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第49話 対策その一

 「病気になる原因は川の水に棲む虫ですから、予防の第一は川の水に触れない事となります」


 勝二が対策について述べる。 


 「病気を出している集落では、炊事や洗濯、体を洗うのに川の水を使う事は止めて下さい。基本的に、ある程度の深さを持った井戸水は安全ですので、面倒でも生活に係わる水は全て井戸水を使って下さい」


 川の水が混ざるような井戸でない限り、汚染の心配はない。

 土壌の濾過機能は大きく、汚染物質は除去される。

 と、一人の男が進み出た。


 「井戸が近くにねぇ集落もありますが……」

 「そういう集落は井戸を掘って下さい。資材はこちらで支援します」

 「ありがてぇ!」


 穴掘りなどの労力は村人が負担するので、費用はそれ程大きくない。  


 「井戸に関し、手押しポンプという道具を持って来ました。これで井戸汲みが楽になる筈です」

 「手押し?」


 聞き慣れぬ言葉に昌幸が食いついた。


 「百聞は一見に如かずです。まずは現物をご覧下さい」

 「どこにあるのだ?」

 「集落の井戸に設置しております」


 勝二はその集落の井戸に案内した。

 好奇心に溢れた顔で観衆もゾロゾロと付いて来る。


 「これが手押し、何とやらなのか?」

 「手押しポンプです」


 場所はそんなに離れていない。

 既に手を回し、甲斐で製作した手押しポンプを設置済みである。

 使い方を説明する。


 「まず柄杓ひしゃくで水を注ぎ、素早くこの柄を往復させます」

 「ほう?」


 勝二が実演した。

 何度も何度も動かしていくと段々と重くなる。

 水が揚がってきている証拠だ。

 

 「暫く繰り返していると……」


 何が起こるのだとソワソワしている者達の前で、遂にその時を迎える。


 「み、水だ!」

 「勝手に出てきた?!」

 「井戸に誰か入っているだか?!」


 それは不思議な光景だった。

 誰も釣瓶で汲んでいないのに水が噴き出している。

 地面に置いた桶に水がドンドンと溜まっていった。


 「妖術か!?」


 昌幸も目の前で起きている事が理解出来ず、咄嗟に刀に手をやり、素っ頓狂な声を上げた。


 「妖術ではありませんのでご安心を。この手押しポンプは誰でも使えます」

 「何?」


 斬られて壊されでもしたら堪らない。

 

 「誰かやってみたい方はおられませんか?」


 ひとまず協力者を求めた。

 知った者がやってみせれば安心するモノだ。

 好奇心に溢れた者がいないか、グルっと見回す。 


 「あれ?」


 しかし誰も手を上げない。

 当てが外れて勝二は戸惑った。

 主君信長であれば真っ先に手を上げるので便利なのに、こういう反応は予想していない。


 「ちょっと疲れますけど、難しい事は何もありませんよ?」

 

 寧ろ勝二が顔を向けると慌てて逸らす程である。

 誰かいないかと途方に暮れた時だった。


 「俺がやる!」 

 「やらせて下せぇまし!」


 悲壮すら感じさせる顔の幸村とお陽であった。

 助かったと早速使い方を教える。




 「スゲェ……」


 それからは順番の取り合いだった。

 次にやるのは自分だと、押すな押すなの大盛況である。

 やり過ぎて壊れないかと心配する程だ。


 「余り手荒に扱わないで下さいね」


 地域の大工、鍛冶屋に命じて作らせたので、修理は出来る筈だが鉄製品はまだまだ高価である。

 単純な構造なので頑丈な作りだが、油断は出来ない。


 「どれだけ考えても分からぬ。一体どういう理屈だ?」


 お手上げだと昌幸が天を仰いだ。

 妖術でないなら何なのかサッパリである。

 勝二はクスリと笑い、説明の為にそれを取り出した。


 「原理はこれと同じです」

 「水鉄砲と?!」


 竹で出来た水鉄砲だった。

 井戸水が入った桶を借り、大気圧と負圧の関係、ポンプに使われている弁の働きを説明していった。




 「そのような理屈で水を汲み揚げる事が出来るとは……」


 昌幸は感嘆した。

 複雑な仕組みではないのに、驚くべき働きをしている。

 目の前では子供も大人も歓声を上げ、それを動かしていた。


 「織田家ではこれが当たり前なのか?」


 それも驚いた事の一つだ。

 敬愛する信玄公は、素破すっぱとも三ツ者とも呼ばれる隠密集団を他国に潜り込ませ、活発な情報収集に励んでいた。

 特に、敵対していた織田、徳川両国には重点的にである。

 そんな彼らが送ってくる情報により、信玄公は甲斐に居ながらにして全国の事情に精通する事を可能にした。

 このような便利な道具があれば当然、耳に入って来る筈である。

 それが今の今まで全く知らなかったとなると、三ツ者の働きを疑わねばならなくなってしまう。

 彼らの中には身寄りのない少女も多い。

 裏切りさえも覚悟せねばと思った。

 そんな昌幸の内心を知らず、勝二ははにかみながら答える。


 「これはまあ、今年になって私が提案したと申しますか……」

 「五代殿が!?」


 呆気に取られた。

 今年はまだ始まったばかりであるので、それならば届く筈がない。

 裏切りではないとホッとした。


 「それはそれとして、住血吸虫対策についての説明が終わっていません」

 「そ、そうであった!」


 今はまだ話の途中である。

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― 新着の感想 ―
[一言] ギリシアで紀元前3世紀に出来てたなら伝わってそうだし普及してそうなのに、謎だねぇ~ このポンプも将来オーパーツとか謎って言われそうだね。 って事は、東南アジアの圧気発火器は転生やタイムト…
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