幕間その5 北条、南関東を制す
出発前。
信長「硝石丘法の進み具合は?」
蒲生氏郷「五箇山の土を定期的に補給した結果、予定よりも早く硝石を採取出来そうです」
信長「ほう?」
氏郷「五箇山の生産規模拡大も順調に進んでおります」
信長「そうか。引き続き励め」
氏郷「畏まりました」
信長「街道はどうだ? 信忠から順に説明せよ」
織田信忠「東海道は問題ありません」
羽柴秀吉「山陽道も道の選定が済み、工事を順次進めて参ります」
明智光秀「山陰道ですが、思った以上に山が険しく、難航しております」
柴田勝家「坂越道は問題ありませぬ」
筒井順慶「南海道は今の街道を拡張していく予定です」
信長「街道は物流の要だ。各自励め!」
一同「ははぁ!」
信長、スペインへ発つ。
信忠「行ってしまわれたか……」
一益「お館様がこの地におらぬとは、何とも不思議な感覚です」
信忠「そうだな」
一益「知らず、お館様に頼る心があったようです」
信忠「儂もそうだ。改めなければな」
一益「我ら一同、信忠様に尽くす所存です」
信忠「お父上のようにはいかぬが、天下を安定させる為にも宜しく頼む」
夏。
信忠「今年は雨が降らぬな」
一益「百姓達が嘆いておりますぞ」
信忠「恐れていた事態が遂にやって来たという事か?」
一益「幸い、例年通りに雨が降っている地域もあるようです。毛利公、北条公の領地では問題ないと」
信忠「それを聞いて安心した。今年は米を融通してもらう事になりそうだ」
一益「昨年は我が方から随分と小麦を運びましたからな」
信忠「街道を整備しておいた甲斐があったというものだ」
一益「お館様はこれを見越しておったのですな」
信忠「慧眼、であるな」
秋を過ぎ、北条家より早馬来たる。
家臣「氏政公より火急の報せにございます!」
信忠「何事だ!?」
家臣「佐竹の軍が侵攻して来たとの事で、援軍を要請しております!」
信忠「何故?」
家臣「佐竹ら北関東勢の多くは不作だそうです!」
信忠「それでか!」
家臣「どうなさいますか?」
信忠「互いで争っている場合ではなかろうに!」
一益「考えようによっては、争いこそが最善やも知れませぬ」
信忠「最善? どういう意味だ?」
一益「いえ、戦で人が多く死ねば、それだけ食い扶持が減りまする故」
信忠「非情だな」
一益「織田家の繁栄を思えばこそです。また、北条、佐竹共に人が減れば、我らに回る米も増えましょうぞ」
信忠「それは浅慮であろうな」
一益「信忠様のお考えをお聞かせ願いたく」
信忠「戦の巻き添えで死ぬのは百姓達だ。百姓達が減れば、来年に畑仕事をする者がいなくなるぞ。ただでさえ足りない米や麦が更に足りない事態となろう」
一益「感服致しました」
信忠「援軍として北条へ行くぞ!」
一益「信忠様?!」
小田原城。
氏政「敵軍はどうだ?」
風魔小太郎「佐竹連合軍の本隊はそのまま、別動隊が小山城を攻めております」
氏政「陽動か?」
小次郎「恐らくは」
氏政「かと言って見捨てる事は出来ん。兵を送るぞ」
家臣「殿! 織田、徳川より援軍が来ます!」
氏政「良し! して、数は?」
家臣「併せて1万です!」
氏政「心強い」
氏政「ところで上杉は動いておらんな?」
小次郎「佐渡島を攻めている以外、目立った動きはありません」
氏政「ひとまず安心だな」
家臣「殿、我らはどうするのですか?」
氏政「敵本隊を叩く」
家臣「ははっ!」
氏政「これを機会に争いに終止符を打とうと思う」
家臣「それは?!」
氏政「勝二の予想した通りの天候となった今、関東の地を遊ばせている事は出来ぬ。争いを止め、治水をし、開墾を進めてもっと米や麦を作らねばなるまい」
家臣「その為には佐竹らを追い出すしかないのでは?」
氏政「そうだな。だからこそ負けられぬ」
氏政の出迎え。
氏政「信忠公、家康公御自ら援軍に?!」
信忠「一度関東の地を見てみたいと思っていたのです」
家康「某も同じですな。それにしても関東250万石、誇張でも何でもありませんな」
氏政「それもこれも戦に勝たねば始まらぬ」
信忠「左様、勝たねば」
北条、織田、徳川連合軍と北関東連合軍との戦は、一進一退の攻防が続いた。
地の利のない織田、徳川軍は苦戦を強いられていた。
信忠「ええい、情けない! 父上あっての織田軍かと陰口を叩かれるぞ!」
信忠「者共、気張れぃ!」
織田軍「おおぉぉ!」
家康「ふっ。織田家は安泰なようだ」
忠勝「そのようですな」
北条連合軍、北関東連合軍を破り、勢いのまま佐竹領へと侵攻。
瞬く間に佐竹の本城、太田城まで攻め寄せる。
窮した佐竹は和睦を申し出た。
佐竹義重「負けを認める」
信忠「その心意気や好し」
家康「潔し」
氏政「坂東太郎と恐れられるだけの事はある」
その後、関東の境界が定められた。
義重「何? 北条は武蔵と下総に引くだと? 前より減っているではないか!」
家臣「何でも、今は争う時ではないと」
義重「何を呑気な事を! こちらは飢えを心配しておるというのに!」
家臣「それなのですが……」
義重「どうした?」
家臣「北条より米の差し入れと、米作りの道具一式を教本と共に頂戴しております」
義重「何だと?!」
家臣「飢えとなり、真っ先に苦しむのは貧しい民だと。また、保温折衷苗代とやらを活用すると、冷害に強く収獲も早まるそうです」
義重「それで北条は不作とならなかったのか!」
家臣「織田家の同盟国で広まり始めた技術だそうです」
義重「……惨敗だな」
小田原城。
信忠「これで良かったのですか?」
氏政「領地も増やし過ぎると手に余る。我らが統治出来る範囲に収めただけの事」
家康「統治出来る範囲にしても、この地を開墾するのは心が躍りますな!」
信忠「それは言えている」
氏政「関東の地を日ノ本一の米どころとするつもりだ」
信忠「それは心強い!」
家康「やはり米が穫れれば安心が違うからのぅ」
氏政「民が安心して暮らせる世の中は、食べ物にも困らぬ世の中なのでな」
信忠「成る程」
家康「名言ですな」
幕間はこれで終了です。
次話、信長の帰国となります。
※水戸城から太田城に変更しています。




