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第38話 日本西班牙同盟

 『ショージのお陰で交渉が順調に進んだよ』

 『お役に立てたようで光栄です』


 勝二は差し出された手を握りしめた。


 『君がいない時、イエズス会の神父様を介してのモノだったんだけど、酷く往生してね』

 『それは仕方ありません。神父様は布教に必要な言葉にはご堪能でしょうが、このような交渉時に使う単語には疎いでしょうからね』


 カルロスはその時の事を思い出したのか、ヤレヤレとでも言いたげに溜息をついた。

 と、突然クククと笑い出す。

 驚いた勝二がその顔を眺めていると、ひとしきり笑って満足したのか説明を始めた。


 『失敬失敬。あんまり話が進まないモノだから、君のお仕えする君主様がイライラしたのか席を立ってしまってね。その時の神父様の顔を思い出して可笑しくなってしまったんだよ』

 『え?』


 初耳であった。

 異国の者と話をするのに、その言葉が分からなければ通訳を必要とする。 

 信長もその事は十分理解している筈だ。

 

 『いやいや、信長公は頭が切れ過ぎる故に気が短いと見える。うちの国王陛下と同じだと思ってね』

 『フェリペ様とですか?』

 『そうだよ。と言ってもあの方の場合、その場で席を立つまではしないけどね』

 『席は立たないけど後が大変、ですか?』

 『ご名答』


 お互い苦労するねぇと、その心労を慰め合う。

 

 『何にせよ、これで我々は同盟者だね』

 『はい』


 その心中に秘めた思いはそれぞれであったが、当面は互いの利益に繋がるだろう。


 『我が国は、貴国と新大陸との中継地点としての立地を活かし、交易を盛んにして国を発展させたいと思っています』

 『我がスペインも同じだ。貴国の産物は魅力に満ち、国は栄えていて軍事力も高い。新大陸への航路の安全確保に協力してもらえると思っているし、善き商売相手になると思っているよ』


 二人は再び握手を交わした。

 

 『出来ればツチノコを捕らえに行きたかったけど……』


 そう呟くカルロスは本当に残念そうだ。

 伝説の生き物について話を聞き、興味を持ったらしい。

 帰国はもう少し先の話だが、深い山々に分け入り、未知の生物探しに費やす時間はないので、泣く泣く断念せざるを得なかったようだ。

 元気づけるつもりで思い出した事を言う。


 『大西洋にはアトランティスという伝説もありますね』

 『知ってたのかい!? 実はそうなんだよ!』


 勝二の言葉に途端に目を輝かせた。

 こうして、日本列島が突如大西洋へと移転し、年が明けた1580年、畿内全域をその勢力下に置いた織田信長は、大航海時代の覇者スペイン国王フェリペ2世と同盟を結んだ。

 手を組むに当たり、信長が引き受けた条件は以下の通りである。


 一つ、那覇港の安全を確保する事。

 これは琉球と交易をしていた堺の商人を通じ、異国の船に島を荒らされていると、琉球王より助力を求められた事にも関係する。

 海賊の正体はイングランド船で、新大陸で集めたお宝を載せた、スペインのガレオン船を狙っていたようだ。

 突如現れた琉球諸島を不思議に思い、上陸を試みたのであろう。

 新大陸の一部だと勘違いした可能性もある。

 そういう中で、スペイン船が安全に那覇港を利用出来、大陸という後ろ盾を失った琉球王朝への影響力を増やす為にも、織田水軍の一部を琉球に派遣し、港や周辺諸島の警戒に当たる事が決まった。  

 琉球王朝にも相応の軍事力は備わっているが、大陸という主要な交易先を失い、経済的に困り始めたという事情も関係している。


 一つ、堺へのスペイン船の寄港を認め、商行為を許可する事。

 先の訪問でカルロスは日本の産物を本国に持ち帰り、国王に献上している。

 大坂や京都の発展ぶりに驚くと共に、勝二の話した、蝦夷と呼ばれる北方地域との交易網構築計画を耳にし、大坂の更なる飛躍を確信、この地でスペイン人商人が商取引を行えるよう求めた。

