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第7話 大西洋に移動するとはどういう事か

前話を一部修正し、最後に勝二の名乗りを入れています。

また、信長の「言え」を「申せ」にしています。

 「これからどうなる? 申せ」


 場を安土城に移し、信長が問うた。

 勝二との間には家臣達が左右に控え、いざという時に備えている。

 仕える主君を探して諸国を歩く者もいる中で、それに紛れて暗殺者が入り込む恐れもあった。

 それにも関わらず勝二を城に招き入れ、信長が直々に尋ねたのには理由がある。

 僧侶達と交わした問答を聞き、勝二が知っているのは日本が大西洋に移動した事だけではないと気づいたからだ。

 それ以上の事を言う為にここに来たのだと、確信めいた予感があった。


 「これから起こるであろう事は、仮説が本当であったとして、そこから考えうる予想になりますが、それで構いませんか?」


 努めて平静を保ち、勝二は言った。

 気難しい上司は事実と個人の予想、希望的観測を峻別せよと教えてくれた。

 目の前で起こっている事を自分に良いように捉えてしまうと、大事な所で足元を掬われる事になると、耳にタコが出来る程に聞かされた。 

 先ほどは事実を元に仮説を披露した訳だが、これから起こるであろう事は、完全に勝二の予想となる。

 ただの予想ではあるが、歴史を知っている勝二にとっては確度の高い、それしかないと思われる内容だ。

 しかし相手はあの信長なので、下手な事を言ったら機嫌を損ね、自分の首が物理的に飛んでしまうのではと不安があった。

 そんな勝二の不安を即座に見抜いたのか、若干不機嫌そうな顔になって言う。


 「構わぬ」


 信長の変化に勝二も気づいた。

 保身の為の予防線が気に入らなかったのだろう。

 想像以上の勘の鋭さに冷や汗が流れる。

 薄い氷の上を歩いているような緊張感を覚えた。

 僧侶との問答はウォーミングアップに過ぎなかったらしい。

 これが本番なのだと自覚した。 

 覚悟を決めて話を始める。


 「これより起こるであろう事は、南蛮諸国の勢力図を見れば、ある程度は予想出来ると思います」

 「南蛮の勢力図だと?」

 「その通りです」 


 勝二の説明に信長は首をかしげた。

 宣教師の説明で、ヨーロッパ各国について大まかなイメージは持っていたが、それぞれの支配地域などは殆ど知らない。

 それは居合わせた家臣達も同様で、想像がつかずに互いの顔を見つめ合う。

 信長はその意味を悟った。

 

 「あるのならとっとと出せ!」


 切れ気味に叫ぶ。

 想像上に扱いづらそうな上司であった。 

 勝二にそんな気はサラサラないのだが、勿体ぶった振る舞いは自殺行為となりそうだ。

 サラリーマン的な奥ゆかしさは無用と心得るべきなのだろう。

 

 「紙と筆をお持ち下さい」

 「ある訳ではないのか?!」


 それならそうと早く言えとばかり、控えている者に命じて持って来させた。


 「では失礼します」


 勝二は筆を持ち、墨を含ませて紙に向き合う。


 「まずは南蛮諸国、向こうの言葉でヨーロッパです」


 サラサラと筆を動かし、大まかな地図を描いていく。

 穴が開く程に何度も世界地図を眺めてきた勝二であるので、頭の中にしっかりとその形が入っている。

 国土の大きさ、細かな地形などは流石に再現出来ないが、信長の地球儀よりは正確である。

 汚しても良いふすまを持って来てもらい、そこに紙を貼り付ける。

 部屋にあった襖は狩野派が描いた豪華なモノで、触れる事さえはばかられるモノだった。

 

※16世紀のヨーロッパ(世界の歴史まっぷ様のサイトから)

挿絵(By みてみん)


 「予想では日本の東にポルトガル王国、その先にスペイン王国があります」


 地図を説明していく。


 「スペインと隣り合っているのがフランス王国で、その隣が神聖ローマ帝国です。フランスと海を挟んで浮かんでいるのがイングランド王国とスコットランド王国、その隣がアイルランドです」


