最初で最後の仕返し
初めて投稿します。こうした方が良いなどのアドバイスがあれば教えていただけるとうれしいです。
悪口は書かれると傷つきます。
気がつくと電車に揺られていた。外の景色を見ると見たこともない田園風景が広がっていて、自分は寝過ごしてしまったのだろうと焦る。
どうしようと思っていると電車が止まったので車掌さんに聞いてみることにした。
「すいません。どうやら降りる駅を間違えてしまったみたいなんですけど」
車掌さんは運転席の中から返答する。
「いいよ、いいよ。帰りに迎えに来るから、それに乗りな」
「あ、ありがとうございます!」
僕はいい人で良かったと胸をなでおろす。
(電車って迎えに来れたっけ?)
駅に降りて自分が乗っていた電車をあらためて見ると一両編成の結構年季の入った電車だった。どうやら中には自分以外誰も乗っていなかったらしい。
電車の扉が閉まり、走り出そうとして気がつく。中にリュックが乗っていた。見たこともない麻布でできたようなリュックだったがなぜか自分のだとわかる。中身は入っていないようで潰れていた。
電車をとめてもらおうと思ったがすでに走り出しておりさすがに今とめるのは気が引けてしまった。
これからどうしようかとホームに置いてあるベンチへ腰をかける。
どこまでも続いている田園風景を眺めていると視界の端に白いものが映る。そちらを向くと、そこには腰まである黒髪に白いワンピースと麦わら帽子を被った少女が田園を眺めていた。慌てていたせいか先程まで少女の存在に全く気が付かなかった。
「ここに人若い人が来るなんて久しぶりね。大抵の人は先にある街の風景の場所で降りるんだけど」
少女は田園を眺めたままそんなよく分からないことを言う。どんな表情で言っているのかは麦わら帽子に隠れてよくわからない。
「ん〜、よく分からないけど、僕はこの風景好きだよ」
少女は驚いたように振り向いた。振り向いた少女の顔はとても可愛く、絵の中から抜け出してきたのではと思ってしまうほどだった。
「その若さでこの風景が好きだなんて、ジジくさいわね」
少女そう言って少し笑った。笑った顔はさらに可愛かったので思わず言葉がもれてしまった。
「......可愛い」
「!そう、ありがとう」
少女はまた驚いた顔をしたが、頬を少し赤らめて今度はいたずらっ子のような笑顔で笑った。
「でも、僕は降りる駅を間違えちゃったみたいなんだ。寝過ごしちゃったみたいで」
僕がそう自嘲気味に笑うと少女は僕の横へと座る。
「あながち間違いじゃないかもしれないわよ」
「え?それはどういう」
そう聞こうとした時だった僕が来た方向からまた電車が来る。電車が止まると中から兄が降りてきた。
「おい。お前電車の中にリュック忘れてただろ。ちゃんと持ってけよ。ほんとお前は何やってもダメな」
兄は僕の悪口を言いながら電車から降りてきて、僕に麻布のリュックを投げ渡してきた。
「ありがとう」
会って早々悪口を言われイラッとするが、悪いのは確かに僕の方なのでお礼を言う。兄も同じような潰れたリュックを持っていた。
「でも、兄ちゃんが乗ってきた電車と僕が乗ってきた電車は違うはずなんだけどな?でも、確かにこのリュック僕のって感じするし......」
「そんなん知るか、さっさと行くぞ」
兄は僕のそんな疑問も気にせずに行こうとする。なので僕もリュックを背負ってついて行こうとするが、少女が兄の前に立ち塞がる。
「お前、だれ?邪魔なんだけど。俺らはもう行くんだよ。さっさとどけよ」
兄が少女に向かってそんなことを言う。僕は兄が僕以外の人に、しかも初対面の少女にこんな言葉を使うので驚いていた。
こんないたいけな少女にそんなことを言う兄に文句を言ってやろうと兄の前へ回り込もうとしてやめた。兄がとても焦ったような表情をしていたからだ。
「きみ、そのリュックの中身」
「う、うるさい!どけ!ほら、お前もさっさと行くぞ!」
兄はそう言って少女の言葉を遮り横を通ろうとするが少女はまた兄の前へと回り込む。そんなことを繰り返し、一向に前に進まずイライラした兄が少女を掴んでどけようとする。
すると、少女は自分より大きい兄を軽々となげとばした。投げ飛ばされた兄は2〜3mは飛び線路近くへと転がる。
「に、兄ちゃん!大丈夫!?」
「いってー、て、痛くない?」
さすがに心配だったので兄にかけよるが痛くないと言い出した。よく見ると兄の体には傷一つついていなかった。
僕が驚いていると少女が目の前まで歩いてきて僕達の前で止まる。
「きみ、弟くんのリュックの中身を自分のリュックに入れたでしょ」
そう言われて兄の方を見ると兄は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「電車の中でリュックの中身をみたのね?」
少女が兄にそう問いかけると、観念したように頷く。
(リュックの中身?みてしまった?中身をとった?何を言っているんだこの子は、兄ちゃんのリュックこんなに潰れてるのに?)
