表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
122/192

第121話 ハーレム!

イメージですので正確ではありません。

 「鎖がないだけで気分が違うな!」

 「まさに!」


 奴隷から解放されて自由の身となり、一行はオスマン帝国の都を気ままに歩いていた。


 「空の色さえ違って見えるぜ!」

 「世界が輝いているようです!」

 

 見る物全てが新鮮で、色彩豊かに見える。

 生まれ変わった気がした。  


 『助かった。礼を言う』


 新たに加わったモランが、マサイの言葉で感謝を述べる。

 現れたヨゼフに費用を出してもらい、信長の考えで彼も助けた。

 見どころがあるから、らしい。


 『私は、マサイの言葉を、あまり、知りません』


 勝二は予防線を張った。

 事実、簡単な会話くらいしか出来ない。

 それでも、故郷の言葉が分かる者がいるというのは嬉しいらしい。

 檻に入れられていた時間が長かったのか、足腰の筋肉が衰えているようで、普通に歩く事さえも苦労していたモランだったが、自由という喜びに全身で打ち震えている様子が見て取れた。


 『女達は無事なのか?』


 思い出したように信長がヨゼフに問うた。

 奴隷市場では別々の場所で管理されていた。

 女の奴隷は男とは別の用途があり、高い値段で取引される。


 『先に救いだし、宿で休んでもらっています』

 『すまぬ』


 信長が礼を述べた。

 ついでとばかり、通りを進む一行にヨゼフが言う。


 『今日はこのまま宿に泊まって体を休め、身支度を整えてから宮殿に向かいましょう』


 誰も反対しない。

 何よりもまず水を浴び、身を清めたかった。

 

 『ご無事でしたのね!』


 宿に到着し、涙を浮かべたイサベルらに出迎えられた。




 『サフィエ様にお会いする為、皆さんにはトプカプ宮殿に向かって頂きますが、いくつか注意点があります』


 数日後、再びヨゼフが顔を出した。


 『サフィエ様は後宮ハーレムに属しておりますので、本来であれば皆さんと軽々しくお会いする事の叶わない身です。今回は特別な事としてご理解願います』


 宮殿での振る舞いなどについて説明が為された。

 



 「勝二よ、ハーレムとは何だ?」


 ヨゼフが去り、信長は疑問に思った事を尋ねた。

 話の腰を折ると長くなるので、時間の有効活用である。


 「イスラム教徒において、食べても良い食品などの規定をハラールと申しました。ハーレムは女性、特に婚姻関係にある夫人についての規定とお考え下さい」


 勝二は知っている事を述べる。 


 「ムスリムにおいては性的倫理を厳守する為、男女間には適切な隔離が必要だと考えられており、夫のいる女性は、その夫と子供、親族以外の男とみだりに接してはならないのです」

 「何と窮屈な事よ!」


 信長が嘆息した。

 あれこれ禁止される教えは面倒な事この上もない。


 「その為、他の男が入ってはならない空間を屋敷の中に設け、客がいる間などはその中で過ごします。その空間の事をハーレムと呼びます」


 勝二は現代人である。

 日本のサブカルチャーにおける、ハーレムという概念は理解しているが、イスラムの実際を知っているので誤解はない。 


 「トプカプ宮殿はオスマン帝国の皇帝が住んでいるのですが、宮殿には皇帝の住む区画、外部の者が入れる区画、そして皇帝以外の男は原則入れない後宮ハーレムに分かれています。一説によるとハーレムには千人の女性がいるとか」

 「千人?! 女のそのかよ!」


 幸村が驚き、叫んだ。

 多くの男にとっては夢のような話だ。

 しかしここで、側室だけで10人近くいた信長より疑義が発せられる。 


 「それで国がまとまるのか? 側室は他家と血縁を結び、国を安定化させる為でもあるのだぞ?」


 同盟関係の強化、争いの未然防止など、目的は様々である。


 「オスマン帝国は君主に権力が集まり、他の有力者と血縁関係を結ぶ必要がなくなったようです」

 「左様か。羨ましい状況に思えるが、制限のない力は暴走しがちであろうな」


 信長がしたり顔で言った。

 どの口でと思わずツッコミそうになり、勝二は慌てて自制した。

 長旅を共にし、多少の事は大目に見てもらえるが、はき違えては不味い。

 誤魔化すように説明を加える。


 「皇帝は他家から嫁を取らず、気に入った女の奴隷を集めては寵愛を注ぎ、後継者を生ませているようです」

 「成る程、これから会うサフィエとやらはそれか。奴隷に身を落しながら皇帝の寵愛を獲得し、後継者を生んで権力を持った訳だな」


 江戸時代の大奥、歴代の中華王朝でも同じ事が言える。


 「しかし、イスラム教徒はそれで良いのか? 神の前には誰もが同じではなかったのか? 富がなければ不可能であろう?」


 別の疑問が生じる。


 「教祖ムハンマドの時代は戦が続き、寡婦かふが増えて困窮する事が多かったようです。ですのでハーレムを設ける事が出来るような男は、むしろ寡婦を助ける意味でも、出来るだけ養うのがイスラム的に正しいのです」

 「左様か」


 そう信じているなら好きにすればいい、信長はそう思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