幕間その17 舞踏会にて
前話にて、晩餐会から舞踏会へと変更しております。
使節を歓迎し、舞踏会が開かれた。
プラハ城の大広間に楽団の奏でる音楽が響く。
信長(雅楽と比べて眠くならんのは助かる)
椅子に腰かけた信長は思う。
蘭丸が打つ軽快なリズムの太鼓に合わせ、敦盛を舞うのが彼のお気に入りであるが、京都で聞いた雅楽は優雅過ぎて退屈となるものが多かった。
信長(楽器のいくつかを我が国に持って帰りたいものだ)
旅には飽きても新しい物には目がない。
信長(プラハの時計塔も見事であった)
皇帝自慢の塔は大陸中を見回してもおよそ見かけない、大変に複雑な作りをしていた。
願って中まで見せてもらったが、大小無数の歯車が噛み合い、大きな時計の針を回す。
精巧精緻なその作りに驚き、時間を忘れて魅入った。
信長(それに比べて退屈な時間よの)
信長は眼前の光景に小さく溜息をつく。
ホールでは色とりどりに着飾った男女が互いの手を取り合い、リズムに合わせて華麗なステップを踏んでいる。
歓迎の割には自分達こそ楽しんでいるように見えた。
また、腰かけている自分の前には貴族達が列を成している。
旅の疲れが出たとしてダンスは予め断っているが、ならば一言二言だけでも乞われ、希望者と話をする事になった。
珍客との会話を楽しみにする者は多く、列は途切れそうにない。
貴族の女『お国ではどのような食事をされているのです?』
信長『我が国ではヨーロッパと違い、水田で育てた米などを常食している。また、海に囲まれた島国なので魚を用いた料理が多いな』
別の貴族の女『甘いお菓子はございますの?』
信長『我が国にはヨーロッパと新大陸とを行き交うスペイン船が多く寄港する。砂糖は我が国でもまだまだ貴重だが、この国と比べれば安価なので甘い菓子は多いぞ』
貴族の女『それはどのようなお菓子なのでしょう?』
信長『たとえばみたらし団子がある』
別の貴族の女『みたらし?』
貴族の女『団子?』
信長『団子とは蒸した餅米をこねて丸めた物だ。これに甘く味付けした醤油のタレを絡めた物が大坂名物みたらし団子だ。旨いぞ』
貴族の女達『是非一度、味見してみたいですわ!』
女達との他愛もない会話はまだ気が楽だった。
油断ならないのは男達で、軍備や国力を量るような質問であったり、その知識を問うような話に持っていく。
信長としても詳細は語らず、大まかな話に留めた。
相手国の力量を正確に知る事は国家の大事に繋がる。
政治を担う者であれば当然知りたいところなので、多少は無礼であっても責める気にはならず、むしろその気概が好ましい。
しかし、何事にも例外というものはあるようだ。
貴族の男『閣下のお国では神への信仰はどのように?』
要はカトリックかプロテスタントなのかという質問だった。
このような場で面倒な質問をと、周りの貴族達が眉を顰める。
そして信長もパリで同じ質問をされた事を思い出し、内心ではうんざりした。
どうやってやり込めてやろうかと思案する。
口を開こうとした時だった。
忠勝「我を侮辱するか!!」
氏郷「この者らは奴隷ではない!」
イサベル『神に誓って本当です!』
銘銘で好きにやっていた者達が同時に声を上げる。
見れば自分と同じように、それぞれが帝国の貴族達に囲まれていた。
信長「何を騒いでおる」
三人はその声に気づき、ハッとした。
会場全体が自分達に注目している。
氏郷「申し訳ございませぬ。場を弁えぬ振る舞いでした」
氏郷の謝罪は通じない。
信長「何故かと尋ねておる」
まずは二人が説明する。
忠勝「兵を率いる者が武器を振るうなどと笑われたので……」
氏郷「弥助らを奴隷呼ばわりされたので否定したまでです」
けれども最後の一人は口を濁す。
イサベル「何でもありませんわ」
信長「申せ」
誤魔化す事は出来ないと諦め、イサベルが言う。
イサベル「実は私の貞淑を疑われてしまいまして……」
信長「ふむ」
さもありなんと信長は納得した。
婚約者のいる身でありながら、野蛮人と長旅を共にするなど、およそ淑女の振る舞いではないというような非難であろう。
確かにその通りだと思うものの、その意味するところは自分達への侮辱でもある。
信長『つまり我々は、女と見れば容易に手を出す輩だと思われている訳だな』
信長の言葉は即座に否定される。
帝国の貴族『決してそのような意味ではありませんぞ!』
たとえ揶揄のつもりであったとしても許されない。
信長『言い訳は聞かぬ! 我らへの侮辱は決闘にて晴らす!』
時間が掛かっている割には短くてすみません。