僕は状況が理解出来ないでいた。すると、少女がリュックの中身を僕に返すように言う。兄は渋々と言った感じで自分のリュックを僕の前に置く。
僕は背負っていたリュックをおろし、兄のリュックの横に置く。そして、リュックを恐る恐る開けようとした時だった。
電車が僕達が来た線路の反対側からやって来て目の前で止まる。
「坊や迎えに来たから乗りな。乗れるのは一人までだからな」
電車の入口が目の前で開き、来た時に聞いた車掌さんの声がした。
兄と少女が固まって電車を見ている中、僕はそっとリュックを閉じた。僕が立ち上がると、少女がこちらを向く。
僕は電車を向いたままの兄の背中を思いっきり押した。線路に近かったこともあり兄はあっさりと電車の中へと入った。
「それでは発車いたします」
そう言って扉が閉まりかける直後に僕の空っぽのリュックを兄へとなげつける。扉が静かに閉まり、兄はドアを叩いて叫ぶ。
「おい!ふざけんなよ!何考えてんだお前!」
僕は笑顔で兄の乗る電車を見送った。兄はそのまま扉の前で崩れ落ち、姿が見えなくなった。
後に残されたのは僕と少女だけとなってしまった。
「はぁ〜、やってくれたね」
少女は大きなため息をつきながらそう言った。
「ごめんね、だって兄ちゃんには昔からやられてばっかりでさ。仕返しっていう仕返しもしたことがなかったんだ。だから、一回ぐらいはやり返してやろうと思ってね」
僕はそう言ってリュックを持ち上げようとした。
「お、重!兄ちゃんこんなの背負ってたのか!すげーな!」
兄のリュックは重かった。とてもじゃないが持ち歩くことはできそうにない。
「それはそうだよ。あなたの分も入ってるからね」
少女は呆れたようにこちらを見てくる。
僕はリュックをベンチに置き、腕を通してから立ち上がる。少しよろけてしまったが、何とかバランスをとる。こんなに重いのにリュックは何も入っていないかのように潰れていて壊れそうにない。
「はぁ〜、こんなことは初めて。一体なんて言われることやら」
少女は二度目のため息をつきながらうなだれる。これは完全に僕が悪いので少女に提案する。
「ごめんね、それも僕が背負うんじゃだめかな?」
「あなたはもうお兄さんの分を背負っているじゃない。これは私の責任よ。」
僕が悪いのに少女は止められなかった自分が悪いと言う。この子はきっと、とても優しい子なんだと思う。
「兄ちゃんの分も背負ってて重いからさ僕が立ち止まらないように手をひっぱって行ってくれないかな?」
「素直にお兄さんが居なくなって寂しいって言ったらどうかしら?」
少女はまたいたずらっ子のように笑う。この子には何もかもお見通しのようだ。
「それじゃあ、行きましょう」
そう言って少女は僕の手を握ってくれた。その手は少し冷たくて、でもとても暖かい手だった。
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目が覚めると白い天井が見えた。横には知らない女の人が何かを書いている。女の人はこっちを見ると驚いた顔をして出ていってしまった。
「あぁ......おれは......」
そんな掠れた声が誰もいない部屋に溶ける。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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