 言いつつ国名を書いていく。


 「神聖ローマ帝国の南側に小国がいくつかあり、教皇領、ナポリ王国などがあります。そしてその東にイスラム、キリスト教とは異なる教えですが、それを信じるオスマン帝国が広がっています」


 こうして主要国の位置関係を描き終えた。

 

 「次に各国の持つ支配地域ですが、登場するのはスペイン、ポルトガル、イングランド、フランスです」


 別の紙を使い、南北アメリカとアフリカ、インドを描く。

 それらをそれぞれの位置関係で襖に貼りつけ、世界地図を作る。

 

※大航海時代(世界の歴史まっぷ様のサイトから)

挿絵(By みてみん)


 「イングランドとフランスは、北アメリカの東海岸に領土を持っています」


 墨の濃淡でそれぞれの支配地域を表す。


 「ポルトガルは南アメリカの東海岸の一部、アフリカとインドの沿岸部に飛び地で領土を持っています」


 点々とした領地を描いていく。

 そして最後に主役の登場だ。


 「スペインは南北アメリカに広大な領地を持っています」


 現在のフロリダからメキシコ一帯、カリブ海から中央アメリカ、南アメリカの沿岸部にかけて塗りつぶしていく。

 

 「何と!」


 その領域に一同は騒然とした。

 スペイン本国の何倍もの面積だから驚くのも無理はない。


 「そして彼らが行っている商売の方法です」


 勝二は一人で続けていく。


 「まずポルトガルとスペインは、船に鉄砲などを満載してアフリカに向かい、その地を治める部族が集めた奴隷と交換してアメリカ大陸に向かいます」


 ヨーロッパからアフリカ、アフリカからアメリカに向かう矢印を描く。


 「アメリカの支配地域に奴隷を降ろし、奴隷達に作らせた砂糖や綿花を積んで本国に戻り、それを周辺諸国に売って大儲けを狙います。これを三角貿易と称します」

 「何だと?!」


 聞いた事もない話であった。

 戦で人をさらって売りさばくのが彼らの常ではあったが、何やら趣の違う話に思える。


 「それは領民としてか?」


 信長が質問をした。

 金を払って人を買う事もあるが、それは年貢米を生産させる為である。

 言い換えれば金で領民を増やしていると言えよう。


 「奴隷は奴隷です。領民とは違います」


 日本における奴隷と、当時のアフリカ奴隷はやや事情が違う。

 小作人という位置づけの強い日本の奴隷と違い、アフリカから連れて来られた奴隷は死ぬまで奴隷のままである。

  

 「航海の途中で3人に1人は死ぬとも言われています。また、連れていかれた土地では満足な食事も与えられず、病気になっても治療など施されず、過酷な労働に従事させられ、反抗すればむちで打たれます」

 「罪人でもあるまいに、惨いな……」


 家臣の一人が口にした。


 「また、私はマカオで我が国出身の女の奴隷を目にしました」

 「何?」


 勝二が告白する。


 「首輪に紐で繋がれ、通りを歩かされていました」

 「何だと?!」


 その告白に驚く。

 にわかには信じらない。


 「奴隷の扱いはそんなモノです。そして、我が国の奴隷は安く購入出来るそうです。戦が続き、硝石を必要とする諸侯が多く、その代価としてポルトガル商人に奴隷を売るようです」

 「西国の諸侯だな」


 堺では硝石などが手に入るが、奴隷を売って買うとは聞かない。

 また、ポルトガル商人が立ち寄る港は限られており、今の所は九州くらいだ。


 「話が逸れてしまいましたが、大事なのはそんな商売をしている所に現れた我が国です」


 日本を描いた紙を大西洋の位置に貼り付けた。


※大西洋に移動した日本

挿絵(By みてみん)


