下にはまた下がある
とかん、とかんと体が揺れる
自由に動くこともできずに、ただ揺れてるだけ。
この感じを、僕は知っている。
捕縛されて、どこかに連れていかれている
とりあえず慌てずに、目を開けて状況を把握する
ちらりと周りを見たら、2人の人がいた
「ステイタス」
静かに声を出す
レベルは25、28.
あんまり高くない、でも、ゴブリンは5くらいだ
そして、昨日、僕はゴブリンに殺されかけたし。
このまま寝ているふりをすることもいいけど
慌てることもない。
異世界っていつもこんなことが起きることだとわかっているつもりだ。
「...僕をどこへつれていく?」
「...」
「...」
無視かよ。
「あの。」
「だまれ」
「はい」
情報を聞くことはだめっぽいだな
だとすると、仕方なく、推察するしかない。
自慢するほどではないけど、僕は大きい音とか、動きに敏感だ。
寝ているとき、大きな音がしたら、すぐに起きることはできる
「ふむ...」
またちらっと、隣にいる人たちの服をみる
鉄のよろい、顔も兜で見えない
でも、綺麗になっている
レベルの感覚としては、こいつら二人でセイに勝てるとは思えない
rpgというものは、25と28レベルが一緒に戦ったら53.
という簡単な答えが出ることではない。
25と28が一緒に戦っても、30にも勝てないゲームもある
だから、セイとこいつらが戦ったーということは考えられない。
だとすると、最悪の可能性が二個くらい出てくる。
まず一つはセイが僕を裏切ったということ
二番目は、43であるセイに一撃で勝てるほど、強いやつがいること
僕にとっていい状況はもう考えても無駄だと思われる。
「ついた、出ろ。」
「すまんけど、君たちに手を縛られているから動けねぇよ、アホか?」
こいつらたちが僕をここまで傷つけずに運んできたことはそれなりの理由があるはずだ。
だから、適当に時間をー
しゃっ!!
「縄を切った、出ろ」
「...ひゃい」
やめるか!
僕は命令に従って、外にでる
真っ黒なところだったから、目が順応するまで時間がかかった
結構寝ていたな。
そして、後ろを見ると馬車があった
「馬車に乗ったのか」
人生で初めての体験がこんな風になるとは
「僕の初体験を返して!」
「...は?」
「てめぇ、ちょっと黙ってろ」
「すみません」
二人に睨まれ謝る
まあ、こんな風にでもしゃべらないと心が折れそうな感じがするからだ
どうして3日間の間に事件が起きない日が一日もないのかな
「だめだよ?大事な人にそうしたらな?」
ーそして、闇の中から人が現れた
「は。」
レベル、54.
圧倒的すぎて笑ってしまった
目の前の人の服からは血が落ちていた。
予想どおり、最悪の展開だった
でも大丈夫、まだ。
「周りの状況を把握して、怒っているけど、頭は冷静になっているんですね」
目の前の人は、にやり、と笑って話を始めた
まだ、耐えられる
理性を失って、怒りにまかせて戦ったらころされる。
圧倒的な力の差が、目の前にある
感情を、必死に抑える
「で、なんで僕を連れてきたのかを、君は説明してくれる?」
「はい、もちろんです」
男は、にやり、と笑った
これ、絶対にいい話は出ないな
「まあ、悪い話ではないです」
嘘だ
「この人を助けたいなら、僕たちに協力してください。」
ぱあん
目の前で人が倒れる
血だらけになっている、セイだった
6章 下より下がある
「くそやろうめ」
「いえいえ、それほどではないです、これでも、結構やさしくしたと思うので」
「くはっ...」
倒れているセイは、口から血を吐き出した
理性が、抑えられない。
「でも、この人とは今日出会ったばかりだ、僕がそんな人のために何なのかもしらない人に手を貸すと思ってる?」
「はい、もちろん」
はい、あたり。
はったりは通じなかったか
「何をしたらいい?」
「ふつ...!!」
セイが僕を呼ぶことを無視する
「勇者がいる場所を、教えてもらいたいです」
「ふつ、教えるな! こいつらは教えたらすぐに君をころー」
「黙りなさい」
ぱああん!