 信長としてもそれは都合がよく、すんなりと合意に至る。

 尚、外国人が船で大坂に来る事に対し朝廷側は難色を示したが、その交易によって得られる産物などを提示し、どうにか説き伏せる事に成功している。


 一つ、畿内でのカトリック布教を認める事。

 京都ではオルガンティノが布教活動に従事していたが、その活動範囲を畿内全域に拡大する許可を求めた。

 これには通訳としてその場に参加していた、イエズス会宣教師の意向も影響している。

 勝二だけでは、日本側に有利となるよう、発言内容を改ざんされる恐れがある。

 その不安を未然に払拭する為、双方が通訳を立てる事となった。

 そういった気配りが信頼に繋がったようだ。


 一つ、日本近海での海賊行為を取り締まる事。

 日本の位置は、新大陸とヨーロッパとを結ぶ途上にある。

 多大な儲けをもたらす重要な航路であり、海賊船も多く出没している。

 日本の近海では日本が主体であるが、協力して海賊船を撲滅していく事を合意した。


 一方、スペイン側が受け入れた条件は次の通り。


 一つ、ガレオン船の基礎的な建造技術、操船技術を提供する事。

 これは信長の最も欲した条件の一つである。

 外海を渡るという、近海を走り回るだけの日本の船とは設計思想が異なる西洋の船は、これからの日本には必須の技術と言えた。 

 操船技術と併せ、必ずモノにしなければならない技能である。

 同時に、日本でガレオン船を作る事が出来れば、航海の途中で壊れた船の修理を、日本の港で行える事を可能にする。

 スペイン側にとっても悪くない取引であろう。

 航海の安全性がグッと高まる。

 

 一つ、いくつかの軍艦、装備品を譲渡する事。

 退役間近の旧式艦を、兵装の付いたまま日本側に譲ってくれるよう、求めた。

 新型艦を一つ譲られるよりも、旧式艦を2隻貰った方が色々と使えるからだ。

 人材を急いで揃えなければならない今、質よりも量である。


 一つ、武器の売買を許可する事。

 これは主に大砲の購入である。


 一つ、スペイン人商人に対し、購入した日本人奴隷を国外へ連れ出す行為を禁ずる事。

 奴隷の売買が為されている現状、買う事を禁ずる事は出来ない。

 日本国内ならば購入も所有も認めるが、国外への連れ出しは認めない事とした。


 一つ、日本から奴隷として連れて行かれた者達を発見した場合、積極的に保護し、本人が望めば帰国を支援する事。

 勝二の心を痛めていた、日本人奴隷をどうにかしたいとの思いから為された合意である。

 尚、その費用は後日、日本側が補填し、いくばくかの謝礼を支払う事となった。


 また、合意には至らなかった項目だが、イエズス会とは異なるカトリック会派、フランシスコ会の進出許可をカルロスより求められた。

 協議の結果、日本での布教活動は当面、イエズス会に限る事とした。

 ヴァリニャーノらへ恩を売った形であるが、その見返りとして織田家の者にスペイン語教育を施してもらう事となった。

 異言語理解に適正のある者を選びだし、短期での習得を目指す。

 その際、同会への勧誘活動は固く禁じた。 

 集会の告知などはその限りではない。




 その頃のバチカンでは、ローマ教皇グレゴリウス13世による奇跡認定が為されていた。


 『大西洋に日本が現れた事は神の示された奇跡である』


 枢機卿、大司教らが多数詰めかけた会場で厳かに告げる。

 途端、どよめきが起きた。


 『かの国にカトリックを広めよとの、ご意思だ』


 歓声がさざ波のように広がっていく。

 宗教的熱狂に染まる者らがいる一方、計算高い顔をする者もいた。

 以降、カトリックの宣教師は積極的に日本を目指すようになる。

この時代の同盟関係が分からず、適当に条件を付けました。

後で修正するかと思います。

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