんなソフィアのせいで婚約者を取られたエミリアはソフィアを虐め抜いて断罪さようならってわけね。
それにしてもここまでとことん桃色尽くしの姿は"小動物系のかよわい女の子"感がすごいのは当たり前だけど実際に目にしたらイタイだろうなぁと思っていた。