ー音がして、セイが静かになった
見えなかった
何が起きたのか、何が起きているのかわからない。
でも、わかったことはある
それは、どんな行動をしても、無駄だということだ
動きが、何をしたのかもわからない速さだった
「ずいぶん落ち着いていますね」
「まさか」
今の気分だと、拳で顔に一発食らわせたい
でも、僕がどう行動しても、無駄だと気づいたら、冷静になってしまう
「でも、教えることはできない。」
「ほう、この人がどうなってもいい、と言っているのですか?」
こいつらが僕を殺さなかった理由があるはずだ。
「いや」
死にたくない。
だったら、考えろ
どうして今、僕は生きているのかを
どうして、僕は捕まったのだろうか
「それとも、死にたい?」
「いやいや、それは絶対遠慮しておく」
言葉に、威圧される。
一番可能性が高いことは、健一が裏切ったことだけど。
二番目は、僕がセイと話していることを聞いたこと
三番目は、それ以外
色々可能性を並べているときりがない。
「いま君が立っている状況をわかっているのか?」
「もちろん、わかっている。」
適当な答えをしながら冷静に、落ち着いて考えるんだ
一番目だったら僕には生きる可能性がないから論外だ
二番目だったら、僕にわざわざ勇者の居場所を聞く必要がない。
僕は、セイに言ったはずだ。
’永遠なる剣が寝ているところ’にあると。
「...知っているなら、こんな行動はしない方がいいと思うが」
「ぐっ」
男が言うと後ろから二人が来て、僕の両手を押さえる
どうやって、僕が勇者の居場所を知っているという情報を押さえたのか
それがわからない
だったら、逆に聞くか
「...だったら、君こそ、どうして、僕が勇者様の位置を知っていると思う?」
「ああ、それは簡単だ」
僕は、力で跪けさせられた状態になる
「君が、’永遠なる剣が寝ているところ’から来たからだ」
「は?」
神のくそやろが...!
「もう言い訳もできないだろう、勇者の居場所はどこだ!」
すると話が違う
つまり、だれも僕を裏切っていないし、ただの勘違いだと仮定する。
だと考えると、僕が空から落ちたときー
その、’永遠なる剣が寝ているところ’の反応があった、それとも、
その迷路が、実際は’永遠なる剣が寝ているところ’だった、ということである
「知らない」
「...ふう、仕方ないか」
後ろの人たちの力が強くなる
抵抗しようかなと思ったけど、僕はたぶんレベル1.
ザコの中でもザコ
力で勝てるわけがないだろうな
「だったら、骨を折ったら吐くかもしれないな」
「筋肉ばかだけがするような考え方だ」
ともかく、今の状態は
僕が真実(勇者の居場所)を言ったら、死。
嘘をついたら、多分、死
なので、僕には嘘をつかずに、真実を言わずに、何でもいいから情報をもらって、生きる方法を考えるしかない。
「はあ...やれ」
「はい!」
後ろから声が聞こえて
指を掴まれた
だとすると
「ちょっと待って!」
「...ようやく話す気になったか?」
そんなわけあるか。
今、僕が信頼することができる人は、目の前で倒れているセイだけだ。
そんな人が、目の前で倒されながら言った。
’居場所を教えたら、殺される’と
「まあ、条件がある」
ぱきゃっ。
「うわああああか...!?」
指から骨が折れる音がした
「君はこの話では何の権利もない、僕が殺そうと思ったら、すぐ死ぬ」
「くう...う...」
「死にたくないなら、言え、勇者はどこにいる」
痛い。
異世界に来て2番目の死にそうな痛みだ
頭が真っ白になって、言葉もでなくなる
「さっき...も...言ったな! 条件があるって...!”
