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第127話 信親の嫁取り問題

 「父上、お話したい事がございます」

 「どうした?」


 諸侯を交えた話し合いが済み、信忠が申し出た。

 

 「叔母上の娘である三姉妹の事なのですが……」


 言いにくそうに口にする。

 それだけで信長にはピンときた。


 「嫁がせるつもりか?」

 「ええ、まあ、はい」


 やはりであった。

 武家の子女であれば当たり前だが、となれば当然、次の疑問が浮かぶ。


 「どこだ?」

 「佐竹殿の嫡男、義宣よしのぶです」

 「佐竹?」


 信長は思わず面食らう。

 娘を嫁に出すのは主として同盟関係を強くする為だが、正直に言って佐竹家との関係を深めても、織田家としては得られるモノが少ない。

 しかもその娘は当代一の美女との呼び声高いお市の子であり、かつ織田家は日本における最大勢力である。

 乞われて嫁に出しはしても、こちらから嫁に出す理由が見つからなかった。

 とはいえ信忠は織田家の頭領である。

 考えあってのモノであろう。 

 

 「正室にか?」

 「いえ、義宣(14)は既に那須家から嫁をとっております」

 「側室に出すのか? そうまでしてどうして佐竹に?」


 余計に分からなくなった。

 父親の思いが理解出来るのか、信忠はその理由を説明した。


 「北関東連合は対北条家で纏まっておりますが、これ以上、関東平野で戦を起こして欲しくないからです」

 「戦をして欲しくない?」


 弱気な事をと言われる前に続ける。


 「関東平野は肥沃で広大でした」

 「ほう? そういえば儂の留守中、北条と佐竹で戦があったそうだな」

 「はい。その際、この目でかの地を見て参りました」

 「治水が為されていないと聞くがな」

 「それはつまり可能性に満ちているという事です」

 「はっ! 言いよるわ!」


 息子の言葉に信長は笑った。


 「肥沃で広大、開発のしがいがあるなら、我が物にするとは考えないのか?」

 「それではいつまで経っても戦が終わりません!」

 「ほう?」


 声を荒げた息子におやという顔をする。

 正面切って反論するなどこれまでなかった。  

 自分のいない間に変わったらしいと愉快に感じる。

 父親がそんな事を思っているなど思いもしない信忠は、熱の籠った調子で話をした。


 「北条、反北条の間で戦を起こさせず、治水を進めて一面の水田とすれば、関東平野は必ずや日ノ本一の米どころとなりましょう!」

 「ふむ」


 その言葉に信長は頷く。 

 勝二の提言でもあった事だ。 


 「民草は天候の変化に不安を抱き、米の不作を恐れております。関東平野を開発出来れば、米の不足に怯える民草を慰撫出来るでしょう」

 「それは理解したが、どうしてお市の娘を佐竹に出す?」


 理由は納得したが、それが分からない。

 織田、徳川、北条、上杉が手を結んだ今、北関東など容易く潰せるだろう。 

 そう顔に書いてある信長に述べる。


 「今は争い事をしている場合ではない」

 「何?」


 息子の言葉にカチンときた。

 諭されているようで気に食わない。

 怒気に染まる前に信忠は言った。


 「織田家から佐竹に娘を出せば、我らは北条と佐竹の争いを望んでいない、日ノ本の安寧を願っているとの証明になりましょう!」

 「ククク」

 

 以前に出した勅旨の内容をなぞられ、一本取られたと信長は笑い出した。

 ひとしきり笑い、言う。

 

 「佐竹にははつをくれてやる」

 「ありがとうございます!」


 信忠は頭を下げた。

 三姉妹の真ん中、初は14歳で義宣と同い年である。

 ホッと安堵する織田家の頭領に信長が独り言のように呟く。


 「諸侯が大坂にいるついでだ、茶々らの嫁ぎ先も決めておこう」

 「それは?!」


 思わぬ展開に信忠は戸惑った。


 


 「ならぬ!」

 「父上!」

 「ならぬと言ったらならぬ!」


 滞在用の屋敷にて長宗我部元親が頑なに拒否した。

 折角大坂まで来たのだから京にも行けばよいと、信長の好意で各大名に用意された格安の家屋敷である。

 金を取るのかと一度は疑ったが、よくよく考えてみれば料金に見合わぬ調度品の豪華さだった。

 タダでは心苦しいだろうと金を取ったのだなと諸侯は得心した。

 権威の象徴である京の御所は、戦国大名にとっては憧れであり、生きている間に一度は目にしたい場所。

 諸侯らは信長の配慮に感謝し、その経済力に驚いた。


 元親もその一人であるが、そこで嫡男信親と久方ぶりの再会を果たす。

 危険を冒して異国へと渡った、その将来を期待する自慢の息子。

 無事の帰国を喜ぶと共に、精悍さを身につけた嫡男の姿に旅に出して正解だったと思った。

 しかしその息子から、耳を疑う申し出を受ける。


 「異国の女を側室にするなど認めぬぞ!」


 取り付く島もない。

 信親はそう思った。

 四国統一という偉業を成し遂げた、敬愛する父との再会は喜びに溢れていたが、まさかここまでサラを側室に迎え入れる事に反対されるとは考えていない。

 その辺りは勝二が懸念していたが、自分の父親がここまで頑固とは認識していなかった。


 「どうしてそこまで反対されるのです?」


 思い余って父親に尋ねた。

 息子の言葉に強い調子で言い返す。


 「伴天連など邪教に過ぎぬ! そのような教えを信じる者を長宗我部家に入れる事は許さぬ!」 

 「彼女は伴天連ではありません!」

 「誰が言った?」

 「彼女自身です!」

 「そなたをたぶらかしておるに決まっておる!」

 「彼女はそのような者ではございません!」 

 「ええい信親、色に迷ったか!」

 

 これには普段は温厚な信親も腹に据えかねた。

 怒りの声を上げようとしたその時、二人の間に割って入るように報せがもたらされる。


 「元親様!」

 「一体どうした?」

 「信長公より早馬です!」

 「何?」


 城を去ったのは昨日である。

 何かあったのかと家臣に尋ねた。 


 「詳しい事は分かりませんが、直ぐにでも城に来て欲しいとの事です」

 「うーむ、已むを得まい。今から向かおう」

 「心得ました」


 そして何か言いたげであった息子を見やる。


 「二度は言わぬ。その女は諦めろ」


 そう言い残し、信親を置いて城へと向かった。

色々と無理があるのでしょうが・・・

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