 「あっ!」


 誰もが直ぐに気が付いた。

 それは一目瞭然であった。


 「帰ってくる途上にあるのか!」


 誰もが膝を叩いて叫ぶ。

 アメリカからヨーロッパに向かう航路の途中に日本が浮かんでいた。

 勝二は頷き、説明する。


 「船での長旅は危険で、嵐に遭遇すれば遭難してしまいかねません。なので避難出来る港の確保は重要です。更にそこで飲み水や食料の補給も出来れば万々歳です」


 ガレオン船は逆風の中でも進めるようにはなっていたが、風がなければ進みようがない。

 また、風が強すぎても具合が悪く、航海に適した風が吹くまで留まれる港が各地にあれば申し分ない。

 大西洋に現れた日本の位置は、そういう意味で神の恵みとも思える采配だった。


 「それだけではありません。我が国はヨーロッパの国々と比べても小さくない市場です。アメリカで積んだ砂糖、綿花を我が国で売れば大量の銀が手に入ります。沢山の荷物を積んだまま航海をする必要はなく、銀に換えて帰れば良い訳です」


 荷が多ければ船足は遅くなる。

 荷物を銀に換えられれば船の速度は上がり、それだけ遭難の危険も小さくなるのだ。


 「更に、ヨーロッパからアメリカに渡って開墾しようと図る者も増えるでしょう。今までは行くのも危険だからと躊躇していた者達も、我が国が途中にある事に安心し、渡航者が増える筈です」

 「成る程」


 スペインからアメリカ大陸に渡り、略奪の限りを尽くしたコンキスタドール達も、何の保証もない中で費用を募って船を出し、見事お宝にありついた冒険者と言える。

 現地民の払った痛みは凄まじいが、神を信じない、力のない者は虐げられても文句を言えないのが当時である。

 勝二にとり、アメリカ先住民の悲惨な経験は他人事ではない。

 すぐそこに、同じ運命が自分達にも待ち受けているかもしれないからだ。


 「彼らは必ず我が国に訪れます。寄港地を確保する為ですし、我が国にある金銀を求めてです」

 

 その説明に信長は考え込み、長考してから言った。


 「南蛮共はどう動く?」

 

 それだけを聞く限りでは、商売相手としてなら、今までの関係と大して変わらないように思える。

 しかし勝二の説明からは、どうやらそうではないと気づいた。

 信長の思いを受け、勝二が答える。


 「今までの関係のままではいられません。距離が近すぎるからです」


 スペインとポルトガルはアジアにも領土を持っていた。

 力で得た領地であったが、日本にはその矛先を向けていない。

 日本を訪れたイエズス会士が本国へ報告を書き、武力で日本を攻め落とす事は出来ないと伝えていたからだ。

 ヨーロッパから見て日本は余りにも遠く、兵隊や武器弾薬、食料を継続して送る事など不可能であった。


 「兵を差し向けると申すか?」


 その可能性は信長も十分承知しており、だからこそキリスト教を禁止しなかった。

 攻め込まれる危険性がない事を分かっていたので、彼らの教えとセットになっていた貿易という果実を手に入れられたのだ。

 それが今は艦隊を送れる距離である。

 南蛮船の持つ力は絶大で、日本の船では太刀打ち出来ない事も知っていた。

 石山本願寺を支援する毛利水軍に対抗する為、信長は九鬼嘉隆くきよしたかに命じて鉄甲船を作らせ、昨年のうちに蹴散らしている。

 しかし、毛利水軍の持つ鉄砲、焙烙ほうろく玉を防ぎはしたが、南蛮船が備える大砲には通じないだろうとも見ていた。

 しかも鉄甲船は極めて鈍足で、海に浮かべて運用する事しか出来ない。

 彼らが相手であれば、海上に浮かぶ大きな的でしかないだろう。

 そんな信長に答える勝二の顔は暗い。

 僧侶とのやり取りでも全く動じる気配がなかったのに、初めて躊躇う素振りを見せた。 


 「どうした?」


 信長が問いかけた。

 答えられぬ質問ではない。

 言い当ててみせよと言っている訳ではなく、どう考えるのか聞いているだけだ。

 その言葉に意を決したのか、勝二がその考えを述べる。


 「彼らが兵を差し向けるのか、それは正直分かりません」

 「分からぬのか?」


 ここまできて分からないとは拍子抜けである。

 そんな一同に気づかないのか、言葉を繋いだ。


 「彼らが我が国を訪れ、どう判断するかは彼ら次第だからです。私の希望的な観測では、戦をするより商売を選択するだろうと思うのですが、我が国は統一されていませんのでくみしやすいと見做し、諸侯の切り崩しを図る方向に向かうかもしれません」