「君に選択肢は二つだ」
ぱきゃっ。
2回目。
「いま死ぬか、勇者の居場所を言うか」
「ふ...はあ...!」
もう目の前も真っ白だ
前のうざい顔が、2個に見える
「君...も...選択肢...は2個だろう...?」
「...はあ」
僕を殺すか、条件を聞くかだ
さっき、こいつは僕に何の権利もない。と言ったが
それは間違いだ。
「僕を! 殺したら...! 君たちは何にも得られないことくらいは知っている...」
冷静になれ。
慌てずにが一番大事だ
泣いて、助けを呼んでも誰もこない。
そんな経験は、1回で十分だ。
「君と俺は、今、同等じゃない」
「同等だよ? 君がそう思いたくないだけ...!」
うそだ、絶対に同等ではない。
だが、教えて僕が生き残る可能性を考えるよりは、生きる状況を作るため交渉し、その後を考えるんだ
「だったら聞いてみるか、条件を」
はきっ
やった。
と思ったらまた、骨が折られる音がした
「と、言うことを期待するな」
「はあ...くうは!」
体に限界が来た
全身に力が入らずに、後ろの二人に手だけ掴まれて、頭が地面に落ちそうなところを止めている
悲鳴を上げることが限界、精神も限界。
いま諦めたら、楽になれる。
「別にいいだろう、言ったら生き返らせてあげるからさ」
あきらめて、居場所を嘘でも、それとも真実でも言ったら殺される
その方が、いいんだ
...でも
「耳に直接いうな...きもいから...」
今、死ぬわけには行けない
ぱきゃっ。
でも、死ぬほど痛くなった。
言葉には注意しよう。
その後。
僕には永遠みたいな時間だったが、実際には10分も過ぎていないだろう
「...どういっても、君は話さないだろう」
痛みで悲鳴も出ない
ただ、気絶はせず、何とか耐えている
「仕方ない、 殺せ」
「条件は...聞かないの...か...」
「聞く価値もない」
もういいと思うと、両腕を捕まえていた力が消えて、土の上に倒れた
するん
鉄の音
初めて聞いたけど、気持ち悪い音だ
「最後にー」
「うるさい...もう聞きあきたから...死ぬことは初めてじゃないから、早くしろ...」
終わると、何にもない、真っ白な空間だけ。
痛みはない、ただ、自分が沈むだけだ
痛みが消えることだけを、今は望んでいる
「はあああ...なんだ、条件は」
でも、その言葉に、あきらめて、なくなりかけた意識が戻った
「ー君の後ろで倒れているあいつを回復して逃してくれ」
僕は生き残る可能性が一番高い選択肢だけを選んだらいい。
「代わりに、君は何をくれる?」
「勇者の居場所までの...! 道を直接案内...しよう...」
「なんだ、知っていたのか?」
「忘れてた。」
全部うそだけどさ。
「ふむ、おい、倒れているやつを起こして来い」
「は!」
後ろから声が聞こえて、どこかに移動する
「ボロボロだな、そこまでする価値があることか?」
「お前...に...価値がある...ものなら...死んでもあげたくないな...」
言葉通り、最悪の状態だし。
「...えらいな、頭がいいというか、自分が生きる道をよく知っている」
「君に...褒められても...反吐が出るだけだ...」
「まあ、でもー」
「連れてきました!」
なんか言うように見えたが、後ろの兵士に言葉を切られた
「よし、わかった、またこいつを捕まえていろ」
「は!」
そういい、前の人は剣を、セイの首にあてた
「さて、先の言葉の続きだが」
「なにを...している!」
「でも、あんなふうに言うと、自分の弱点を言うことと同じだ」
「だから、何を...!」
「こいつの命を救いたいなら、勇者の居場所を言え」
焦った
セイが生きたらそれでいい、と考えたこともある
だが、同時に、セイは僕が生きるための最後の希望だと思った
セイが回復すると僕が生きる可能性が高まる
そう考えた上でかけた条件だったから
「くそ!! やめろ!!」
「10秒あげる、君は賢いやつだから、俺に何を言うべきなのか...まあ分かると思う...」
「てめええぇぇ!!やめろううう!!!」
ぱきっ、とまた骨が折れた
「くふうあああ!!!」
「7」
言っても無駄だ
言わないと殺される
生きる道が、何も見えない。
「くそ...った...れ」
剣が下がる
「5」
助けて、だれか
僕じゃなくて、あそこに倒れている人を、だれか
「心の中では、今死ぬことが君じゃなくて、感謝しているな」
「違う...!!」
「1」
そして、
僕は、目を閉じた