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幕間その4 九鬼嘉隆の船作り

 大友征伐を終えて。

信長「南蛮船を作れ」

九鬼嘉隆「承りましたが、私とて幾度か目にしただけにございます」

信長「手本を用意しておる」

嘉隆「手本でござますか?」

信長「うむ。勝二!」

勝二「ははっ!」


勝二「この度、スペインの持つ南蛮船を二つ手に入れました。片方は部品に分解して研究し、片方は完成品としてご参考下さい」

嘉隆「それはありがたい」

勝二「全ての文字を訳すまでは出来ませんでしたが、船を作る図面がこちらです」

嘉隆「おぉ!」


嘉隆「これは何を表しておるのか? 見たところ材木の寸法のようだが……」

勝二「それは彼らが用いているアラビア数字です。換算表を貼り付けておりますので、ご確認下さい」

嘉隆「かたじけない」


勝二「南蛮船を作るに当たり、守って頂きたい順序がございます」

嘉隆「何かな?」

勝二「まずは全ての寸法を二十分の一にした模型を作り、南蛮船がどのような物か見当を付けて頂きたく思います。いきなり同じ物を作ろうとすると、失敗した時に無駄になるお金が大きくなるからです」

嘉隆「心得た」

勝二「次に縮尺を変えて一人用、十人用の船をいくつか作り、実際に水に浮かべ、帆の操り方などを水軍の兵に学ばせて頂きたく思います。この船の帆柱は一本で構いません」

嘉隆「それは何故?」

勝二「南蛮船は大小様々な帆を組み合わせ、巧みに動かして船を操ります。帆を動かす感覚を覚えて頂きたいのです」

嘉隆「成る程」


勝二「そして最後に重要な事がございます」

嘉隆「何かな?」

勝二「実はスペイン船は重大な欠点がございますので、それを克服して頂きたいのです」

嘉隆「何だと?!」

勝二「スペイン船は重心が高く転覆しやすいのです。また、見栄えを重視しており速度が出ません。これらを改良して下さい」

嘉隆「うーむ、言わんとする内容は理解するが……」

勝二「島津家が拿捕したイングランド船が一応の目標です」

嘉隆「あれか? そういえばこの船と比べ、随分と背が低かったな」

勝二「絵に描きましたのでご参考までに」

嘉隆「かたじけない」


信長「蘭丸、持ってこい」

蘭丸「ははぁ」


信長「金だ。使え」

嘉隆「有り難く頂戴致します」

信長「大海の荒波に負けぬ、丈夫な船を作るのだ」

嘉隆「畏まりました」


 嘉隆の南蛮船作り。

舟大工長「これを作れと?」

嘉隆「お館様直々のご命令だ」

工長「嫌と申しておる訳ではありませぬ。ただ、何分初めて見る物でして……」

嘉隆「だろうな。中に入って構わぬぞ」


工長「船の作りが大きく違いますな」

嘉隆「五代殿によれば竜骨という柱の有無が一番の違いらしい」

工長「これでございますね。想像ですが、大黒柱のような役割を持っているのでしょう」

嘉隆「どうやらそのようだ」

工長「細かい部材をいくつも組み合わせ、船を作り上げているのですな。南蛮人の船作りは複雑ですな」

嘉隆「部材の寸法はこれだぞ」

工長「これは?! 南蛮では全て紙に書いておるのですか!」

嘉隆「そのようだな」


嘉隆「まずは全ての寸法を二十分の一とした、小型の舟を作るのだ」

工長「二十分の一? それでは人が乗れぬかと」

嘉隆「構わぬ。南蛮船がどのような物か、大体を把握するのが目的なのでな」

工長「それは名案です」

嘉隆「その際、船の片方は壊して構わぬ」

工長「何ですと?!」

嘉隆「部材を一つ一つにまで分解し、形を見よ。紙に書かれているだけでは分かりにくかろう」

工長「それは誠に有難いです」

嘉隆「頼んだぞ」

工長「お任せあれ」


 数日後。

工長「出来ましたぞ!」

嘉隆「早いな」

工長「二十分の一ですからな」

嘉隆「これか?」

工長「しっかりと水に浮きますぞ」

嘉隆「うむ。次は一人用の舟だな、頼むぞ」

工長「早速取り掛かります!」


工長「うーむ、合わぬ……」

嘉隆「どうした?」

工長「いえ、部材が組み合わないのです……」

嘉隆「寸法通りにしても、個々の調整は必要だそうだ」

工長「そうなのですか? それなら」