 希望にすがると現実を見失う。

 交渉が上手い具合に進んでいると錯覚し、このまま終わるだろうと思い込んで情報の収集を怠れば、競合他社が仕掛けた罠を見逃してしまい、最後の最後で契約をさらわれる事になりかねない。

 それで先輩が失敗したのを見てきた勝二にとり、相手がどう思い、どう動くのかなど、想像だけでは語れないのだ。

 そして、その答えは信長の予想の範疇はんちゅうである。


 「平和か戦か、実に単純な事だ」


 今と何も変わりはしない事に可笑しくなった。


 「して、諸侯の切り崩しとはどういう意味だ?」


 分からないと言いつつ、それは断言した事に興味を持った。


 「それが彼らの常套手段だからです。メキシコのアステカ王国は、ようやく辿り着いたスペイン人に負ける筈がない勢力であったのに、敵対していた部族をスペイン人に取り込まれてしまったが為、アステカを上回る戦力を持たれ、遂に攻め滅ぼされてしまいました。今から60年前の事です」


 コンキスタドールのエルナン・コルテスは、数千名のスペイン人でアステカを征服したという。


 「火縄銃を初めて見たなど、アステカが負けた理由はいくつかありますが、敵対していた部族を連合して巨大な勢力とした事が、スペイン人が勝てた大きな要因です」

 「我らは火縄銃を使っているが、アステカとやらと事情が似ているという事か」

 「左様でございます。群雄が割拠するこの国の場合、彼らは彼らの持つ武器を交渉の道具に使い、彼らにとって都合の良い諸侯に天下取りを勧めるでしょう。これを使えば天下人だとそそのかし、世を戦乱に陥れるのです」


 それは勝二が元いた世界でもそうであった。

 常任理事国こそが武器の最大の輸出国であり、アフリカや中南米に混乱を巻き散らしていた。

 先進国が資源の代金として渡した銃を手にし、洗脳された少年兵が彼の故郷を襲撃していた。

 

 「アフリカでは奴隷を安く得る為に武器を売り、金銀が豊かな地域ではそれを集める為に武器を売ります」


 世の中が乱れれば乱れる程に武器は売れる。

 相手が強い武器を手に入れればこちらも対抗せねばならず、どれだけお金があっても足りる事はない。

 武器商人は片方の味方の振りをして敵対勢力にも武器を売り、互いに争わせて双方の損耗を図るのだ。

 そして頃合いを見て国ごと乗っ取ったのが、インドに対してイギリスの取った方法である。

 ムガール帝国に敵対する藩王国を巧みに操り、遂にはあの巨大な大陸を支配した。


 「信長様が畿内を制覇しつつあるとはいえ、西国は、東国は未だ諸侯が乱立している状態です。仮にスペインが信長様と同盟を結ぶとして、スペインと対立するイングランドは、必ずや他の勢力を支援するでしょう」


 それは火を見るよりも明らかだ。


 「我が国の細かな事情など、南蛮人が知っておるのか?」


 家臣の一人が言った。

 紹介をされていないので名前も知らない。


 「イエズス会だな」


 勝二が答える前に信長がぼそりと言った。

 宣教師は支配の先兵だろうとは思っていたが、日本においてそれは不可能だと分かっていた。

 しかし、まさかこういう形で、過去に予想した事が自分に降りかかるとは思っていない。

 いや、こんな事を見通せる方がおかしいだろう。

 天変地異にしても程度が過ぎると思った。


 「伴天連を追放するべきです!」


 恐怖に駆られたのか、家臣の中から声が上がる。


 「そんな事をすれば介入の切っ掛けを与えるようなモノです!」


 即座に勝二が反対した。

 

 「スペイン国王であるフェリペ2世は熱心なカトリック教徒で、異教徒の上に君臨するくらいなら命を100度失う方が良いとまで口にしています。ここで宣教師を追放しようモノなら、作らなくてもよい敵をみすみす作る事になります。仮に追放するのでしたら、介入を跳ねのけるだけの算段をつけてからにすべきです」


