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第160話 洋上の戦闘

 『まるでなってねぇな』

 『こんなのでよくここまで来たもんだ』


 船が近づくにつれ、日本のハチャメチャぶりが改めて分かった。

 帆の張り方がおかしい上に、風の向きと合っていない。

 海賊達は半ば呆れ、半ば驚いて言った。 

 戦闘を前に、ぼんやり顔の部下達に船長が叫ぶ。


 『吠え面をかかせてやるんだ、お前達、気合を入れろよ!』

 『合点でさぁ!』


 ハッとし、慌てて持ち場に戻っていく。


 『船長、あいつら離れていきやすぜ!』

 『何ぃ?!』


 すれ違うまであと少しというところになり、見張りが大声を上げた。

 見れば舵を反対に切ったようで、互いの距離が徐々に離れていく。

  

 『土壇場で怖気づいたか?』

 『臆病者の集まりかよ!』


 彼らは他の船を襲い、殺し、奪う事を楽しんでいた。

 ここ最近はそれもままならず、大いに不満を溜めていたところ、ひょっこりと現れた恰好の標的である。 

 血祭りにしてやると舌なめずりしていたのに、蓋を開けてみれば戦う前から逃げ出してしまった。

 期待を裏切られ、船上には罵詈雑言の嵐が舞う。


 『逃がすか!』


 激怒した船長が思わず叫んだ。 

 副船長が問い掛ける。


 『どうするんで?』

 『追うぞ!』


 海賊船は離れていく日本の船を追った。


 

 『待ちやがれ!』


 それは海賊船が左後方に追いすがり、併走に入りつつある時だった。

 並ばれたら右舷の大砲を放たれ、被害を受けかねない場面である。

 風は順風、速度が出ている。


 「やるぞ!」


 豊久が大声を出す。


 「砲撃準備!」


 そう言って甲板を力一杯に叩いた。

 下は大砲を備える武器庫だ。 


 「合図が来たぞ!」


 待ってましたと忠時が応える。


 「砲撃準備!」


 凛とした声で号令を発した。

 ここからは時間との勝負だ。

 すぐさま左舷の窓が開かれる。

 暗い武器庫に明るい外の光が差し込む中、数人がかりで台座を押して砲撃位置に留め置き、縄を結んで固定した。

 火薬を詰め、弾を込めて押し固め、火縄を用意する。

 日頃の修練の賜物か、流れるような動作だった。 


 「砲撃準備良し!」

 

 瞬く間に準備が整い、忠時は上へと報せる。  

 その報告を受け、豊久が叫んだ。


 「切れ!」


 号令一下、メインマストの帆を張っていた紐が全て切られる。

 途端、巨大な帆が自身の重さで甲板の上へと落下した。

 風を受けていた帆を失い、船はみるみると速度を落としていく。

 まるで急ブレーキを踏んだ自動車のようだった。

 すぐ後ろへと迫っていた海賊達が呆けた顔をする。

 真っ先に気づいた見張りが叫んだ。

 

 『船長! あいつら、大砲を積んでますぜ!』

 『何ぃ?!』


 我に返った乗組員達は右舷にしがみつき、身を乗り出す。

 今まさに追い付きそうな日本の船の左舷から、鈍く光る大砲が見えた。


 『いつの間に?』


 ついさっきまでは何も見えなかった筈である。 

 まるで魔法にでもかけられたように、突如として現れたような気がした。

 そして遂に横へと並ぶ。

 ハッと気づいた時にはもう遅い。


 『不味い!』


 海賊船の船長が叫んだのと同時であった。


 「放てぇ!!」


 忠時の号令が下され、ゴールデン・ハインド号から移設されたミニオン砲7門が火を吹いた。


 『船がやられたぁぁぁ!』


 轟音と共に船の揺れを感じた。

 マストの一本に直撃したようで、船の上に帆が覆いかぶさり視界を奪う。


 『あいつら、大砲を積んでやがったのか!』


 今の今まで隠していたのだ。

 油断を誘う為であったのだろう。


 『クソ! 薄汚ねぇ土人の癖に騙しやがったなぁぁぁ!』


 船長は激しく怒り、唾をまき散らしつつ怒鳴った。


 『帆をどけろ! 何も見えねぇ!』


 怒りに任せて部下に命じる。


 『あいつら、どこへ行きやがった?』


 大急ぎで船の上を片付け、被害の状況を確認しつつ敵船の出を伺う。

 兎にも角にも帆の破れが大きく、航海に支障をきたす程だった。

 人的な被害は怪我人が多少出たくらいで、死者は出ていない。 


 『船長! 横から突っ込んできますぜ!』

 『クソッ!』


 初めに思った通り、船を近づけて乗り込むつもりなのだろう。 


 『調子に乗りやがって!』


 まんまとしてやられた自分に腹が立つ。

 この恨みを晴らすには、敵を片っ端から八つ裂きにし、さめの餌にでもしてやらねば気が済まない。 


 『近づいて来るなら都合がいい! お前ら、やつらの船を逆に奪ってやれ!』

 『合点でさぁ!』


 海賊達は不敵に笑った。




 「来たな」


 後続の輸送船が沖に現れた。

 アイルランドへと鉄砲などを運ぶ役を担う。

 勝二の乗っている船は先行して偵察し、場合によっては戦闘を行う事を目的としていたので、出来るだけ荷を積まないようにしていた。

 敵の拠点があれば潰し、付近の掃討と自陣の拠点作りもせねばならない。

 その為、兵糧と人も運んでくる。

 

 「死にたくねぇなら働くんだな」


 豊久が捕まえた海賊達に言う。

 船上での戦闘は数人を叩き切ったところで片がつき、残りは大人しく投降したのだった。

 作戦は秘匿せねばならないので皆殺しが適当だが、降参した者を斬る事は躊躇われる。

 数年の奉公を条件に解放する旨を伝え、蝦夷地での拠点作りに従事させる事にした。

 

 「さあ、俺達は出発だ」


 足を止めている暇はない。

 弾薬などを補充し、錨を上げた。

 時に島の反対側から上陸し、夜の闇に紛れて敵の基地を強襲する事もあった。

 海上の霧に紛れて近づき、大砲を浴びせて航行不能にさせた事もある。

 そうやって北方四島からイングランド人を追い出しつつ、千島列島沿いにアイルランドへと向かった。


 『あれは!』


 前方を見つめていたネイルが叫んだ。

 遠くに小さな小さな島が見える。

 ネイルは喜びに溢れた顔で言った。


 『あれこそ我らが祈りの島、シュケリッグ・ヴィヒルです!』


 一行はアイルランドに到着した。

海皇紀の洋上シーンをイメージしましたが、力不足でこれが限界でした・・・

以後、しばらくは幕間の話で、信長のネーデルランド遠征記となります。

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