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第103話 男女7歳にして席を同じゅうせず

 『ご招待するのは織田様、島津様、それぞれのお付の者数名となります』


 招待状を持って来たカルロスが言った。

 舞踏会に参加出来るのは主として貴族だけである。

 日本の使節団で相当するのは織田信長、島津家久だけであり、誰でも良いという訳ではない。

 初めて聞く単語に信長が問う。


 「舞踏会とは何だ?」

 「男女が音楽に合わせて踊る催しです」


 その説明に、身近なモノを想像した。 


 「盆踊りのようなモノか?」

 「いえ、全く違います」

 「まいか?」

 「それとも違います」


 埒が明かず、イライラして言った。


 「ええい、この場でやってみせよ!」

 「私がですか?」

 「他に誰がいる!」


 察しの悪い家臣にイライラが募る。

 

 「いえ、私は社交ダンスが苦手でして……」

 「つべこべ言うな!」

 「ははっ!」


 言い訳に激怒し、雷を落した。 

 

 「仰せの通りにお見せ致しますが、これは一人では出来ませんので少々お待ち下さい」

 「早う致せ!」


 吐き捨てるように言った。

 主の不機嫌さに勝二は慌ててカルロスに頼み込む。  


 『舞踏会で踊るダンスとはどのようなモノか、我が主に説明したいので、カルロスさん、お相手出来ますか?』

 『構わないが、肝心の君は踊れるのかい?』

 『男の側でしたら何とか』

 『いや、私も女役は無理だよ!』

 『そうなのですか?!』


 困った事態である。

 頼みの綱が切れてしまった。


 『侍女の誰かに頼めませんかね?』

 『無理じゃないか?』


 侍女にそのような教育は為されない。

 踊れる方が不思議だろう。 

 これ以上信長を待たせるのは不味いと思ったが、良いアイデアが浮かばない。

 焦る勝二に何かを思いついたのであろうか。

 

 『そうだ!』


 閃いたという顔をした。


 『誰かいますか?』


 早く言ってくれと催促する。

 そんな勝二にニンマリと笑いかけた。


 『イサベル王女殿下に頼もう!』

 『え?!』


 思ってもみない人物の名前を出してきた。


 『イサベル様は君達に興味津々だ。二つ返事で引き受けて下さるに違いない!』

 『そんな人に来られてもこちらが困るのですが……』

 『そんな事を言っている場合ではないだろう?』

 

 あれを見ろとカルロスが目線を送る。

 そこには堪忍袋の緒が切れそうな信長がいた。

 勝二の視線に気づき、怒鳴る。 


 「いつになったら踊るのだ!」

 「一緒に踊って頂ける方をお呼びしますので、今暫くお待ちを!」


 やむなしと判断し、カルロスに頼んだ。


 『王女殿下でお願いします!』




 『ワタクシの力が必要とか!』


 目をキラキラとさせてイサベルが部屋へやって来た。

 歓迎式典で見た仰々しい衣装とは違い、シンプルな見た目で動きやすそうな服装である。

 勝二は頭を下げた。


 『我々の多くが舞踏会を知りません。どのようなモノか、ここでダンスを披露したいのですが……』

 『喜んで!』


 躊躇いなく言い切る王女にホッとする。

 ホッとするのも束の間、信長の冷たい声が響く。


 「まだ始めぬのか?」

 「只今!」


 慌てて王女に手を差し伸べ、言う。


 『踊って頂けますか?』

 『はい』


 イサベルの手を取り、部屋の真ん中へと誘う。

 記憶をほじくり返し、冷や汗を流しながら華麗ではないステップを踏んだ。




 『多少ぎこちないですがお上手ですわね』

 『ありがとうございます』


 お世辞とは分かっていたが、それでもありがたかった。

 大役を演じ終え、観客と向き直る。

 見ていた者達は呆然としていた。


 「このような感じです」


 現実に引き戻すつもりで仕える者へと声を掛けた。

 信長は勝二の声にハッとする。


 「男と女が手を握り合って踊るだと!?」

 「見た通りです」


 やはりそこかと思った。

 日本の伝統の中で、男女が手を握り合って何かをするというのは多くはないだろう。

 目の当たりしてギョッとするのも無理はない。


 「それも大勢の前でか!?」

 「舞踏会の参加者は多いと思います」


 家の中でならば手を握る事もあろう。

 しかし舞踏会では観衆の目に晒されている。  

 信長が叫んだ。


 「破廉恥な!」

 「破廉恥!?」


 およそ彼らしくない言葉と思いながらも、その心情は痛いくらいに理解出来た。

 恥ずかしいのだ。


 「そのような真似が出来るか!」

 「ご尤もです」


 なのでその発言も納得出来たが、舞踏会はそれだけが目的ではない。 

 

 「公衆の面前で男女が手を取り合って踊る。我々には面食らう西洋の文化です。しかし、舞踏会は貴族の社交の場として使われていますので、情報交換等も活発に行われております。踊らないまでも参加だけはしておいた方が宜しいかと」

 「うーむ」


 商社マンであった勝二には、むしろその為にこそ参加すると言っても過言ではなかった。

 特に今回はフェリペが主催する。

 国の貴族達に噂の日本人をお披露目するのが目的であろう。

 珍しい生き物を見せびらかしたいだけなのか、深い意味があるのかは分からない。

 従って参加すればいいだけで、踊り自体はオマケだ。


 「踊れない者に無理強いはしない筈ですし」

 「出来ぬとは言っておらんぞ!」


 勝二の言い方にムッとしたのか、眉間に皺を寄せて反論した。


 「しかし踊る為には稽古が必要ですし、その稽古も女性の協力あっての事となります」

 「むむ」


 パートナーと息を合わせる必要があるので、一人で練習するのも難しい。


 「舞踏会まで時間が残されておりませんし、私は人に教えられる程上手くはありませんし、今回は舞踏会とはどんなモノかと眺めるだけで宜しいのでは?」

 「その方は踊れるのであろうが!」


 信長が不満げな顔をする。

 まさかの嫉妬であった。

 家臣が出来るのに自分は出来ないという状況が面白くないのかもしれない。

 見るだけなら簡単そうだから尚更であろう。


 『どうしました?』


 不穏な空気を察し、イサベルが間に入る。

 勝二は事情を説明した。


 『でしたらカタリーナも呼んで皆さんを特訓致しましょう!』

 『ええっ?!』


 我ながら素晴らしいアイデアだとイサベルは思った。

 

 「どうした?」


 信長に問われ、勝二が王女の言葉を説明する。

 すると何を思ったか、イサベルに向き合いスペイン語で言った。


 『宜しく頼む』

 『喜んで!』


 特訓が始まる。

イメージです。

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