8話 召喚者
静かな水の底から、自分の体が浮上するような感覚。
おそらくあの女神様の所からクラスメイト達が召喚されたと言う場所に移動しているんだろう。
ってかあの女神様凄く良い人・・・ひと?神?だったな。
また、会えると良いなぁ。
***
「ん、んーーっ!」
ゆっくりと意識が浮上した俺は少し伸びをする。
あたりを見渡すと大きな広場のような場所にクラスメイト達が倒れている。
見た所目が覚めてるやつは居なそうだから多分俺が一番最初に目を覚ましたって感じかな。
「あっ、お目覚めですか勇者様!」
とキョロキョロしてた俺に声をかけて来た奴がいる。
勇者様って・・・・ウケる。
話しかけて来たのはゆるりとウェーブのかかった金髪に青い目をした少女だった。
簡素だが品の良さそうな純白のワンピースを身につけしとやかな仕草で俺の元に駆け寄ってくる。
多分この子は召喚の儀式をしていた子なんだろう。
ひとまず普段通り気弱なキャラでいっておくか。
「あ、あのここは何処なんですか?」
「すみません、混乱していらっしゃいますよね。」
俺の怯えた演技に物凄く申し訳なさそうに眉尻を下げる。
あどうしよう、罪悪感半端ない。
てか関係ないけどすっげーかわいい顔してんな。普通に美少女じゃね?
余計に罪悪感なんだけど
「いやっ!そんなでもないよ!?」
「お気遣いいただきありがとうございます。ですが突然見知らぬ土地に連れてこられて混乱するなというのは酷な話でございますから。」
うわ、本格的に落ち込んでる。
俺は女神様に事情を聴いたから本当に混乱してないんだが、、、、
実際にどう説明したものか。
「あ~、さっきは一応おびえたふりしたけど別になんともないから。」
「?・・・おびえたふりですか?」
「うん、実は俺ね、、、、」
考えるのが面倒なので俺はここに来るまでの話を正直に話すことにした。
元の世界の人に話したら正気を疑われるような内容だがあの女神様曰くこの召喚はこの世界の神が関係してるらしいし多少なら信じてもらえるだろう。
「ま、そんな訳で俺は何が起きたのかは把握してた訳。」
「なるほど、そんな事が。さすが勇者様ですね。」
「・・・・あのさ?」
「はい、何でしょう?」
「さっきも俺に話しかける時勇者様って言ってたけどなんで勇者様って呼ぶの?」
「?何かおかしな事がありますか?」
あまりにも何度も勇者様って呼ばれるので聞いてみたら心底不思議そうな顔をされた。
うわっ、コテンって首かしげるのかわいいな。
「もしかして俺達勇者として召喚された的な?」
「はい。勇者様をお呼びするために儀式をさせていただきました。ただ、、、」
「ただ?」
「あの、正直に申し上げますと、私はこの儀式を自身を触媒に行ったので儀式によって呼び出された方が感覚的に分かるのですが、、、」
「うん、便利だね。」
「便利と言うか、今回召喚された勇者様は貴方だけなのです。」
「うん?他にも人いるけど?」
てかクラスメイト全員いるけど。
「申し訳ありません。他の方々は勇者様に巻き込まれてしまっただけなのです。」
「巻き込まれ。」
「はい。本当に申し訳ありません、私が未熟なばかりに。」
なるほどね、俺以外は巻き込まれ召喚と。
・・・数、多くね?
普通巻き込まれる人ってひとりじゃね?
「ま、気にしてもしょうがないでしょ。帰る方法はあんの?」
「あ、一応ありますが今すぐと言う訳にもいきませんし色々と条件があるんです。」
「あるなら平気でしょ。」
「ず、ずいぶん軽いですね。」
「正直異世界に来たところで俺にあんまり危険とか無いだろうし他の連中に関しても正直興味無いしな。」
「あ、あはは、、」
俺の発言が衝撃だったのかちょっと引きつった笑みを浮かべる。
・・・そういえば名前なんて言うんだ?
「あの、今更なんだけど名前聞いても良いかな?」
「あっ!私とした事がすっかり忘れてしまっていました。私はウギ・トニア・セフィラ。この国セフィラ聖国の第三王女です。」
「なるほど、じゃあ姫さんって呼ぶね?」
「えっそれじゃ自己紹介した意味ないじゃないですか!」
「へ?」
「あ、あのっ!私の事は是非ウギとお呼びください勇者様!!」
「ああ、まあ名前で呼ぶのは良いけどその勇者様って呼ぶのやめてくれる?」
「~~~~い、良いんですかっ!ではなんとお呼びすれば!」
俺が名前で呼ぶと言った瞬間満面の笑みになって食い気味に近づいてくる。
正直このレベルの美少女にその勢いで近づかれると圧がすごい。
「ゴホンッ、えーと俺の名前は黑神戒人。戒人って呼んでくれ。」
「はいっカイト様ですね!」
「う、うん。あでもな、他の連中に俺の事あんまり知られたくないんだよなぁ。」
「あっ内緒にしているんでしたよね?」
「うん。」
そう、ここに召喚されたクラスメイト達は俺の事をいじめられっ子の雑魚だと思われている。
そんな雑魚が勇者で自分達が巻き込まれなんてこのクラスの屑どもは認めないだろう。
そんな俺のめんどくさい問題に対してひめ、、、ウギは腕を組み思考にふけるように目を閉じた。
なんかすげー申し訳無いんだけど。
「ではこうしましょう。」
「お、何々?」
数分ほど考え込んだウギは何か思いついたのか組んでいた腕をほどきパンッと手をたたきながら提案してきた。
「カイト様は他の巻き込まれた方々に対してはこれまで通りに接してください。」
「それだと勇者として活動出来なくなるんじゃ?」
「ええ、なので他の方々には勇者の仕事と言うことにして安全な仕事をしていただきます。」
「分かった、その間に俺が本当の勇者の仕事をすれば良いのか。」
「はい、幸いなことにカイト様は他の方々にはとても弱いと認識されているのですよね?」
「うん。だからそれを理由に後方支援に徹するみたいな理由で単独行動する訳ね?」
「はい。理解が早いですね!」
そう言うとウギはキラキラした目でこっちを見てくる。
正直この目は苦手だ。 尊敬とか期待とかそんなまぶしい気持ちを向けられることに慣れて無いからな。
「じゃあこの方針でいこうか。」
「はい。」
「そろそろ他の連中が目覚ましそうだからひとまずまだ気を失ってるふりするから。」
「分かりました。私は本当の勇者様の相手をしている感じで他の方々に説明しますね。」
「オッケー。」
「おっけー?と言うのが何かは分かりませんが肯定と受け取ってよろしいですね?」
「あ、うん。」
そうか、英語とか無いからOKとか言われてもわかんないのか。
ん?じゃあ何で会話できてんだ?
・・・・・ま、どうでも良いか。
「ではカイト様、本来の勇者様としての仕事は皆様が寝静まってからカイト様のお部屋にお伺いしてお話させていただきますね。」
「了解。夜は気をつけてくるんだよ?」
「はい、心配していただいてありがとうございます。」
「うん。じゃ、また夜に。」
「ええ、また夜に。」
こうして言葉を交わしてから俺は気を失っているふりを始めた。
その数分後誰かが目を覚ました気配を感じながら俺の意識はまどろみの中に沈んでいった。