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望む未来。




「リューネ、見舞いに来たぞ」

「なんだよ。来なくていいって言ってるだろうが」


 畑作業の合間を縫って、ラウルはリューネを見舞っていた。王国軍との戦闘の中で、リューネはラウルとエルを守るために竜装王具の一撃を受け止めた。

 自身が持つ心具『空穿慟哭(ソラヲウガテ)』を失ったものの、リューネは見事ラウルたちを守ってみせた。


 その代償として、リューネは甚大なダメージを負った。左腕と右足が折れ、内臓は損傷した。治療が遅かったら死んでいたかもしれないほどだ。


 会話するほどの気力は取り戻したものの、正直な話、どうして生き延びられたのか、と呼び寄せた医者に言われたほどだ。


 かろうじて命を繋ぐことが出来たのは、他でもない魔法の力だ。

 エルは魔族であるからある程度の魔法も使え、リューネもまた人とエルフの混血児として魔法を使うことが出来た。


 意識を取り戻すまでは拙いながらもエルが懸命に処置を施し、気力が戻ってからはリューネが自分自身に治癒速度を高める魔法を掛け続けている。


「まだ動けそうにないな」

「そうなんだよ。ったく、せめて母さんからもうちょっと魔法を教わっておけばよかったぜ」


 見た目はぼろぼろなリューネだが軽口を叩くくらいの気力はある。

 とはいえ今は絶対安静の身。暇を持て余しているようだ。


 けれど悪態を吐く様子は一切なく、いつになく清々しい顔をしている。


「なあ、ラウル」

「どうした?」


 リューネが話し相手を求めていることを察したラウルはどかっと座り込む。

 畑仕事も落ち着いている。十数分くらいの雑談は構わないだろう。


「オレは、やっぱり呪われてたんだな」


 動かせる右手を見つめながら、リューネはぽつりと呟く。

 それはリューネが持っていた竜装王具カインズ・ヘルのことだ。


 リューネは、呪われても構わない。始めから人間も魔族も憎んでいたのだか――と、呪いを指摘されてもなお意見を変えることはなかった。


 境遇を知っているラウルはそれ以上は何も言わず、リューネの心のままに任せていた。

 だがそのリューネ自身から、実感を伴った言葉を聞かされる。


「自分でも驚くくらい、頭がスッキリしてるんだ。恨んでる気持ちがない……わけじゃないけど、あんなにも全部を壊したいって激情が、どっかに行っちまったんだ」

「……そうか」


 解き放たれたからこそわかる感覚にリューネはまだ戸惑いを見せている。

 ラウルはしっかりとリューネの言葉を待つ。きっとリューネは、聞いて欲しがっているから。


「激情に任せてけっこうな数の命を奪ってきた。それを悔やむつもりはない。激情に駆られたとしても、憎んでいた気持ちはゼロではないから。……だけど、罪は償うべきだ、と考えている」


 以前のリューネであれば、殺してきた人たちのことだと知らんと突き放していただろう。

 それよりも目に付く全てを殺すことが言わんばかりに狂気に捕われていた。

 リューネは伏せていた目を開くと、真っ直ぐな瞳でラウルを見つめる。

 その吸い込まれそうな蒼穹の瞳に見つめられ、ラウルの鼓動が早まる。


「オレは、この村を……争いを望まない人々を守る。それが、オレに出来る償いだ」

「うむ。リューネがそう決めたのなら、余はその思いを肯定しよう」

「争いを終わらせたい気持ちはある。姫様の仇を討ちたい気持ちもある。……でも、姫様だったらきっと『自分の居場所を守りなさい』って……言うと思うんだ」


 ラウルはカインズ・ヘルを装着した際に、リューネが想う姫・リンネの姿を垣間見た。

 世を想い、平和を願う気持ちを確かに感じ取った。

 確かにあの姫君であれば、リューネには争いを止めることよりも、平穏に暮らして欲しいと願うだろう。


「だから、その……。領主との約束とかじゃなくてだな」

「ああ、わかっている。この村で暮らしてくれ。余たちと共に、村を守ろう」

「……ああ!」


 にか、と子供のようにリューネが笑う。きっとその笑顔は、放浪の旅を続けている中では決して見せることのなかった笑顔。

 本当の意味で、ラウルはリューネの笑顔を見ることが出来た。


「リューネよ。余も考えていることがあるのだ」

「あ?」

「余は、一度は死んだ身だ。人として生まれ変わって、ずっと何をすべきか考え続けていた」

「そうだな。ずっと悩んでたよな」


 ラウルはリューネに自身が竜王であることを明かしている。

 そして、ラウルが生まれ変わった意味を求めていることも知っている。


 そのラウルが真剣な表情でリューネを見つめている。つまり、生まれ変わった意味を見つけたのだろう。


「余は、失った命を背負うべきだと考えていた。責任を感じ、全てを背負おうとしていた。……違うのだ。ジオードたちとの戦いでカインズ・ヘルを得た余は……そこでようやく、自分の気持ちに気付けた」

「じゃあ、託した意味があったんだな」

「うむ。余は、『背負わなくてはならない』という考えに固執していた。余は、背負いたいのだ。この世界に生きる人たちを、平和を望む人たちを。彼らが平穏に暮らせる世界を、作りたいのだ」

「っは。随分大それたことを言うじゃねえか」

「そうか?」

「そりゃそうだろ」


 くつくつと笑い出すリューネだが、その表情は明るいものだ。ラウルが得た答えに何の不満も抱いていない。


「それは、人間も魔族も等しく平和に暮らせる世界か?」

「ああ。生きるのに人も魔族も関係ない。命は平等だ。人も魔族も、平和に、幸せに、自由に暮らすべきだ」

「……だったらそれは、姫様が望んだ未来と同じだ」


 天井を見上げたリューネは一度目を伏せる。亡き姫君に想いを馳せ、固く結んだ口を開いた。

 痛む身体に鞭打ちながら、ラウルと正面を向いて見つめ合う。

 その真剣な眼差しは、少女以上に騎士であることを確信させるものだった。


「竜王ラウル。このリューネ・モルドレイト、貴殿の思想に共感し、微力ながら、お力添えをさせて頂きたい」

「――ああ。竜王ラウルの名において、そなたの力を貸して欲しい。我らが理想のために。平和を望む人たちのために」


 慣れない言葉遣いで言葉を交わした二人はがっしりと握手を交わす。

 二人の表情には影も迷いも感じられない。

 未来を夢見た二人は、繋いだ手に力を込める。決して離さないと誓うように。


「どうすればいいかは、まだわからない」

「それでもいいだろ。まずは目の前の幸せを守ることからだ」

「ああ。エルやルイン、それにジオードも協力してくれる」

「ったく。敵まで巻き込んで……」

「戦の終わりを望み、平和を望む者は敵ではない。同志だ」

「はははっ。そうだな。同志か。うん、いいなそれっ!」


 握手を解き、拳と拳をぶつけ合う。

 リューネはとびっきりの笑顔を見せ、ラウルはその心強さに胸を打たれるのであった。




 一章・生まれ変わった意味を求めて-FIN

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