幕間その6 信長の欧州再訪問
時系列等、整合性を取っておりません。
ご了承下さい。
大坂を発った信長一行。
信長「外海は荒れるので心しておけ」
氏郷「心得ました」
元春「ふん、物知りな事だな」
義弘「まあまあ。信長公は一度この海を渡られておるし、確かであろう」
忠勝「既に気分が悪いのだが……」
大西洋横断中。
氏郷「ここまでとは!」
義弘「荒馬でもこうはならぬぞ!」
元春「瀬戸内とは比較にならぬ(白目)」
忠勝「……限界だ(苦悶)」
信長「これは序の口だぞ?」
忠勝「?!(絶望)」
荒れが続いて数日。
氏郷「平気か、忠勝殿?」
忠勝「……(顔が土気色)」
義弘「返事がないぞ?」
元春「まさか死んだのか?」
忠勝「……死んではおらぬ……」
信長「船酔いで死なれたら徳川殿に顔向け出来ぬぞ」
忠勝「……心配ご無用」
後日、忠勝の語るところでは、三方ケ原の合戦時よりも生きた心地がしなかったという。
イサベル「皆様、お茶をどうぞ。少しは楽になりますよ?」
信長「済まぬな」
氏郷「これはこれはイサベル殿。貴女は平気なのですか?」
イサベル「慣れましたわ」
氏郷「それは凄い!」
義弘「見上げた女人であるな」
元春「この揺れには未だに慣れぬのに……」
忠勝「……(無我の境地)」
航海から一月が経った頃。
モラン「陸、だ!」
氏郷「おぉ!」
元春「遂にか!」
忠勝「よ、ようやくこの地獄から解放されるのか(歓喜の涙)!」
義弘「狭い船内には飽きたところだ」
しかし、それらしき影は見えない。
氏郷「どこに?」
元春「見間違いではないのか?」
モラン「あれ、だ!」
義弘「さっぱり見えぬ」
信長「あやつの目は我らとは違うのでな」
暫くして影が見えた。
氏郷「見えた!」
忠勝「まさしく!」
元春「う、疑った訳ではないのだぞ!」
義弘「陸が見えるとホッとする」
信長「地形から察するにポルトガルのようだな」
一行は元ポルトガルの首都にして、スペイン王国の新しい首都、リスボンへと到着した。
日本からもたらされる珍しい品々が最も早く手に入り、新大陸の産物も多く集まる。
大航海時代の今、リスボンは繁栄を謳歌していた。
信長『要請に応え、我ら日ノ本の軍、ここに馳せ参じた』
フェリペ2世『遠路はるばる感謝する』
かつてはポルトガルの宮殿であった場所で、スペイン王のフェリペは信長らを出迎えた。
戦国の世を代表する猛将達を、ここぞとばかり集まった貴族達が歓待する。
晩餐会にて。
貴族の男『これは鶏の料理なのか?』
貴族の女『宝石のように輝いているわね!』
山海の珍味に精通した貴族達ですら見た事がない、目を惹く料理があった。
鶏肉を焼いているようだが全体的に茶色く、ところどころ焦げている。
見た目もそうだが漂う匂いが気になる。
貴族の男『食欲をそそる香りだな』
貴族の女『何の匂いかしら?』
好奇心に駆られ、その一片を皿に取る。
まずはクンクンと匂いを嗅ぎ、おもむろに口の中へと放り込んだ。
モグモグと噛みしめ、驚きに目を見開く。
貴族の男『旨い!』
貴族の女『美味しいわ!』
それからはあっという間であった。
我先に肉を取り合い、瞬く間に皿が空いた。
信長『紳士淑女の皆の衆、我が国の調味料を使った料理はどうだったかな?』
タイミングを見計らい、信長が声をかける。
貴族の男『これは貴殿の国の料理でしたか!』
貴族の女『大変美味しくございましたわ!』
信長『それは結構』
好反応に気を良くした。
貴族の男『日本の調味料との事でしたが、どのような?』
信長『これだ』
サンプル品の小瓶を披露する。
貴族達『黒い汁?』
信長『醤油という』
貴族達『ショーユ』
信長『指先に少しつけて舐めてみよ』
言われた通り、自分の指先を醤油の皿にチョコンとつけ、舐めた。
貴族達『塩辛い!』
途端に渋面となる。
慣れぬ者にはしょっぱいとしか感じないだろう。
信長『この醤油に味醂、酒、砂糖を加え、火を通した鶏肉、魚などに絡めれば、先ほどの料理である照り焼きだ』
貴族達『てりやき!』
ヨーロッパに醤油、照り焼きが広まる瞬間だった。
フェリペ『是非ともフランスを経由してもらいたい』
信長『フランス?』
数日後、フェリペが信長に願いを述べた。
ネーデルランド(現在のオランダ)へと部隊を進軍させるのに、海路でなく陸路を通って欲しいと。
フェリペ『神の奇跡をその身で経験した貴殿らに、フランス王が是非とも会いたいそうなのだ』
信長『そう言えば、前にも誘われていたな』
フェリペ『貴殿らの事はヨーロッパ中で噂の的となっている』
信長『折角の招きを二度も断るのは礼儀に反しよう。承知した』
フェリペ『こちらとしても助かる』
フランスの国王はアンリ3世。
国内でカトリックとプロテスタント(ユグノーとも呼ばれる)が激しく争う、ユグノー戦争の真っ先中である。
フェリペの自室。
イサベル『お呼びですか、お父様?』
フェリペ『お前の婚約者だが……』
イサベル『……はい』
イサベルの許婚、神聖ローマ帝国皇帝ルドルフ2世は大変な変わり者で、皇帝の身でありながら結婚せず、婚約者を放置したままだった。
フェリペ『あの男はお前がローマに行った時も、日本に向かった時にも、その真偽さえ尋ねようとはしなかった』
イサベル『私に興味がないのでしょう』
フェリペ『お前はそれで良いのか?』
イサベル『お父様には申し訳ありませんが、私に関心を持って下さいとお願いするつもりはありません』
フェリペ『……そうか』
政略で結婚するのが当時の貴族で、イサベルも十分に理解している。
だからこそ婚約者の振る舞いが許せなかった。
家の繁栄、国家の安定を考えれば、太陽の沈まない国と称される、スペイン王の娘を放置するなどあり得ない。
フェリペ『お前はその目で日本を見てきた。それを踏まえて問う』
イサベル『何でございましょう?』
フェリペ『日本との結びつきを、より深めるべきだと思うか?』
イサベルは考え、口を開く。
イサベル『日本は田舎に至るまで活気に満ち、物に溢れた豊かな国でした。神の教えを信じる者こそ少ないですが、それを補う長所がございます』
フェリペ『ふむ』
イサベル『ですので、日本との結びつきを深める事には賛成です』
フェリペ『そうか』
フェリペは頷いた。




