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第82話 勝二の宴会芸

短いです。

 宴は既にたけなわである。

 毛利、島津、龍造寺にとり、大友家は目の上のたんこぶであった。

 それがついえた今日という日は大変に喜ばしい。

 三者共に道雪には何度も煮え湯を飲まされてきたが、あれ程見事な忠義ぶりを見せられては過去の恨みなど消え失せよう。

 寧ろ心寂しい思いまで生まれる始末である。

 

 「弥助に挑戦する者はおらぬか!」


 湿っぽい空気をかき消さんとばかり、勝家の野太い声が庭に響く。

 時ならぬ相撲大会が開かれていた。

 各陣営から力自慢が名乗りを上げ、勝ち抜き戦が行われている。

 当然のように弥助も参加となり、相手を豪快に放り投げて勝ったのだった。 

 それを見て次が出てこない。

 宗茂と長く相撲を取っていた筈なのに、疲れた様子を見せない弥助に誰もが唖然としていた。 


 「俺がやる!」


 進み出たのは森長可ながよし(22)であった。

 蘭丸の兄であり、槍の名手として数々の武功を立てている。

 筋骨隆々とした逞しい体つきで、弥助と比べても見劣りしない。


 「始めぃ!」


 勝家の声で試合が始まった。

 真正面からぶつかる、力と力の真っ向勝負だ。


 「おぉ! 互角だ!」

 「いや、長可が押している!」


 僅かに長可が優勢であった。

 ジリジリと弥助が押されていく。

 堪らず投げを打つもビクともせず、そのまま押し切られてしまった。


 「負けちゃった……」


 弥助が呟く。


 「あれだけやったんだから疲れて当然だ」

 

 勝って当然としてニコリともせず、長可が言った。

 

 「次は俺だ!」


 ようやく次々と名乗りを上げるのだった。




 「勝二、何か異国の芸をせい!」

 「ええっ?!」


 相撲の歓声が届かない部屋で、酒を飲まない信長が無茶を振った。

 ありきたりのモノは飽きている。

 知らぬ国の芸を見せろと命じた。 


 「そ、それではムーンウォ……月面歩行をご披露致します」

 「何だそれは?!」

 「それは見てのお楽しみという事で」


 勝二とて元サラリーマンである。

 忘年会で宴会芸を披露する機会は何度かあった。

 生真面目な勝二にとり、唯一ともいえる芸が、面倒見の良い先輩から教えてもらったムーン・ウォークだった。

 必死に練習して身につけたので、その場で何度か反復すれば動きを思い出せた。

 酒に酔った諸侯らの前に進み出る。

 

 「これより披露致しますのは、月面歩行と申す異国の踊りにございます!」

 「おぉぉぉ!」

 

 音楽はないのでリズムを口ずさみながら踊り始めた。

 初めて見る踊りに誰もが戸惑う。

 正直訳が分からない。

 しかし遂にその時がやってくる。 


 「何だアレは?!」

 「前に進んでいるように見えて後ろに進んでいる?!」


 マイケル・ジャクソンとは比較にならないが、そこそこ上手いムーン・ウォークであった。

 皆、呆気に取られてそれを見つめる。

 目の錯覚かと思うような不思議な動きだった。


 「面白い!」

 「お見事!」


 惜しみない拍手喝采が贈られるのだった。

 やんややんやの声に勝二も誇らしい。

 芸は身を助けるとはこの事かと思った。

 しかし後日、この事をいたく後悔するようになる。


 「他の芸も見せよ!」


 信長からそう催促されるようになったからだ。

足底が滑らないとムーンウォークは難しいみたいなので、板張りの床でやってます。

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