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4話 きっかけ

 視点変化・小金井鈴





「おにぃちゃーん!」


「ちょっとアユ!あんまり走らないの!」



 夕方、妹の歩と夕飯のお使いをたのまれスーパーに向かう途中クラスメイトの黑神戒人君に会った。


 歩は戒人君に懐いていていつもお兄ちゃんお兄ちゃんと戒人君にくっついている。



(ちょっと羨ましいって思っちゃうのは小さいのかな。)



 私たち姉妹と戒人君の出会いは遡る事半年前、お正月の夕方になる。


 私たちが()に襲われていたのを助けてもらった時の事。









 ***


 1/1 16:30


 ***



「ふぅ、遅くなっちゃったねー、アユ。」


「お姉ちゃんが福袋決めるの遅いからだよ〜。」


「ごめん、ごめん。」


「アユお腹すいた〜!」



 近所のデパートの元日セールに長居したせいで妹のアユが不満をこぼす。


 つい、色んなお店の安売りに目移りしてしまい夕方までかかってしまったのだから連れ回された妹はたまったものじゃ無いだろう。



「はい、はい。私がわるかったよ。家に着いたらお母さんとお父さんがきっとご馳走を用意してるからちょっと我慢してね?」


「うんっ!おせち楽しみっ!」


「ふふ、じゃあちょっとだけ近道しちゃおっか?」


「えー?お母さん暗くなったら入っちゃダメって言ってたよ?」


「大丈夫だよ。今日は2人だし、ちょっと通るだけなんだから。」



 そう言うと私は妹を連れて路地裏に入っていった。


 家の近所は背の高いビルやマンションなんかが多くて路地裏は昼間でも結構暗かったりする。


 だから親には暗くなってからは通るなって言われてる。

 でもちょっとぐらい近道したって良いよね?



「ほら、もうすぐ家に着くよ?」


「えっ?もう?」


「だからちょっとって言ったじゃん。」



 近道を通り、家に向かうため路地裏から出ると……




 そこは、真っ赤に染まっていた。





 火事?一瞬そう思ってすぐに違う事に気がついた。



 だって、空も雲も沈みかけた太陽も、登りかけた月も、家もお店も道路も信号も電柱も、全部全部全部。


 まるで全て塗り替えられたみたいに真っ赤に染まっている。



「お姉ちゃん、」


「大丈夫、お姉ちゃんのてちゃんと握ってるんだよ?」



 不安げにこちらを見上げる妹にそう声をかけながらも私は内心不安でいっぱいだった。



(お母さんは?お父さんは?他の人は?)



 真っ赤に染まった街には誰もいなかった。



 私は妹を連れて家に向かった。


 真っ赤になった我が家。

 赤以外はいつもと同じ。


 それが今は堪らなく怖かった。



「ただいまぁ。」


「ただいまぁ。」


 恐る恐る鍵を開け、中に入る。 

 いつも通り。挨拶をして。


 でも、返ってきたのはいつもと違う低く大きな唸り声だった。



「グゥアァァァァァァァァァ!!」


「ひっ!」


「おっ!お姉ちゃんっ!」


「大丈夫!大丈夫だからっ!」



 震えながら、でもしっかりと妹を抱きしめる。


 私よりも小さい体で私よりも震える妹に後ろを向かせ、私は家の中に視線をむける。



 すると中から二つの人影が現れた。



「あ、あぁ、」


「グゥ?」



 現れたのは、()、だった。



 大きく膨らんだ筋肉、額から天井に向かってのびるニ本のツノ、真っ赤な肌。



 まさに昔話に出る赤鬼だった。



 二匹の鬼は私と目が合うと、ニンマリと嗜虐的な笑みを浮かべた。


 そしてゆっくりとこちらに近づいてくる。



(逃げなきゃっ!)



 そう思う心と裏腹に体はぴくりとも動かない。



「お姉ちゃん?」


「あ、ああ、」



 腕の中から聞こえる妹の声。

 だけどごめん。お姉ちゃん駄目みたい。


 妹を離す事も出来ず、ただ近づいてくる鬼を眺める事しか出来ない。


 ごめんね?不甲斐ないお姉ちゃんで……



「だれか、助けて……」



 目の前に迫った鬼を前に私は助けを求めて声を発した。


 目の前の鬼はそれを聞き、愉快そうに笑った。







「安心しな、俺が来た。」








 ふと後ろから聞こえた声に振り向くと私たちの横を何かが通り過ぎて行った。


 凄まじ勢いのそれが起こした風に思わずめをつぶると、パァンッととまるで風船が割れた様な音が聞こえた。



 慌てて視線を鬼の方に向けると、そこには上半身がなくなった二匹の鬼と黒いパーカーを着た黒髪の男の子が立っていた。



「大丈夫だったか?」


「は、はい。」



 パーカーの男の子はこちらを向き優しく微笑んだ。



 ……?あれ?この子、どっかで見た事あるような、、、



「「あっ!」」



 私と男の子が同時に声を上げる。



「もしかして黑神戒人君!?」


「違います。人違いです。」


「いやいやいや、人違いだったらそんな顔隠さないでしょ!」


「いや、ほんと違います。隠してるんじゃなくて首がそっち向かないだけです。」


「さっき目合ったじゃん!こっち見てたじゃん!」


「ぐっ」



 私を助けてくれたのはクラスのイジメられっ子、黑神戒人君だった。



「お姉ちゃん、知ってる人?」


「うん、クラスメイトだよ。」


「違います。」


「もう諦めて?」


「いや、諦めたら試合終了だから。」



 さっきまで怖くて動けなかったのに黑神君が来た途端とても気が楽になった。



「お姉ちゃん、このお兄ちゃんスッゴかったんだよ?」


「えっ?」


「ビューンって走ってきて、パァンッて叩いて怖いの倒しちゃったの!」


「見てたの?アユ」


「うんっ!」



 どうやら私とは逆で妹は鬼が倒される瞬間を見ていたらしい。



「はぁ、見られてたのかぁ。」


「そう、みたいだね?」


「見てたっ!カッコよかったー!!」



 妹の言葉にようやく観念した黑神君は色々と話してくれた。



 自分がわざとイジメられている事


 今みたいな怪物を日頃から退治している事


 実は人間離れした強さを持っている事



 特に強さに関しては妹がとても食いついた。



「ねーねー!私もお兄ちゃんみたいになりたいっ!」


「えー?大変だよー?」


「そうだよアユ、迷惑だよ?」


「ヤダヤダ、なりたいっ!」



 珍しく駄々をこねる妹に少し困っていたら……



「じゃあ、今度の休みにここにおいでよ。」


「何これ?」


「俺の家の道場のチラシ。」



 黑神君が差し出したのはごく普通の勧誘のチラシだった。



「黑神流道場?」


「ん、俺が直々に教えて上げる。良かったらおいでよ、えーっと、」


「小金井」


「そうそう、小金井さん!」



 忘れてたな黑神君





 それから色々あって、私と妹は黑神君……戒人君の道場で護身術を習う事になり、二人揃って普通の人より強くなったのです。








「はぁ」


「どうした鈴?」


「いや、ちょっとね。」


「素手でコンクリ砕いたの気にしてんのか?」


「戒人君はもう少し乙女心を学ぼうか?」



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