 勝二はキリスト教に思い入れはない。

 宣教師の中には一人の人間として尊敬の念を覚える者もいるが、そういう者の存在をしてキリスト教全体を判断する事はしない。

 イエズス会が、日本人を奴隷として買う事を禁止したのは知っているが、今この瞬間もアフリカでは沢山の奴隷達がアメリカに連れていかれ、過酷な労働に従事させられている。

 そんな状況を容認しているカトリックが、どの口で神の愛を唱えられるのか不思議でならなかった。


 それはカトリックだけでなく、イングランドといったプロテスタントも全く同じである。

 寧ろコンキスタドールよりも、巧妙に残虐に北米インディオを虐殺して回る事になるのが、聖書を信仰の拠り所にしている筈のプロテスタントだ。

 プロテスタンティズムによって近代的個人主義が発展していった事も知っているが、世界史上における大英帝国の行った数々の悪行を考えると、産業革命や議会制民主主義を興した業績もかすむと思う。

 世界の各地で、欧米諸国の残した負の遺産に苦しんでいる、罪のない民衆の姿を見てきた勝二にとり、殊更にキリスト教を保護すべしとはならなかった。

 心なしか、怒りを押し殺しているように見える勝二に信長が言う。 


 「勝二に命ずる。徳川に事情をよく説明し、徳川の縁を使って北条を説得して参れ!」

 「は?」


 言っている意味が分からなかった。

 徳川と言えば家康で、この時期の信長とは同盟関係の筈だ。

 小田原を治めていたのが北条で、そこと織田家の関係は知らないが、徳川の縁を使えと言う以上、親密ではないのだろう。


 「その方の言う通りならば、スペインの船はまず東国に来るだろう。混乱が生じないようにせよ!」


 大西洋に移動した日本にとり、スペインに近いのは関東である。

 帰国したスペインの船が日本の事を報告し、調査団が来るとして、その向かう先は東北、関東となる可能性が高い。

 それらの地域に南蛮の商人は行っていない筈で、急に南蛮船が現れたら慌てふためき、要らぬ摩擦を生じかねないだろう。

 それを未然に防ぐ為には情報を周知するしかない。 


 「という事は、信長様はスペインとは和議を結ぶおつもりですか?」


 そうでなければ自分を遣わす事はないだろう。


 「是非もない」


 信長はそうとだけ答えた。

 良いも悪いもない、そうせざるを得ないと言いたいのだろう。


 「ですが……」

 「何だ?」


 他の者が下した命令に異議を唱えれば、信長は決して容赦しないだろう。

 しかしこの者の場合、それだけの理由があると思った。

 そしてそれは居合わせた家臣達にとり、驚きの光景だった。

 そんな場の空気をヒシヒシと感じながらも、言うべき事は言うべきだとして述べる。


 「私はただのサラリーマンなのですが……」


 言っている事は同盟を結んで来い、であろう。

 スペインが来る前に、出来るだけ国内のイザコザを片付けるべきと考えたのかもしれない。

 自分の献策を早速受け入れてくれたと喜ぶべきか、過大な評価で無謀な仕事を押し付けられたと見るべきか。

 少なくとも昨日今日雇い入れただけの新人である自分に、それもどこの馬の骨とも分からない、怪しい筈の男に任せる事とは思えない。

 他の者も驚愕していたが、信長の決定に異を唱える者はいなかった。


 「サラリーマンとは何だ?」


 南蛮の言葉に興味を持った。


 「給料を得て働く労働者の事です」

 「給料?」

 「一番近い表現は俸禄、でしょうか?」


 似ているような違うような、勝二にも良く分からない。


 「ならばここにおる者達と同じではないのか?」

 「あれ? そういう事になるのでしょうか?」

 

 言われてみれば同じにも思える。


 「その方は儂に仕えているのではないのか?」

 「は、はぁ、まぁ、その通りです……」


 確かに仕える事になった。


 「ならば行け!」

 「か、畏まりました!」


 怒気に慌てて頭を下げた。

地図は世界の歴史まっぷ様からダウンロードしています。

この場を借りてお礼申し上げます。

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