 数十日後。

工長「出来ましたぞ」

嘉隆「うむ、しっかりとした南蛮船だな」

工長「高さを抑え、ひっくり返りにくくしております」

嘉隆「絵を参考にしたのだな」

工長「……はい」

嘉隆「どうした?」

工長「実はこの舟は二隻目なのです」

嘉隆「どういう意味だ?」

工長「一隻目は寸法通りに作ったのですが、水に浮かべてたらひっくり返ってしまい、使い物にならなかったのです」

嘉隆「左様か」

工長「そこで嘉隆様に言われた事を思い出し、絵を引っ張り出して大慌てで作り直したという訳です」

嘉隆「そんなに違ったか」

工長「舟の重さも関係しているのかもしれません」

嘉隆「その辺りは分からぬが……」


嘉隆「ではこの舟と同じ物を十隻、作るのだ」

工長「畏まりました」

嘉隆「同時に兵の訓練だったな。今日は風も穏やかだ、まずは儂が乗ってみるか」

工長「嘉隆様が、でござますか?」

嘉隆「心配致すな。五代殿に頂いた教本は何度も読んだので頭に入っておる」

工長「お気をつけ下さい」


嘉隆「順風は問題ないが、逆風では全く進まぬ……」

嘉隆「理屈は分かっておるのだが、加減が難しいな……」

嘉隆「お?」

嘉隆「逆風にもかかわらず、確かに進んでおる!」

嘉隆「糞! また止まってしまった!」

嘉隆「風を掴まねばならぬのだな!」

嘉隆「成る程、練習が必要な訳だ!」

嘉隆「早速若い衆にやらせよう!」


信長のスペイン渡航前。

工長「完成しましたぞ!」

嘉隆「出来たか!」

工長「どうにか間に合いました!」

嘉隆「良し! 早速大坂まで運ぶぞ!」


 大坂。

信長「ほう? あれが新型船か」

嘉隆「左様にございます! イングランドの船を参考に、スペインのガレオン船を改良しております!」

信長「良く出来ておるな」

嘉隆「有り難き幸せ!」

信長「試乗してみるか」

嘉隆「お任せ下され!」


信長「中も綺麗に出来ておるな」

嘉隆「ははっ!」

信長「荷を積んでみるか」

嘉隆「荷物でございますか?」

信長「何、人を多く乗せるだけだ」

嘉隆「仰せのままに」


信長「おや?」

嘉隆「どうかなされましたか?」

信長「ここから水が漏れておる」

嘉隆「何ですと?!」

信長「ここだ」

嘉隆「た、確かに漏れております……」

信長「多少の水漏れは避けられぬが、これはちと多いようだな」

嘉隆「も、申し訳ございません!」

信長「船の安全は命に係わる。この船はこのままでは使えぬな」

嘉隆「直ぐに修理させます!」


 嘉隆の責任追及。

柴田勝家「お館様の身を危険に晒すとは何事だ!」

嘉隆「返す言葉もございませぬ!」

丹羽長秀「よもや未完成の物を持って来たのではあるまいな?」

嘉隆「決してそのような事は!」

勝家「言い訳するでない!」

長秀「その責任、いかに取るつもりだ?」

嘉隆「腹を切り申す!」


信長「下らぬ事は止めよ」

勝家「しかしお館様、あのままあの船に乗っていたら沈没していたやもしれないのですぞ?」

長秀「その通りです。水が漏るかどうか良く調べもせず、完成したとするのは問題なのではありませんか?」

信長「その方らの申す事も尤もだが、荷を載せるよう指示したのは儂だ。それに船作りは嘉隆が一番分かっておる」


勝二「お恐れながら申し上げます」

信長「言え」

勝二「ははっ! 完成品の品質を一定に保つ為、点検項目を定めれば宜しいのではないでしょうか」

信長「詳しく申せ」

勝二「畏まりました。たとえばですが、荷が空の状態で水漏れがないか、最大限積んだ状態でも漏れないか、船を揺らして転覆しないかなど、点検すべき項目を書いた紙を用意し、毎回必ず確認するようにするのです」

信長「成る程」

勝二「確認が終われば、確認した本人がその名前を記入し、誰がやったのか分かるようにします」

信長「今回の事で言えば、空の状態では水漏れを調べたが、荷を満載した状態では調べていなかったという事だな」

勝二「仰せの通りです」

信長「嘉隆よ、次からはそのようにして進めよ」

嘉隆「畏まりました!」

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